今年4月、44歳で第五子を出産した鈴木サチさん。第一子、第二子を産んだ30代は「母親である自分が育児のすべてを抱える」ことが当たり前だと思い込み、自分を追い込んでいた時期があったそう。「なにかがおかしい」と気づき、離婚に踏みきった当時を振り返っていただきました。(全4回中の1回)
「子育ては母親がするもの」の呪縛に囚われて
── 2010年に第一子となる長女を、2012年に第二子の長男を出産されています。モデル業にもほどなくして復帰されたそうですが、育児と仕事の両立は大変だったのでは。
鈴木さん:息子を産んですぐ、「3か月後の撮影でモデル復帰してほしい」と依頼があったんです。できれば1年、せめて半年は育休を…と思っていた矢先でした。
3か月後までに体型も体調も戻さなきゃ…!でも、当時娘は1歳、息子は産まれたばかりで、てんやわんやで。娘は保育園に通っていましたが息子はまだ保育園に預けられないので、実家の母にヘルプに来てもらったりして、なんとか乗りきっていました。
── 旦那さんのご協力はいかがでしたか?
鈴木さん:ほぼフルワンオペで育児をしていた感じでした。唯一、1週間に1回、ピラティスのパーソナルトレーニングに行く間だけは子どもたちを見ていてほしいというのはお願いしたかな。
今思うと、当時は私自身も「育児は母親がするもの」と思い込んでいて、夫にあまり頼み事をできなかったんですよね。初めての子育てだったし、世の中的にも「育児は母親がするもの」という空気感が、まだ色濃くある時代でした。子どもを預けてピラティスを習いに出かけるなんて…みたいな。
── 確かに、10年ほど前はまだそういった風潮だったかも…。
鈴木さん:そうですよね。わざわざ子どもを連れてカフェでお茶するなんて…とか、子どもを置いて夜飲みに行くなんてもってのほか、というようなことを言われたり。今でこそ「母親だって息抜きが必要」と言われるようになりましたけど。そういった圧力に、自然と追い詰められてしまうことって、ありますよね。
── 旦那さんにもう少し手伝ってほしい、と伝えたりは?
鈴木さん:今思うと「夫に手伝ってほしい」という感覚自体が、あまりなかったのかもしれません。初めての子育てだったし、先ほど言ったような世の中の空気もありましたし。息子を産んで3か月後の復帰撮影には結局、自分の母にヘルプに来てもらいました。
夫に「もっと家にいてもらわないと困る」と言われ
── 当時は「育児=母親の役割」ということに、疑問をもっていなかったんですね。
鈴木さん:その頃は「そういうものなのかな」という感覚でした。でも、だんだん「あれ?」と思うようになってきて。「私めちゃめちゃ働いて家計も支えているし、子どもたちの送り迎えは全部私だし、シッターさん雇うときも私が手配するし…私ばっかり、なんか変じゃない?」って。
── 何年もかかって、ご自身の負担が思いのほか大きいことに気がついたんですね。
鈴木さん:そうなんです。ところがある日、夫に「もっと家にいてもらわないと困る、子育ては母親がするのが当たり前だろう」って言われて…さすがに絶句しました。
「そしたら私が何人いてもたりないけど?それに、家にいるのは全然いいけど、そうすると単純に仕事ができなくなるよ」と言ったら、「それは困る」って言い張る。これはもう無理だなと思ったんです。
私自身は、子育ては楽しいし、むしろ好きなんです。でも、家計を支えるために仕事もたくさん入れていたので、睡眠時間を削って育児も仕事も…という日々で。パンク寸前でした。当時は渦中にいて自分のことを客観視できていなかったんだと思います。
子どもたちに泣きながら「パパとママは同じ方向を向けなくなった」
── その後、離婚されたのですよね。当時、お子さんたちはまだ小さかったかと。
鈴木さん:娘が小学校1年、息子が年中のときでした。子どもたちも私と過ごすことがほとんどで、父親と気持ちがズレていって…。今から思えば、子どもとの父親が過ごす時間をもう少しつくってあげたらまた違ったのかなとも思います。
── 幼いお子さんたちには、どんなふうに伝えたのでしょうか。
鈴木さん:最初は子どもたちの気持ちを尊重しながら、1年くらいかけて少しずつ話していこうと思っていたんです。ところがそう思っていたのは私だけだったようで、夫がパパ友に別居について相談したことで、話が広まってしまって…。
同じ保育園のお友達がわが子たちより先に知ってしまって、子どもから子どもに伝わっちゃうとしたら…そんなツラいことはないじゃないですか。それで不本意ながら、別居を決めてからほどなくして子どもたちに伝えることに。
「パパとママの気持ちが、同じ方向を向かなくなっちゃったんだよ」と、泣きながら一生懸命説明したのを覚えています。「ママがパパを追い出した」と子どもたちに言われたときは、すごく悔しかったけど…。
── それはツラい…。でも今は良好な関係を築かれているようですね。お子さんたちの気持ちを尊重するうえで気をつけていたことはありますか?
鈴木さん:今でこそ笑顔で父親の話ができますが、当時はそうじゃないこともありました。でも、絶対に父親のことを悪く言わないというのは心に決めていて。子どもたちにとっては、たった一人の父親だし、私の発言のせいで悪いイメージをもってほしくなかったんです。「パパはすごく頑張ってお仕事してくれていたんだよ」というのは、今でも折に触れて伝えています。
── 現在もお子さんとの交流はあるのですか?
鈴木さん:上の2人はもう13歳と11歳ですから、父親には自分たちで連絡して会いに行っています。「今週はパパのところに行くんだ」という感じで、気軽に会っていますね。
運動会や卒業式などの学校行事のときも「今のパートナーに来てもらうか、パパに来てもらうか、どっちがいい?」と必ず確認します。そうすると「最近パパに会えてないから、パパに来てもらいたい」と子どもたちから言ってきたり。
── その都度、お子さんたちがどうしたいか、確認しているんですね。
鈴木さん:学校行事に前夫と参加するって、ちょっと特殊な状況ではありますよね。周りからみたら「あれ?前の旦那さんと一緒にいる…」ってなるだろうし。離婚したらまったく関係をもたない人もいますもんね。
── 学校行事って、周りの目もあったりしますけど…気になりませんか?
鈴木さん:私自身は、周りからどう思われるかはまったく気にならないんです。ましてや学校行事は私が主役でもないので、気になるのは「子どもたちがどう思うか」だけ。パパが来ると子どもたちも嬉しそうだし、それで十分です。一緒に撮った写真や動画を、今のパートナーに見せたりもしますよ。
── そういったシーンで家族みんなが自然体でいられるのって、普段からサチさんが風通しのいい空気感をつくられているからなんでしょうね。
鈴木さん:あはは。そうですね。私のこの性格だから、この関係を続けられているのかもしれません。
PROFILE 鈴木サチさん
1979年愛知県生まれ。10代からファッションモデルとして活躍。モデルとして約30年活躍するかたわら、ピラティスのSTOTT PILATES(R)認定インストラクターを取得し、第四子妊娠中の2022年に自身のスタジオをオープン。ピラティスインスタラクターとしても活動中。2013年にホノルルマラソン出場し完走するなど、スポーツが得意な一面も。プライベートでは、14歳、11歳、5歳、2歳、0歳の5児の母。
取材・文/松崎愛香 写真提供/鈴木サチ