さまざまなファッション誌やCM、広告、ファッションショーなどで活躍している、モデル・佐藤弥生さん。ステージ0の非浸潤性乳がんが発覚し、左胸を全摘出する手術を受けました。モデルとして胸を失うことへの思いや発覚から今に至る経緯を伺いました。(全2回中の1回)
ステージ0の乳がんで全摘出?パニックで頭も心も追いつかず
── 2021年4月にご自身のブログで乳がんを報告されていました。改めて、乳がんが発覚したときのことをお伺いしてもよろしいでしょうか。
佐藤さん:もともと、市や区の集団検診や人間ドックを定期的に受けていて、乳がん検診も30代くらいから年に一度受けるようにしていました。乳腺症があるというのは以前から言われていて、2020年12月の検診で超音波とマンモグラフィを受けたところ再検査になったんです。
それでMRIとCTを12月半ばに受けました。それは異常なしということで、さらに「針生検」という検査を受けました。これを受けると高い精度でがんかどうか、がんのタイプがわかるそうです。1月に結果が出て、ステージ0の乳がんであろうこと、さらにステージ0でも左乳房を全摘する必要があることを知らされました。
── 私のような素人は「ステージ0なのに全摘!?」と思ってしまいます。発覚しただけでもショックを受けられたことと思いますが、全摘というお話には耳を疑ったのではないでしょうか?
佐藤さん:私もまさにそうで、そもそも「全摘」という言葉自体知りませんでした。でも、先生の説明を聞くうちに「ステージ0」でもおおごとであることが徐々にわかっていきました。
もともと「針生検」の結果を聞きに行った日は、乳腺症の経過を聞いてすぐ帰るつもりでいました。15分くらいで終わると思っていましたから、がんと聞いて衝撃が大きくて。その日は、先生が2時間くらいしっかりとお話ししてくださって、「あなたの場合は非浸潤がんで、乳管内にがんがとどまっている。今はリンパに広がっていないけれど、若いので今後がんが乳管を出てしまい、ステージ1、2と移行してしまう可能性があるので全摘をしたい」と。
そのときに、胸をもとの形に戻す「再建」という手術があることや、再建の手術は全摘手術と同時にやるパターン、別々にやるパターンがあるなど、細かい説明を受けました。ただ、今の病院は再建手術をする形成外科が併設されておらず、同時にしたい場合は提携している大学病院に行く必要がありました。
正直、自分ががんであることを知らされて小一時間しか経ってない状況で、次から次にいろいろなことを受け入れなければならず、「とにかく落ち着かないと、でもこんなに覚えられない。どうしよう…」という気持ちでした。
── 突然のがん宣告に、全摘、再建、気持ちも追いつきませんよね。セカンドオピニオンなども検討されたのですか?
佐藤さん:先生が「セカンドオピニオンに行ってもいいけど、あなたには全摘しか勧めません」とはっきりおっしゃって。「部分的な切除ができませんか?」と聞いてみたのですが、「あなたの場合は範囲が広いから、部分摘出は無理なんです」と。でも、2時間という時間をかけて話しているうちに、先生の丁寧な説明とご経験の判断からの言葉に、妙に納得していったんですよ。
私の場合、時計でいうところの4時から7時くらいの範囲でがんが広がっていて、その境界線があいまいであることなども理解しました。乳がんと言えば「しこり」というイメージですけど、私にはしこりもないですし、痛みもなかったので、自分で触ってしこりがあったら病院へ行く、という一般的に言われている方法では見つけられないものでした。
ちょうどコロナ禍だったこともあり、セカンドオピニオンを聞きに行ったとしたら、手術は早くて半年後になると言われました。でも、いつも通っている病院なら摘出手術だけですが2週間後には受けることができるという状況。早期に決断を迫られることになりました。
モデルの仕事を失うかもしれない不安のなか「命優先」の選択
── 乳がんがわかって半年放置するのも心配ですよね。決断までにはどのような時間を過ごしたのですか?また、ご家族へはどのように報告されたのでしょうか?
