1年間の休業を経て、2003年4月に芸能活動を再開した坂本冬美さん。復帰直後は舞台に立つのがとにかく怖かったといいますが、大先輩の励ましもあり、いい意味で開き直ることができたそうです。あれから芸能生活35周年を過ぎた今の心境とは。

復帰後は極度の緊張も大先輩・八代亜紀からの手紙に救われ

坂本冬美さんと故・八代亜紀さん
優しい声をかけてくれた故・八代亜紀さんと

── 久しぶりに立つステージはいかがでしたか?

 

坂本さん:復帰後、初のお仕事は、「NHK歌謡コンサート」の出演でした。『夜桜お七』と休業中に出した『うりずんの頃』の2曲を歌わせていただいたのですが、1年ぶりとなるステージで、しかも生放送とあって、とにかく緊張したことを覚えています。

 

復帰した当初は、舞台に立つのがすごく怖かったです。じつは、「戻ってきちゃったけれど、本当に大丈夫なんだろうか…」と、まだ迷いを断ち切れていない自分もいて。でも、決めたのは私自身ですから、泣き言なんて言っていられません。気持ちを奮い立たせて、ステージに上がっていました。

 

── 堂々としたパフォーマンスからは、想像がつきませんでした。

 

坂本さん:周りの方々の温かさも本当に助けられました。昨年12月に亡くなった大先輩の八代亜紀さんからは、休業明けにお手紙をいただき、「これからは立ち位置より少し下がって歌うと、気持ちが楽になるよ」とアドバイスしてくださいました。いろんな方の心遣いに支えられ、一歩ずつ進んでいったという感じでしたね。

 

結果的に、あのタイミングで1年間お休みしたことは、自分にとってすごくよかったと思っています。あのまま歯を食いしばって走り続けていたら、きっと私はどこかでパンクしていたと思うんです。ここまで長く歌ってこられたのも、いったん立ち止まり、自分を見つめ直すことができたから。ファンの皆さんや支えてくれるスタッフの方々を心配させてしまいましたが、そのぶん、歌で恩返しをしていきたいですね。

 

坂本冬美さん
2005年頃の坂本さん。少しずつ肩の力が抜けてきたことが表情にもあらわれている

35周年で桑田佳祐から楽曲提供「自分の殻を破るきっかけに」

── 2020年には、サザンオールスターズの桑田佳祐さんからの楽曲提供(『ブッダのように私は死んだ』)が話題を呼びました。中学生のころから「サザンの大ファン」と公言されている坂本さんの念願がかなったカタチだったとか。

 

坂本さん: そうなんですよ。「芸能生活35周年に向けてしたいことはある?」とレコード会社のスタッフに聞かれたときから、「夢はひとつだけ。桑田佳祐さんに曲を書いていただきたいです」と伝えていたんです。周りは、「さすがに無理だろう…」という空気でしたが、「じゃあ、思いの丈を手紙に書いてみてください。なんとか桑田さんの元に届くように頑張ってみます」と言ってくれて。実際に桑田さんから曲をいただいたときは、涙が出るほど感動しましたね。

 

── ミュージックビデオでは、坂本さんの妖艶な演技も評判でした。

 

坂本さん:ありがとうございます。それまでどこか「優等生でなきゃいけない」「ファンの皆さんの期待を裏切っちゃいけない」と肩に力が入って、殻を破りきれない自分がいたのですが、この曲に出会ったことで、そこから突き抜け、ひと皮もふた皮も剥けることができました。「もう何も怖くない」という境地に行けたような気がしています。

 

私にとってこの曲は、歌手・坂本冬美の幅を広げ、あらたな可能性を生み出してくれた大切な宝物ですね。

 

坂本冬美さんと藤あや子さん、五代夏子さん
藤あや子さん、伍代夏子さんとは山本リンダさんのコスプレに挑戦も

── 坂本さんもそうですが、演歌界の皆さんは、陽気でよく笑うお茶目な方が多い気がします。サービス精神旺盛で情に厚く、パワフルです。

 

坂本さん:確かに明るい方が多いですね。きっと皆さん、たくましいんじゃないかしら。先輩方のなかには、ご苦労されてきた方もたくさんいらっしゃいますし、いろんな修羅場をくぐりぬけてきた方も多いから、精神的に強いんだと思うんです。だから、いつでもどんな状況でも思いきり楽しもうとする前向きな気持ちを持っていて、その術もご存じなのではないかなと。とくに、私たちよりも上の世代の先輩方は、人生をすごく謳歌していらっしゃるように感じますね。

 

人生どんなことがあっても、命ある限り生きていかなくてはいけませんから、せっかくなら楽しく笑って過ごしたいですね。

 

── 最近では、ドラマ出演やアニメ映画の声優に挑戦したり、YouTubeチャンネルを始めるなど、ジャンルを超えた活動もさかんですね。 

 

坂本さん:今年は、なんといっても『ほろ酔い満月』という新曲を出したばかりなので、たくさんの方に聴いていただきたいですね。80年代テイストのちょっぴり昭和の匂いが漂う歌謡曲なので、「演歌はちょっと苦手」という方にも親しみやすいと思います。覚えやすくて歌いやすい歌なので、ぜひカラオケでチャレンジしてみてほしいです。

 

坂本冬美さん
『ほろ酔い満月』の艶やかな衣装姿の坂本さん

── ちなみに、プライベートは、どんなふうに過ごされることが多いのでしょう? 

 

坂本さん:コロナでおうち時間が増えたときに、韓国ドラマにどっぷりハマりました。それ以来、時間ができるとまとめて観たりしています。

 

昔からイ・ビョンホンさんが大好きなのですが、最近の推しは、男性だとロウンさん、女性ではパク・ウンビンちゃん! 先日、NHKホールで行われたパク・ウンビンちゃんのコンサートにも行ったんですよ。歌もとても素敵だったし、ファンサービスが隅々まで行き届いていて、「このサービス精神を見習わなきゃ!」と感動しました。

 

PROFILE 坂本冬美さん

さかもと・ふゆみ。1967年生まれ。和歌山県出身。1987年、19歳のときに「あばれ太鼓」でデビュー。『祝い酒』『夜桜お七』『また君に恋してる』など、数々のヒット曲を持つ。91年には細野晴臣、忌野清志郎とHISを結成するなど、ジャンルを超えて活動。2024年2月に「ほろ酔い満月」をリリース。

 

取材・文/西尾英子 写真提供/坂本冬美