アニメが世間ではメジャーなものでなく、「オタクっぽい」とされていた時代がありました。『名探偵コナン』の遠山和葉役などを演じる人気声優の宮村優子さんは、その後のアニメをとりまく環境に驚きつつも、声優の魅力について話してくれました。(全4回中の1回)
短大で演劇を学び俳優を志したんですが…
── 宮村さんが声優になったきっかけを教えてください。
宮村さん:お芝居が好きで、短大では演劇科で勉強をしていました。卒業後の進路を考えたとき、先輩たちのほとんどがどこかの劇団に入団するか、自分たちで劇団を旗揚げしていたんです。私も先輩たちと同じように劇団に所属し、俳優として舞台に立ちたいと思いました。でも、俳優だけだと収入が厳しい場合が多くて…。先輩たちにもナレーションや声優などの仕事をしている人がいて、挑戦したくなりました。私はもともと地声が高くて、いまだったら「アニメ声」と言われる声なんです。子どものころから「声が特徴的」と言われていたから、それを活かそうと役者と並行して声の仕事を始めました。
── 宮村さんは『新世紀エヴァンゲリオン』の惣流・アスカ・ラングレー役で脚光を浴びた印象が強いです。アスカ役に抜擢されたのはどんな経緯があったのでしょうか?
宮村さん:アスカはオーディションで決まりました。当時は声優の仕事を始めてまだ1~2年の新人で、たしか初めて受けたアニメのオーディションが『エヴァ』だったと思います。最初は綾波レイ役を受けたんです。いまでこそ私は、元気で気の強い女の子の役が合うと思われているようですが、本来はすごく引っ込み思案なタイプ。事務所からも、おとなしいと思われていました。オーディションを受けたら、綾波レイはちょっとイメージが違ったみたいで…。急きょ、アスカのセリフを渡されて「これを読んでみてください」と言われました。それでアスカに合格しました。声優の世界では、ある役のオーディションを受けて、別の役に決まるのは声優にはよくあることなんです。
── アスカ役に決まったときはどんな気持ちでしたか?
宮村さん:すごく嬉しかったです。でも、当時は新人だったし緊張の連続でした。アフレコでは声優の大先輩ともご一緒するんです。尊敬する方たちばかりだから、「新人の私がご一緒させていただいてすみません」って感じでした。でも、そういう気持ちでいるとお芝居になりません。本番では自分を押し出す感じで、体当たりで演じていました。
声優をし過ぎると声帯にタコのようなものができて
── 人気声優となり、歌などもリリースされて多忙だったのではないでしょうか?
宮村さん:声優は、とにかく話し続ける仕事です。ある耳鼻咽頭科の医師によると、一般的な大人が1日に話す時間をつなげると、平均すると1時間程度らしいです。声優は、たとえばフルボイスのゲームの収録だったら、休憩をはさみつつ、ひとりで8時間話すこともよくあります。複数のアニメ作品に出演している場合は、連日のように収録が入り、声帯を休ませる時間がなくなるんです。
ずっと話していると、声帯の同じ部分を使い続けることになります。すると声帯がこすれて「結節」というタコみたいなものができ、悪化するとポリープになってしまいます。いつも声帯が炎症を起こしている状態でしたが、仕事に穴を空けるわけにはいかず、ムリを重ねていました。すると、だんだん声がかすれてくるんです。当時はのどの筋肉注射というものがあって、収録前に打つこともありました。注射で声帯の炎症を抑えるのですが、対処療法に過ぎないから、また同じことの繰り返しで…。
── 本当に多忙で、体を酷使していたのですね。
宮村さん:声帯に負担をかけ続けていたら最終的に声が出なくなり、結局はお休みをいただきました。身体を酷使して頑張っても休むことになります。だったら最初からムリをしないのが一番だと学びました。最近は声優業界にも働き方改革があり、わりと休みをとれるようになってきていると思います。