「やらされている感強いわ〜」「これって私じゃなくてもできること」。仕事をしていると、自分の存在価値について考えさせられることもあります。バリバリ活躍していたIT企業を辞めて、ピアノ1本の道に進んだハラミちゃん。自分らしい生き方について、聞きました。(全4回中の4回)
「ハラミちゃんになりたい!」子どもの声が原動力
── 老若男女問わず広い世代から愛されるハラミちゃん。ライブはどのような雰囲気ですか?
ハラミちゃん:お客さんは男女半々で、親子3世代で観にくる方もいて、ショッピングモールみたいな感じです。赤ちゃんから、上は90代の方までいらっしゃいます。
── アーティストのライブでは、未就学児不可や年齢制限がある場合も多いのですが、ハラミちゃんのライブは赤ちゃんもOKなようですね。
ハラミちゃん:はい、赤ちゃんもOK、泣いてもOKです。
── ライブ中に、赤ちゃんが泣いたらどうするのですか?
ハラミちゃん:赤ちゃんが泣きやむまで、「みんなでちょっと待とうねー」って。赤ちゃんも意地悪で泣いているわけじゃないので、しかたないですよね。
だから、そこは温かい気持ちで。お客様も同じ気持ちの方が多いようで、泣いている様子をみんなでほほえましく見守る感じです。
── 子育て中の方や小さいお子さんは、生の音楽に触れられる機会が少ないので貴重な場ですね。ファンの子どもたちからの言葉などで印象的なことは?
ハラミちゃん:子どもたちがお手紙をくれたり、直接、たくさん声をかけてくれるんですが、そこには必ず「ピアニストになりたい」ではなくて、「ハラミちゃんになりたい」って書いてくれているのが、心に残っています。
私はクラシックではなく、流行のポップスや洋楽を弾く“ポップスピアニスト”と自分で名乗って活動をはじめたんです。とくに認められるためにやっているわけではないんですが、「誰が認めてくれるんだろう、この活動をどう思われているのだろう」と考えると、「ハラミちゃんになりたい」と言われると、子どもたちが最初に認めてくれているのかもと思います。
こういう職業(ポップスピアニスト)になりたいと言ってもらえて、子どもたちが自分の背中を見てくれている気がして、すごく活動冥利につきます。
全国の子どもたちに電子キーボードを寄付した理由
── その子どもたちにとってのピアニストは、「豪華なドレスを着て静まり返ったホールでクラシックを弾く人」ではなく、ハラミちゃんなんでしょうね。昨年、電子キーボードを全国の保育施設に寄付したニュースをみましたが、どのようなきっかけで?
ハラミちゃん:たまたまCASIOさんからご提案いただいたので、いいアイデアだと賛同し、一緒にやっています。47都道府県コンサートツアーを行う際、各都道府県に2台ずつ寄付しました。私がふだんから愛用している機種を、顔写真つきのお手紙を同封して贈りました。
── 子どもたちは、実際に触れられる贈り物が届いて嬉しかったでしょうね。
ハラミちゃん:子どもたちから「ありがとう」というお手紙や動画をたくさんいただきます。みんな自由にバンバン触っていいし、見た目もカラフルですごくかわいいキーボード。いわゆる黒いピアノ以外をはじめて見る機会だと思います。
こういうのって子どもにとってすごく大事じゃないですか。カラフルなピアノもあるんだ、これだったら怖くない、触ってみようというきっかけになればいいですね。
「世間の目や常識より」朝起きたときに幸せを感じる人生を
── ストリートピアノを弾く女の子が主人公の児童書監修や、子ども・子育て相談室の回答者を務めるなど、ハラミちゃんの活動分野は広がっています。本当に好きなものを見つけ、いろんな人にピアノの魅力を広げる日々ですね。でも、好きを仕事にするのを迷う人も多いようです。
ハラミちゃん:一歩踏み出すって大きな覚悟がいるように思えるかもしれませんが、私が何も考えずに初めてストリートピアノを弾きにいったように、身近な小さいところから始めてみるといいと思います。
これは個人的な考えなのですが、人生にはキャリアがいくつあってもいいと思います。本当はみんな限界なんてないんですが、やはり3年間は続けなきゃとか、けっこう他人の目を気にしちゃう部分はありますよね。
でも、自分の人生において好きなことって、何個も見つかるものではありません。好きなことが1個でも見つかって仕事にしたいと思っているなら、やらずに人生終わるのはもったいないです。
── ピアノに賭けた幼少期や音楽大学から一転、IT企業に入社。休職してリセットして、ストリートピアノに出合うまでのハラミちゃんはどんな感じでしたか?
ハラミちゃん:ストリートピアノに出合うまでは、他人の人生を生きているような感覚でした。人が決めたルートをなんとなく歩み、先輩たちが歩んでいるキャリアをただ、たどっているだけ。
私も一般的なルートから外れることをすごく恐れていたので、迷う人の気持ちが痛いほどわかります。私だって最初から我が道を行くタイプではまったくなかったですし、世間の目やまわりの声が人一倍、気になるタイプなんです。
── 他人の人生を生きているよう、まわりの目が気になる…。現在のハラミちゃんと正反対ですが、どんな心の変化が?
ハラミちゃん:このままこの道を歩き、年老いて自分が病院で死ぬ姿を想像したら、「これでいいんだっけ」「なんとなく歩いてきた人生だった」と思うだろう、このまま死ぬのはもったいない、と気づいたんです。
やっぱり「いい人生だった」と言いたいし、まだ時間があるなら自分が納得できる人生を選びたいと考えたのは大きいですね。「やりたいことをやれなかった」と死ぬとき後悔するのは絶対イヤだと直感的に感じて、ポップスピアニストの活動に舵を切りました。
── 自分が笑顔になれる道を選んで4年たちました。いまのお気持ちは?
ハラミちゃん:こんなラッキーなことはない、という感覚です。毎朝起きて、今日も生きることが幸せでしかたない感情がわいてきます。
PROFILE ハラミちゃん
ポップスピアニスト。「ピアノを身近な存在にする」を目標に、2019年からYouTubeにて活動開始。YouTubeのチャンネル登録者数222万、動画総再生数7億回以上。日本全国、世界各地のストリートピアノへと出向き、YOSHIKIさん・広瀬香美さんなど多くの著名人とのコラボ。2023年、全国47都道府県ツアーで5万人を動員するなど活動の幅を広げている。
取材・文/岡本聡子 写真提供/ハラミちゃん