佐藤さん:とにかくネットで検索しまくりました。「ステージ0でも全摘はよくある治療のひとつ」という情報ばかりが見つかったので、やはりそうなのかと。と同時に、やはりモデルのお仕事に支障が出るのではないかと不安になりました。「洋服をきれいに見せる仕事なのに、胸を失うともうできなくなるのでは?」と思ったり…。自分の傷がどういうものになるのかも想像ができなかったので、ネットで傷跡を検索してみたり、それを見て落ち込んだりもしました。
先生が「何回でも説明するからご家族も連れて来て」と言ってくださったので、家族を連れて話を聞きに行きました。母は、がんと聞いてショックを受けていたものの、ステージ0と聞いて「よかったね!」という感覚でしたので、やはり「全摘」に関しては疑問を持っていたんです。
家族も「これが本当にベストですか?」という聞き方で、先生も「ベスト中のベストです!」とはっきり言ってくれて、納得いくまでお話を聞いてくれ、家族も私も安心しました。話を聞くうちに先生への信頼も生まれて「もうセカンドオピニオンしなくていいね」という結論に至りました。
それで私も、2週間後に手術が受けられるならもう再建については後で考えようと。まずは命優先というか。再建には魅力は感じましたが、再建もかなり大変な手術。今はいいかなって。それを逃したら次いつ手術できるかわからないという状況でしたから。
── 発覚から2週間で手術というのは気持ちも追いつかないなど大変だったのではないでしょうか。
佐藤さん:わりとみなさんに「大変でしたね」と言っていただくのですが、仕事のことだったり、保険の確認だったり、手術の準備に忙しすぎてあっという間に時間が過ぎた感覚で(笑)。涙を流すことや落ち込むことももちろんあったのですが、変な話その慌ただしさに救われて、じっくり悲観する暇もなかったのが正直なところです。
あと、つくづく思うのはがん保険にしっかり入っていたのでよかったなということ。乳がんで大手術となるとどれくらいお金がかかるかも想像つきませんし、入院期間や退院後の様子とかがまったくわからないので、金銭的な面の心配をせずに手術のことに専念できたのは大きかったですね。
自身のブログで発覚からその後の経過を発信
── ご自身のブログではそんな費用の話なども含め、闘病時の情報を発信されていますね。同じように情報を求めている方たちにとって有益な情報になったり、励みになっているようですね。
佐藤さん:私自身が乳がんに対する知識がなかったので検索しまくった経緯があり、体験した人のブログなどを求めていました。自分の備忘録という目的もあるのですが、ブログで自分の経緯を綴ることで同じ悩みを持つ方にひとつの例として参考にしていただければという思いはあります。
── 胸パットや下着のおススメ情報なども発信されてましたが、佐藤さんのようなファッション誌で活躍されている方の視点で書かれた情報は、とても参考になりそうですね。
佐藤さん:実際乳がんの患者さん向けにつくられた専門的なものも売られているのですが、うまく使えば身近なものやプチプラ商品でもいけるなと。自分が発見していいなと思ったことはご紹介したりしています。私もパットがあればモデルの仕事も問題ないとわかり、手術前に懸念していた不安は今はありませんし、そういうポジティブな情報もお伝えできたらなと思っています。
── 乳がんをご経験されて、伝えたいことはありますか?
佐藤さん:自分が実際に乳がんを経験して、「これは健診でしか見つからないな」と思いました。乳がん=しこりと思われがちなんですけど、私みたいな例があるということも知っていただきたいです。私も健診に行って、1度乳腺炎だと診断されて安心していたところがあり、自分が乳がんとはまったく思っていなかったんです。経過観察は大切ですし、やはり、1年に一度健診に行くということはとても大事だということをお伝えしたいですね。
PROFILE 佐藤弥生さん
ファッションモデル。10代からnon-noなど様々なファッション誌で活躍。CM、広告、ファッションショー等も多数出演。モデル業のかたわら、栄養士やコアコンディショニング、瞑想のインストラクターの資格を活かし多方面で活躍中。
取材・文/加藤文惠 画像提供/佐藤弥生