高齢者向けのゲームレクリエーションをSNSで発信している「陽気な課長」こと鷲巣豪さん(33)。「今日はどんなゲームだ?」と高齢者が目を輝かせるためのしかけとは?(全2回中の1回)

デイサービスにゲームを導入「歩行器なくても歩けてる!」

── 鷲巣さんはデイサービスにお勤めとのことですが、ふだんはどんなお仕事をされているのでしょうか?

 

鷲巣さん:理学療法士として、機能訓練特化型の半日デイサービスに勤務しています。デイサービスの利用者のほとんどは80代、90代の方たちです。

 

皆さん、食事や排せつなど、身の回りのことはだいたいひとりでできるものの、立ち上がりや歩行が不安定で支えが必要になる「要支援2」から「要介護1」くらいの場合が多いです。

 

利用者さんは午前か午後のどちらか3時間ほどデイサービスに来所され、身体能力を維持するためのリハビリやレクリエーションを行っています。私は歩行訓練などのリハビリや、SNSでも配信しているゲームレクを担当しています。

 

── 鷲巣さんがSNSで配信されているゲームレクはどれもとても楽しそうですね。どんなきっかけでゲームレクを思いついたのですか?

 

鷲巣さん:もともとレクリエーションの時間は、歌ったり簡単な運動をしたりしていました。あるとき、簡単なゲームをしてみようと思いついたんです。

 

新聞紙を丸めてたくさんの玉を作り、利用者さんにはやわらかい長い棒を持ってもらい、ほうきで掃く要領で、玉を同じ方向に流すゲームを行いました。

 

すると、利用者さんたちの表情の違いや動きがいつもとはまったく違ったんです。ふだんは歩行器がないと移動できなかった人が、ゲーム中、気づいたら玉を追いかけて歩いていたり…。「あれっ、歩けてる!」と、周囲もご本人もびっくりされていました。

 

── それはすごい変化ですね!

 

鷲巣さん:単純なリハビリよりも、ゲームは動きを引き出す効果が高いと実感した瞬間でした。利用者さんはもちろん、スタッフもとても楽しそうで。こういうゲームをもっと取り入れてみようと思いました。

作ったゲームは約800種類「ほぼ趣味になっている」

── SNSで発信しているもので約800種類あるとのことですが、どんなゲームが人気ですか?

 

鷲巣さん:どれも人気ですが、空気を入れたビニール袋のうえにお手玉を乗せ、ビニール袋を叩いてお手玉を飛ばしてゴールに入れる「ゴミ袋シュート」、紙コップを100個重ねられるかを競うゲームなどです。材料も100均やホームセンターで簡単に手に入るものばかりです。

 

── ゲームのアイデアはどんなふうに考えているのですか?

 

鷲巣さん:ふだんから頭の片すみであれこれ考えています。利用者さんが喜ぶ顔を想像すると、どんどんやりたいことが出てきます。アイデアに困ったことはないんです。

 

子どものころの思い出がゲーム作りにつながることもあります。自然のなかで育ったので野山を駆け回ったり、ゲームセンターで遊んだりした経験を思い出して、「ゲームに応用してみよう」と思いつく場合も。

 

足の筋力を高めるなど、リハビリの効果も考えられたゲーム

理学療法士として筋肉を発達させたり、関節の可動域を広げたりするリハビリの動きをゲームに取り入れられるように意識しています。

 

でも、一番重視しているのは自分が楽しいと思えるかどうかですね。「あまりおもしろくなさそう」と感じるゲームは、絶対に作りません。

 

── 鷲巣さんがゲーム作りを楽しんでいるのが伝わってきます。物を作るのはもともと好きだったのですか?

 

鷲巣さん:そうです。高校のとき、建築研究者をめざしていて、建築デザイン科に所属し、図面を書いたりしていました。その経験が活きていると思います。

 

月曜日から金曜日までは頭のなかでアイデアを練って、週末に自宅の倉庫にしまってある材料を職場であるデイサービスに運び、一気に1週間分のゲームを作っています。

 

── お休みの日に職場で製作しているんですか!?

 

鷲巣さん:最初、上司に「日曜日、ゲームを作るのに職場を使わせてほしい」と頼んだら「休みの日はちゃんと休んでほしい」と言われたんです。

 

「僕にとってはレクのゲームを作るのが最高の趣味で気分転換です。プライベートとしてやらせてください」とお願いしたら、「そこまで言うなら…」と許可をいただきました。

 

ゲームは1回使ったらすぐ壊してしまいます。利用者さんに次のゲームを楽しんでもらいたいし、材料を使い回し、新しいゲームを作る場合もあるからです。

 

利用者さんがゲームをしている姿を見て、「もう少しアレンジして別のゲームにしてもいいな」と、思いつく場合も少なくありません。

ゲームに夢中になって「感情まで豊かになる」

── 利用者さんからはどんな反応がありますか?

 

鷲巣さん:リハビリの時間は眠そうにしている方も、ゲームレクの時間が近づくと皆さんソワソワし出すんです。ゲーム内容は毎回違うので、利用者さん同士も「今日はどんなゲームかな?」と、話が弾んでいます。

 

「私はゲームレクのためにここに来てるんだよ」と言われることもあって、すごく嬉しいです。一方で、「リハビリももうちょっと頑張ってほしいな」と思うこともあります(笑)。

 

利用者さんのなかには夢中になりすぎて、ゲーム中に「いまのはルール違反じゃないの?」など、怒ってしまう方も。そういう場合は、臨機応変にルールやゲームの内容を変えることもあります。

 

── 皆さん、ゲームレクによって感情豊かになる場面もあるのですね。

 

鷲巣さん:ゲームレクは喜怒哀楽を引き出すきっかけにもなっていると思います。じつは、僕の作るゲームはわりと難易度が高いんです。失敗する人もいますが、「次は頑張ろう」と仲間同士で励まし合う様子が見られます。それがいいと思っています。

 

日常生活のなかだと、失敗して悔しくなったり、成功したときにみんなで喜びながらハイタッチしたりすることって、あまりないですよね。ゲームレクに楽しんで取り組むことで、利用者さんの豊かな感情を引き出し、運動能力を上げるきっかけになると思うと、やりがいもあって嬉しいです。

 

PROFILE 鷲巣 豪さん

わしずごう。理学療法士、ヨガインストラクター。介護施設で理学療法士として勤務。SNSに配信した、高齢者向けゲーム系レクリエーションは800種類以上。大きな反響を呼ぶ。

 

取材・文/齋田多恵 写真提供/鷲巣 豪