布教使や教誨師として活躍している、香川県の真宗興正派「慈泉寺」の片岡妙晶さん(29)。刑務所やトー横で少女たちと出会い、感じたこととは?現在社会の課題とともに語ってもらいました。(全2回中の2回)

教誨師として女子少年院で道徳観を伝える

布教使や教誨師として活躍している「慈泉寺」の片岡妙晶さん
布教使や教誨師として活躍している「慈泉寺」の片岡妙晶さん

── 片岡さんが活動している「教誨師(きょうかいし)」とは、どのようなお仕事ですか?

 

片岡さん:私は刑務所などで受刑者に道徳教育などの授業を行い、正しい道へ進めるように導いています。宗派は特に関係なく、僧侶や神父、牧師などが教誨師として活躍しています。私が教誨師のことを知ったのは、2〜3年前。SNSでフォロワーの方から、「刑務所の慰問をしてみるのはどうか」という声をいただいたのがきっかけです。そのときに教誨師の存在を知りました。

 

私は実家のある香川県の慈泉寺にいますが、後継には兄がいるためお寺にいる必要はありません。寺で待つだけでなく、自ら社会に入っていけることが自分の強みであり、そのような活動の仕方を模索していたときに教誨師という役職に出会いました。「新しい動き方」に捉われていた自分の浅ましさに気づかされ、「すでに社会に存在し、必要とされている仕事」をまっとうし、後進へ繋げていきたいと感じ、志すことを決めました。

 

── どのようにして教誨師になるのでしょうか?

 

片岡さん:教誨師という特有の資格があるわけではなく、牧師や僧侶としての実績と前任者などからの推薦が必要となります。私は前任者の推薦で、現在は香川県丸亀市にある「丸亀少女の家」で2023年4月から教誨師をしています。

 

教誨師の仕事はさまざまな課題を抱えています。たとえば、親の愛情を十分に受けなかった子どもたちが多いため、そこを補うために母性が必要とされ女性の教誨師が求められているようです。ただ、刑務所での仕事は危険も伴うため、女性の教誨師は少ないのが現状です。

 

また、特に少年院ではなく大人の刑務所は再犯率も高いためやりがいを見つけるのが難しく、熱心に寄り添いすぎるとストーカーが生まれてしまうこともあります。

 

「少年犯罪というのは大人の責任」と語る片岡さん
「少年犯罪というのは大人の責任」と語る片岡さん

── 具体的に「丸亀少女の家」でどのようなことをされているのですか?

 

片岡さん:教誨師としてというわけではありませんが、施設の試みとして倫理観や道徳などを伝える「教養講話」という授業の講師を月に一度担当しています。宗教に関する話はせずに、子どもたちが理解しやすいコミュニケーションに関する話などが中心です。イラストを交えながらわかりやすく伝えています。

 

女子少年院と聞くとやんちゃな子どもが多いイメージでしたが、実際に訪れてみて感じたのは、素直な子が多いということ。みんな熱心に話を聞いていて、授業後のアンケートも丁寧に書いてくれます。回数を重ねるにつれ表情も柔らかくなり、笑顔も見せてくれるようになりました。

 

そういう子どもたちと接していると、つくづく少年犯罪というのは大人の責任ということを感じます。子どもの環境を大人が変えてあげることが大切なのだと思います。

子どもが大人に甘えられない状況を変えるべき

トー横キッズに会いに東京・新宿へ
トー横キッズに会いに東京・新宿へ

── いま社会問題となっている新宿の「トー横キッズ」にも会いにいかれたそうですね。

 

片岡さん:「トー横キッズと気が合いそう」という声があり、2023年夏に東京に行く用事があったのでそのタイミングで立ち寄りました。私が話したのは女の子のグループだったのですが、同年代の不登校の子どもに比べて、みんな素直で警戒心がなく人当たりがいいんです。私が話しかけると受け入れてくれて、すぐに輪に入れてくれました。

 

接してみて、「その日」「その時間」という短い時間軸で生きている彼らは、瞬間的に相手と仲良くなることが、そこで生きていくための一種の防衛反応なのではと思いました。そこにいた女の子たちはトー横で知り合った子たちで、その子たちはその輪に入れなかったらもう居場所がないという緊張感のなかで生きています。今日の居場所をつくりたい…だから人当たりがよくて人懐っこいのかなと感じました。

 

子どもたちを取り巻く社会課題に日々向き合っている
子どもたちを取り巻く社会課題に日々向き合っている

── そこから何か現在の社会の課題は見えましたか?

 

片岡さん:トー横にいる子どもだけでなく、学校に通っている子どもたちを見ても、全体的に大人に信頼を持てていないんです。特に問題を起こすような子どもでなくても、学校が楽しいわけではないけれど、保護者や先生を怒らせないために行くという感じで気を使っている。大人がヒステリーを起こさないように、子どもが合わせているんです。

 

原因のひとつには、大人自身がやりたいことや自分の幸せを求めすぎて、子どもを受け止める余裕がないというのが挙げられると思います。たとえば少し前にSNSで話題になった「#教師のバトンプロジェクト」。SNS上で教師が仕事の現状や問題点、魅力について発信するプロジェクトですが、あれってもちろん子どもも見ることができるんです。そうすると大人の現状を知った子どもたちは、大人に甘えきれなくなってしまう。大人が困らないようにと、子どものほうが大人に気を使う状況が生まれてしまっています。

 

── どうしていくべきだと感じますか?

 

片岡さん:私としても大人もなかなか余裕がないことは十分理解していますが、やはり子どもたちのために大人が変わるべきだと思います。大人が気をつけることで子どもも安心して、大人に頼れるようになっていく。ニュースなどでのマイナス発言ばかりを聞いて大人の苦しさを知ってしまうと、「大人になっても楽しいことはない」と、子どもはどんどん将来に希望を持てなくなってしまうように感じます。

 

寺で待っているだけでなく自ら社会に入っていける立場として、トー横キッズをはじめ、もっと社会の輪に参加していきたいと思っています。難しい仏教用語で説教をしたいわけではありません。僧侶がみんなの輪の中にいることで、ちょっとした雑談でも雰囲気が変わります。そこで、いつもよりもちょっと深い話がしたくなったり、そこで悩みが解決していくような空気を感じてほしい。今後も活動の輪をどんどん広げていきたいです。

 

僧侶・片岡妙晶さん
僧侶・片岡妙晶さん

PROFILE 片岡妙晶さん

1995年、香川県生まれ。真宗興正派・慈泉寺の長女として生まれ、現在は布教使や教誨師として活動。現在は通信制サポート校「無花果高等学園」の運営に参画。

取材・文/酒井明子 写真提供/片岡妙晶