シニア世代の社交の場だった「スナック」に若者が集い始めているそうです。新卒で東京・谷保の「スナック水中」のママになった坂根千里さんは、「SNSとは真逆の存在」とスナックの魅力を語ります。(全2回中の1回)

若者はスナックに何を求めて通ってくるのか?

── 坂根さんは大学卒業後、2022年に新卒でスナックのママとなりました。2年間、お店に立つなかで感じることはありますか?

 

坂根さん:スナックというと「昭和のサラリーマンやシニア世代の社交場」というイメージがあるかもしれません。実際、私が経営する「スナック水中」にいらっしゃるお客様は、40代以降のミドル世代の方が多いです。

 

それでも20代のお客様も2割ほどいらっしゃいます。皆さん、スナックに興味を抱いて来店してくださっています。

 

── 若い人たちはスナックのどんな部分に興味を持っていると思いますか?

 

坂根さん: 20〜30代の中では昭和の音楽・文化に興味がある層が一定数いて、「昭和レトロ」がブームとも言えると思います。

 

スナックはなつかしい雰囲気を味わえる場として、人気があるようです。さらに「人と人が出会う場所」という部分が新鮮で魅力的に見えるのかもしれません。いまはSNSのおかげで自分の好きなこと、気になることはいくらでも深掘りでき、直接会ったことがない人ともコミュニケーションがとれます。

 

これに対して、スナックは「SNSとは真逆の存在」です。ふだん生活するなかではあまり接する機会のない人たちと出会え、初対面でも一緒のカラオケを楽しみ、お酒を飲みながらおしゃべりをする。こうした経験ができるところは、なかなかありません。

 

私自身、学生時代に初めてスナックを訪れたときは「こんな世界があるんだ!」とカルチャーショックを受けました。若い人たちにとっては、スナックでの人との出会いがとても新鮮なんだと思います。

「スナックは初めて」の人でも居心地のよさを感じる訳

──「知らない人」との出会いがスナックの魅力なのですね。とはいえ、スナックというと常連さんが集まるイメージがあります。初めて足を運ぶのは敷居が高いのではないでしょうか?

 

坂根さん:そこはスタッフが気をつけています。「スナックは初めて」というお客様がいらっしゃったら、スタッフがよく見える場所に座っていただいたり、お客様同士の会話のなかにスタッフも入り、場を和ませたりしています。

 

当店の常連さんは、スナックに初めて来た方が驚いたり、珍しがったりする様子も人間模様のひとつとして楽しまれている印象です。

 

これまでスナックになじみがなかった人も、この場で知り合った人の話を聞き「そんな考えもあるんだ」と、視野が広がることもあるようです。

 

── スナックで新しい世界が広がりそうですね。ふだん、若い人たちはスナックと接点がないと思います。皆さん、どこで「スナック水中」を知るのでしょうか?

 

坂根さん:SNSがほとんどです。「スナックに興味があるけれど、どこに行ったらいいかわからない」という方も、インスタなどを見て興味を持ち、来店してくれます。26歳の私はスナックのママとしては年齢が若いです。それも気楽に行けそうな印象があるようです。

 

休業日の日曜日の夜、”普段なかなか会えないヒトと、普段なかなか話せないコトを話せる”トークイベント「裏水中」を開催

「スナック水中」は、もともとは「すなっくせつこ」というお店でした。スナックの魅力にどっぷりハマり、アルバイトをしていた私が、先代のせつこママから店舗を受け継いだんです。お客様は「新卒でスナックママになった」という、開店までのストーリーにも興味を持ってくれるようです。

 

あとは、20代、30代限定のオープンデーを不定期で開催しています。同世代の人たちが多い日だったら足を運びやすいと、スナックに来てくださるきっかけになっていると思います。また、店舗を受け継いだ際、お店の扉をガラス張りにしました。店内の様子が外からも見えるので、気軽に入りやすい雰囲気になったと思います。

店員は会社員や主婦などさまざま

── SNSが発達した現在だからこそ、「対人の場」としてのスナックに魅力を感じる人が多いんですね。

 

坂根さん:意外だったのが、「スタッフとして働きたい」人がすごく多かったことです。お店をオープンしてから、これまで求人に困ったことはほとんどありません。

 

── それはたしかに意外です。どんな方が働いているのでしょうか?

 

坂根さん:日中働いている方や学生さん、年齢も20代から子育てをひと段落させた世代などさまざまです。職場や家庭でない、「新しい居場所」として考えてくれる方が多いのかもしれません。ここに来ればお客様とも話ができるし、日中とは違う世界を楽しめると考える方も多い気がします。

 

「スナック水中」にはさまざまなお客様がいらっしゃいますが、なんとなく雰囲気が似ているところがあるんです。「この場に集まった皆で楽しく過ごしたい」という共通の思いがあるというか…。だから、働きたいと思う人も多いのかもしれません。

 

女性も気軽に立ち寄れる夜の社交場をめざす「スナック水中」

── 坂根さんご自身は、「スナック水中」のママになってよかったと思っていますか?

 

坂根さん:本当によかったです!新卒でスナックのママになると決めたとき、周囲から「せっかく就職に有利な新卒カードをふいにして、もったいない」と言われることも少なくありませんでした。

 

当時はその言葉に反論できなかったんです。でも2年間お店を経営してみて、さまざまな出会いを目の当たりにしました。たくさんの人たちが笑顔になってくれるのを見て、 この道を選んで悔いはないなと思っています。

 

これからも、「スナック水中」に来てくださるお客様に楽しんでもらいたいし、スナックの魅力をたくさんの方に知ってもらえたらと思っています。

 

取材・文/齋田多恵 写真提供/坂根千里