女性競輪史上最高齢の50歳でプロデビューした元競輪選手の高松美代子さん(62)は、夫の急死と自身の大ケガで引退することに。しかし、その後も老け込むことなく、夢への挑戦を続けています。そんな清々しい年の重ね方をするにはどうすればいいのでしょうか。(全2回中の2回)

夫の急死、自身も骨折…周囲に辞めるよう言われて

高松美代子さん

── 2017年、現役を引退されたのはなぜでしょうか?

 

高松さん:大きなケガをしたのと、夫が突然亡くなったためです。2016年7月の前橋でのレースで首の第一頸椎を2か所も骨折したんです。もし第二頸椎、第三頸椎だったら半身不随になっていたかもしれないと言われるほどの大ケガでした。3か月ほど休養し、レースに復帰しましたが、その後は思うような成績は得られませんでした。

 

さらに2017年に入り、夫が突然亡くなりました。夫も自転車が好きで、ある休日、私がトレーニングに行っているときにサイクリングコースを走っていたようです。その休憩中に倒れたらしくて…。夕方、私が自宅に帰宅したら「旦那さんが倒れて救急車で運ばれました。至急病院に行ってください」と、警察から留守番電話が入っていました。急いで駆けつけたのですが、翌日亡くなって…。前日までいつもと変わらない様子でとても元気だったんです。原因も不明で、あっという間のことでした。

 

高松美代子さんと夫
自転車好きの夫と一緒にレースに参加することも

大ケガ、夫の急死と大きなできごとが続き、競輪選手を続けることを周囲に反対されました。私自身は2020年の東京オリンピックまで現役を続けたかったのですが、万が一、私にまで何かあったら娘たちのショックは大きいだろうと思って…。2017年3月、55歳を迎える年に千葉競輪場で現役を引退しました。2012年のデビュー以来、プロ競輪選手として過ごす日々は本当に充実していました。

引退後はチームでのレースに興味「1900キロ走ることも」

── 引退後も長距離レースを続けているそうですね。

 

高松さん:現役引退後、しばらくは自転車競技からは遠ざかっていました。でも、2020年にNHKの『あさイチ』に出演したところ反響が大きくて、昔の自転車友だちからも「また一緒に走りましょう」とたくさん連絡をもらいました。それで、また自転車に乗ろうかなと思ったんです。「ブルベ」という、タイムや順位にこだわらない長距離サイクリングイベントがあるのですが、友人がグループで参加するというので、一緒に行かせてもらうことにしました。青森まで650キロ走るレースを4人グループで走ったのですが、そのときに「チームで走るってこんなに楽しいんだな」と思ったんです。ときには励まし合ったり、協力し合ったりして一体感もあります。ゴールしたときはみんなで喜び、ひとりでストイックに戦うときとはまた別の達成感を味わえたのが、新鮮でした。

 

もともと負けず嫌いなのか、走り始めると「絶対に勝たなくてはいけない」と闘争心が燃えてしまうんです。プロ競輪選手になる前に出場した東京から新潟県の糸魚川まで走るレースでは少しでもいい成績を残そうと、10時間ぶっ続けで走ったりしていました。でも、これからはもう少し余裕をもって「楽しむこと」を心がけたいと思っています。今年の5月に、川崎から北海道の納沙布岬まで1900キロを走るレースに出場したんです。3人チームで出場して、8日間かけて走りました。その間、いろんな出会いがあって楽しかったです。他の参加者に話を聞くと「途中で温泉に入ってきた」とか「名物料理を楽しんだ」という人も。観光などもしつつ、自転車を走らせるのも楽しそうだなと思っています。

 

自転車レースで完走した高松美代子さん
今年は川崎から北海道の納沙布岬まで1900キロ走るレースで完走

とはいえ、大きな目標を設定して達成するのも好きです。2023年にはフランスで1200キロのサイクリングイベント(PBP)を完走しました。今年はイタリアの1600キロのコースに挑戦したのですが、豪雨でナビが壊れて3回の落車でハンドルが握れなくなり、1315キロでリタイア。そこから300キロ離れた宿泊先のホテルまで自転車を持って電車に乗り、ひとりで帰りました。このときが一番ハラハラ、ドキドキしました。来年も、LEL(ロンドンエジンバラロンドン)という1530キロのコースに挑戦するつもり。今後の夢は仲間とチームを組んでアメリカ大陸を横断する5000キロのレースに出場すること。挑戦はずっと続けたいです。

「感謝の気持ちを忘れないこと」がアスリートの第一歩

── ガールズケイリンのサポートスタッフとしても活動されているそうですね。

 

高松さん:女性選手の悩みや要望を聞き、運営スタッフに伝えたり、問題解決をしたりしています。現役の女性競輪選手に伝えていることは、「感謝の気持ちを忘れないこと」です。もともと女性選手による競輪は、1949年から1964年まで存在していました。でも、人気が低迷していて廃止されたんです。「競輪界の黒歴史」と言われるほどでした。2012年「ガールズケイリン」として復活しましたが、当時は「ガールズケイリンは5年持てばいいだろう」と言われていて。

 

その予想に反し、ガールズケイリンは人気が出て、今年で12年目を迎えます。競輪は個人競技ですが、選手はひとりで走っているわけではありません。コースや自転車のメンテナンス、食事作り、健康サポートなど、裏でたくさんの人が支えてくれるんです。選手たちには日ごろから「自分の力だけで走っているとは思わないように」と言っています。サポートしてくれる人たち、応援してくれるお客様への感謝の気持ちはずっと持っていてほしいです。それがガールズケイリンをさらに発展させる底力になるのではないか、と思っています。

 

PROFILE 高松美代子さん

たかまつ・みよこ。元女子競輪選手。1962年大阪府生まれ。水泳、トライアスロンなどを経験後、多くの自転車のロードレースで優勝を重ねる。2011年、日本競輪学校の女子第1期生に。2012年、女子選手の最高齢50歳でプロデビュー。2017年4月現役引退。現在は日本競輪選手会指導訓練課に所属し、ガールズケイリンのサポート業務を行っている。

 

取材・文/齋田多恵 写真提供/高松美代子、公益財団法人JKA