アル中だった自分がサウナで救われた体験を描いた『湯遊ワンダーランド』で、自身初となるテレビドラマ化が実現した漫画家のまんきつさん。2024年1月には、美容オタク歴23年の体験談をまとめた『そうです、私が美容バカです。』を上梓しました。その自由すぎるエピソードは思わず目を疑うような内容で…!?(全3回中の3回)

リアルに試してきた数々の「ぶっとび美容法」が話題に

── 新作『そうです、私が美容バカです。』はどのような経緯で書籍化されたのですか? 

 

まんきつさん:オカルト編集者の角由紀子さんと漫画家の鳥飼茜さんと私の3人で、美容のトークイベントをやることになったんです。その告知のツイートを見て、現在の担当編集さんからオファーをいただき、漫画連載をスタートしました。

 

── じつにいろんな美容法を試されていますよね。

 

まんきつさん:25歳のときに大失恋したのがきっかけで、美容オタクになって。当時「もっとキレイだったらフラれなかったんじゃないか」って思い込んでいたんです。まぁフラれた原因はそんなことではなかったんですけどね…。とにかくそこから一気に、美容にハマりました。

 

── ご自身で気に入っているエピソードは?

 

まんきつさん:編集担当さんとなにげないやりとりをするシーンが好きですね。私は本当に人づき合いが苦手なんですが、担当さんは唯一、身近でよくしゃべる人なんです。普段から何かにつけて頼りにしていて。ありがたい存在です。

 

『そうです、私が美容バカです。』より
『そうです、私が美容バカです。』より
『そうです、私が美容バカです。』より
『そうです、私が美容バカです。』より
『そうです、私が美容バカです。』より
『そうです、私が美容バカです。』より

── ただの美容指南本ではなく、背景にあるストーリーにも“まんきつ節”が出ていますよね。

 

まんきつさん:美容指南本はもう世の中にたくさんあるので、「おもしろさを優先して描いてください」と担当さんが言ってくださって。

 

── 切開リフトをしたときのエピソードも拝見しましたが、漫画に落とし込むのに抵抗はなかったのですか?

 

まんきつさん:それね(笑)。担当さんも「本当に切開リフトのこと、描いちゃうんですか」と気にしてくださったんですけどね。あ、切開リフトっていうのは、耳に沿って皮膚を引き上げることで顔や首のタルミを目立たなくさせる手術なんですけど。

 

私、めちゃくちゃ太った時期があって、そのときに髪の毛をギュッとひっつめて結んだら、顔がキュッと引き締まって見えたんです。自分では「これいい!」と思ってたんですが、その写真を投稿したらTwitter(現X)で「まんきつ、これ絶対顔いじったな」というようなコメントを見かけちゃって。

 

でもそこで引用リツイートして「太ったから髪の毛をひっつめて結んでいるだけですよ」って書くのも、なんかカッコ悪いかなと。それで「真実は絶対、漫画で描こう!」と決めていたんです。実際、切開リフトした後も「まんきつ、どこで糸入れたんだろう」っていうコメントがあったので、漫画でちゃんと伝えようと思い、エピソードに入れました。

 

『そうです、私が美容バカです。』より
『そうです、私が美容バカです。』より
『そうです、私が美容バカです。』より
『そうです、私が美容バカです。』より
『そうです、私が美容バカです。』より
『そうです、私が美容バカです。』より
『そうです、私が美容バカです。』より
『そうです、私が美容バカです。』より

── 世の中の皆さんはよく見ていますよね。

まんきつさん:ほんと、びっくりしますよね。「コレをやったらほうれい線が消えた」とか、ほんのりうさん臭い広告や記事を見かけることがよくありますけど…正直「実際はそこまで消えないでしょ?」と思っちゃうこと、ありますよね。でも、たいていは声を大にして言えなかったりする。そういうことを漫画で描くのが私の役目だと思っていて。

 

みんなキレイになりたいから、いろいろ調べるわけですもんね。とはいっても、こと整形に関してはリスクもあることなのでとにかく慎重にすべきで、安易にするものではないんですけど。そういったことも、漫画にしっかりと描くようにしています。

 

