「うちの子は元気だし、目がちょっと悪くても…」なんて軽くみていたら、子どもの人生を変えてしまうかもしれないのが、幼児期の弱視や近視です。いま、子どもたちの目に変化が起きていると言われています。

近視用メガネをかける幼稚園児・保育園児が増えている

目が悪くメガネをかける女の子のイメージ

いまや視力1.0未満の小学生は、4割近くにのぼります。文部科学省の「学校保健統計調査」(2022年度)によると、裸眼視力1.0未満の小中高生の割合は過去最高に。日本眼科医会の近藤永子医師も、医療の現場で「近視の幼少化を実感している」といいます。

 

「かつて近視用メガネを作るために受診する子どもは、小学4~6年生に多く見られましたが、最近は未就学児や低学年が増えています。低年齢で近視になった場合、近視の進行が早い。強度近視になると、将来緑内障など目の病気にかかるリスクが高まります」

 

近藤医師によると、近視が幼少化している背景には、小学生へのICT教育の推進やコロナ禍によるおうち時間の増加で、スマホやタブレットの利用機会が増えたことも考えられるといいます。子どもの学習や子育てツールのひとつとして、スマホやタブレットを活用している家庭が多いなか、子どもの視力を守るために、どんなことに気をつけたらよいのでしょうか。

 

「子どもにデジタルデバイスを与える際に、『1日何分まで』といったルールを決めることです。ちなみに世界保健機構(WHO)のガイドラインでは、2~4歳の場合、1日1時間まで、とされています」

 

とくにスマホは、20センチ程度の近距離で画面を集中して見てしまう傾向があるため、長時間使いつづけると急性の内斜視(目が内側に寄ってしまう状態)になってしまうことも。近藤医師は、画面と30センチ以上距離を保つことや、休憩を挟みながら使用することはもちろん、親の見守りや声かけも重要だと話します。

 

「子どもは画面に夢中になると、ルールをおろそかにしてしまうことが。やはり、一番重要なのは、スマホに子どもを任せきりにするのではなく、保護者がときどき様子を見て『そろそろ休憩しようね』など、声をかけることです」

メガネやコンタクトレンズをつけても弱視は「一生、視界がぼやける」

子どもの目を守るため、近視の幼少化や弱視見直しを防ぐことに関心が高まっています。幼児の視力検査については、平成24年度の保育所での実施率は34.7%、令和2年度は30.5%と低迷している状況です。しかし、幼児の視力検査は「弱視」の見落としを減らすためにとても重要だと近藤医師は言います。

 

「弱視とは、メガネやコンタクトレンズをしても視力が1.0に満たない状態のことで、近視などで裸眼視力が悪い状態とはまったく異なります。

 

子どもの目は、赤ちゃんのときはぼやけて見えていますが、視機能は3歳ころまでに急速に発達し、6歳ころには視力1.0程度に。その後もゆるやかに成長を続け、8歳ころには大人と同じ程度の機能を得ます。

 

しかし、視力が発達する幼児期に先天性の白内障や斜視・遠視などで鮮明にものを見る経験が積めない場合、脳の『見る機能』の発達が妨げられて弱視になってしまうのです」

 

弱視は、治療や矯正はできないのでしょうか。

 

「弱視は、3歳ころから治療を開始すれば、小学校入学までに改善します。しかし、8歳を過ぎると治療そのものが難しくなってしまいます。

 

近視とは異なり、弱視は適切な時期に治療をしなければ、メガネやコンタクトレンズを使っても一生ぼやけた視界のまま過ごすことになるため、早期発見・治療が大切です。6歳までに視力1.0を育もうと願いをこめて、昨年より6月10日は『こどもの目の日』として記念日制定されました。ぜひ覚えてくださいね」

3歳児健診で「要精密検査」になったら必ず受診を

弱視を見つける検査として、自治体で行われる3歳児健診での視力検査が挙げられますが、近藤医師は、幼児の視力検査には特有の難しさがあるといいます。

 

「これまで3歳児健診の多くは、家庭での視力検査と問診が主流で、3歳だと視界がぼやけていても『見えてるよ』と答える子もいます。弱視は50人に1人と言われるなか、3歳児検診で発見できる弱視の子どもは全体の1%に満たず、見落とされてしまう子どももいました」

 

そこで、日本眼科医会は子どもに機械の画面を短時間見つめてもらうだけで、弱視の原因となる強い近視や遠視、乱視の有無や、斜視(目の位置がずれている状態)を検出する『屈折検査』の導入を推進。その結果、2023年度には8割を超える自治体が3歳児健診で屈折検査を行うようになり、弱視の発見率は2~3%まで上昇したとの報告もあります。

 

「しかし、要精密検査になっても、4分の1の子どもは精密検査を受けていないのが現状です。ふだんの子どもの様子に変化がないと、『もう少し大きくなってからでもいいのでは』と、検査に行くことがおろそかになるケースも多いのですが、要精密検査になったら、必ず受診していただきたいです」

 

3歳児健診で見落とされた弱視を、6歳の就学前健診までにキャッチアップできる重要な機会が園での視力検査ですが、日本眼科医会の調査によると、未就学児の視力検査に必要性を感じていない園も多く、実施率は上がっていません。では、子どもの弱視を見落とさないために、家庭でできることはあるのでしょうか。

 

「片目の弱視は外から見てもお子さんの様子でもわからないことが多く、検査しないと見つけるのは難しいところです。少しでもお子さんの目の様子や、ものを見る様子に気を配ってあげてください。

 

具体的には黒目の中心部が濁っていないか、また、過剰にまぶしがる、片目だけつぶりながら見る、首をかしげながら見るなどの様子があれば、眼科を受診してください」

弱視なら保育園や幼稚園でも「メガネは外さないで」

弱視、近視ともにメガネを使うことになりますが、小さな子どもの使用にあたって、どんなことに注意すればよいでしょうか。

 

「最近は丈夫な子ども用メガネや、ズレ防止の固定バンドなどのアイテムも作られているので、安心して使っていただければと思います。

 

保育園や幼稚園のなかには、『メガネは危険だから、園では外して』という園もあるようですが、とくに弱視の治療では、メガネを決められた時間、かけつづけることが必要です。眼科医と相談しながら、指示されたかけ方を守ってください」

 

子どものコンタクトレンズ使用については、どうでしょうか。

 

「コンタクトレンズは、正しい管理が必要とされる高度医療機器なので、自分で正しく管理できるようになるまでお勧めしません。個人的には、正しくケアできるのは中学生以降ではないかと思います。

 

最近は、2週間使いきりのコンタクトレンズがリーズナブルな価格でよく売れていますが、2週間以上使いつづけて目に炎症や感染が起きる人が多いです。目の健康のためにも、コンタクトを使い始めるのは、お子さんが自分で正しく管理できるようになってからにしましょう」

 

PROFILE 近藤永子さん

眼科三宅病院副院長。日本眼科医会理事。愛知県眼科医会理事。

 

取材・文/笠井ゆかり