息子さんが誕生して112日後に、最愛の妻を亡くしたフリーアナウンサーの清水健さん。母親と同居しながら、シングルファザーとして奮闘する日々のなかで、情けない自分に気づけたといいます。(全2回中の2回)

「今日は疲れた」と気軽に言える相手がいる幸せ

フリーアナウンサーの清水健さん
清水健さん

── 著書の出版や講演活動など、がん患者やその家族へ向けてご自身の経験を発信していらっしゃいます。

 

清水さん:『112日間のママ』を出版させてもらったことは、これから大きな意味をもってくるのかなと思います。10歳になる息子は、母親のことを覚えていない。でも、僕たちは間違いなく3人でいた。『112日間のママ』には、息子の知らない母親の姿が詰まっているので。

 

多くの方が「こんな僕に話してくださっていいのかな」と思うようなことを話してくださいます。つらい経験を誰にも話せず、我慢している方々がたくさんいる。話してくださいね、ではなくて、話したいときに話せる場は必要なのかなと思います。僕に何かができるわけでは決してありませんが、そういう場所をみなさんと共有できたらいいなと思っています。

 

── シングルファザーの会も主宰されています。

 

清水さん:何か特別なことをするわけではありませんが、ポロッと本音を話せることがあるんですよね。「うちはこうだったんです」と壮絶な闘病生活を話してくれたシングルファザーの仲間がいて。それをきっかけに、みんなが自分の経験を無理にではなく話すことができたことがありました。命と向き合うなかで、みんなが多くのことを悩み、後悔していることもあったり、話すことが怖かったりもする。でも、「ここでなら話せる」という空間があることは救いになります。

 

シングルファザーに限らず、誰もがみんな頑張っていて。でも「ああ、今日は疲れたな」というときはあるはずです。僕自身も妻がいてくれたときにそうだったように、当たり前すぎてなかなか気づけないかもしれませんが、「今日は疲れたね」と言える相手がいるって、すごく幸せなことで。いま、隣に妻がいなくなって気づくことがいっぱいあります。

 

フリーアナウンサーの清水健さん
講演会で登壇した際の一枚

── お母さまのサポートは?

 

清水さん:40歳を過ぎて親と同居するとは思ってもいなかったです。母もそうだと思います。70歳を過ぎた母に頼らざるをえない現実。苦労をかけてしまっているという申し訳なさ、うしろめたさはどうしてもあります。家族だからこそ、お互いに気を使って言えないこともたくさんあるし、どうでもいいことでイラっとしてしまうこともあります。「もういい、全部オレがやる!ほっといて」と言ってしまったこともあります。できもしないのに、情けないですよね。いまは素直に「できない」「頼む」と言えるようになりました。できないことはできないですから。自分の弱さを認めることで変われたことがあると思います。

 

僕と息子の2回、子育てをさせてしまっている母には、感謝しかありません。こんな経験なんてしたくなかったですけど、もし妻がいてくれたら、僕は母にこのように感謝することはなかったかもしれません。姉も週に何度も来てくれて、多くのサポートしてくれていますが、姉ともこんなに話をすることはなかったかもしれない。妻がそうさせてくれているんだと思います。

 

10歳になった息子さんと
10歳になった息子さんと

── 息子さんは10歳になったのですね。

 

清水さん:小学4年生です。僕といるときはもう手もつながなくなりました(笑)。でも、親目線かもしれませんが、優しい心に育ってくれているなと思います。ばあちゃんが、暑い日に買い物に行き、帰りが遅くなったとき、ばあちゃんのLINEに、息子から「どこかでしんどくなってない?大丈夫?」とメッセージが届いたそうなんです。うれしい息子の成長ですよね。そんな息子と一緒に、親孝行、ばあちゃん孝行ができるように、母にはそれまで元気でいてもらわなくちゃいけません。