── 確かに成功例だけを見て決めちゃうと怖い面もあります。まんきつさんも何年も悩まれたそうですね。

 

まんきつさん:そうですね。ネットの口コミを何年も追い続けたり、実際にやった人たちに話を聞いたり、本当にいろいろ調べました。

 

── 生え際を剃ってオデコを広くしたりもされたとか。気持ちはわかりますが「やったらどうなっちゃうんだろう」という不安がまさって実行に移す勇気がありません…(笑)。

 

まんきつさん:当時は不安になる前にやっちゃってましたね。あまり先のことも考えていなかったんです。今やれって言われても、やれない気がします(笑)。

 

『そうです、私が美容バカです。』より
『そうです、私が美容バカです。』より
『そうです、私が美容バカです。』より
『そうです、私が美容バカです。』より
『そうです、私が美容バカです。』より
『そうです、私が美容バカです。』より

独特の感性は「常にする妄想」のたまもの

── まんきつさんの発想力の豊かさには本当に驚かされます。感性を鋭くするためにしていることってあるのでしょうか? 

 

まんきつさん:していること…基本ずっとひとりで家にいて、妄想してるんです。それくらいしか思いつかないな。最近は、カラスのヒナを拾った妄想とか(笑)。人づき合いは最低限にして、家でそういう妄想ばっかしてるんですよ。もしかしたらそれが、漫画を描く訓練になっているのかもしれませんね。

 

漫画家のまんきつさん
新著を手に笑顔のまんきつさん。家にいるときはしょっちゅう妄想の世界に浸っているそう

── カラスのヒナですか…!一般人にはなかなか思いつかない妄想かも。

 

まんきつさん:いつかカラスを飼ってみたいなという願望があるんですよ。それで、うっかりカラスのヒナを拾っちゃった…みたいな妄想から始まって。そのカラスが懐いてくれて、でも結局離れ離れになっちゃう…みたいな。

 

── そもそも「カラスって飼えるのかな…」と思ってしまいますが(笑)。

 

まんきつさん:ですよね。実際、飼えないと思いますし(笑)。

ムエタイにバク転…「50歳でできたらおもしろくないですか」

── 来年50歳を迎える今はサウナや美容などでご自身のリセットを実践されています。ほかにやりたいことはありますか? 

 

まんきつさん:ずっと、ムエタイをやりたいと思っているんです。このあいだキックボクシングの体験に行ってきたのですが、本当に楽しくて。体を動かすのって、本当に大事だなと思います。バク転教室にも通いたいなあ。バク転ができるようになったら、かっこいいじゃないですか。この歳でバク転できるようになるなんて、おもしろくないですか?

 

漫画家・まんきつさんの愛犬
まんきつさんの癒やしになっている愛犬

── 仕事に家事に日々忙しい読者に、伝えたいことはありますか?

 

まんきつさん:私は人づき合いが苦手ではあるのですが、やっぱり人間関係をよくしておくと、心が健康でいられて、忙しくても幸せでいられる気がします。いろいろなことを話せる親友がひとりいるだけでも充分かも。私には今までそういう存在がいなくて、誰にも思いを吐き出せず苦しかった。でも今ではそういう友達ができて、すごくラクになりました。

 

ペットを飼うのもおすすめですし、あとは…サウナ!とにかく何かひとつ「逃げ道」を確保しておいてください。それがお酒になっちゃうと体がつらくなるので…。健康的な逃げ道を、ぜひ見つけてほしいですね。

 

PROFILE まんきつさん

漫画家、イラストレーター。1975年埼玉県生まれ。日本大学芸術学部卒業。2012年に始めたブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を集め、2015年には自身初の単行本『アル中ワンダーランド』(扶桑社)を刊行。2019年にペンネームを「まんしゅうきつこ」から「まんきつ」に改名。著書に『湯遊ワンダーランド』(扶桑社)、『ハルモヤさん』(新潮社)、『まんしゅう家の憂鬱』(集英社)など。2024年1月には最新作『そうです、私が美容バカです。』(マガジンハウス) が話題に。

 

取材・文/松崎愛香 画像提供/まんきつ、マガジンハウス