1歳半の頃から大衆演劇の舞台に立ち、注目される子ども時代を過ごした若葉竜也さん。ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系)では、ヒロインの杉咲花さんと働く変わり者の脳外科医・三瓶友治を演じています。そんな若葉さんに、活躍の場を広げたきっかけや演技の世界に身を置きつづける理由をお聞きしました。
不条理な役者の世界。きょうだいで一番の稽古嫌いだった
── 若葉さんは子どもの頃、ご実家が営む大衆演劇の「チビ玉三兄弟」の三男として注目されていました。当時は、役者の仕事についてどう感じていましたか?
若葉さん:「役者になんて絶対にならないぞ」と思っていました。「なるべくこの世界から遠いところに行きたい」と思っていましたね。
── そう思っていたのはなぜでしょう?
若葉さん:不条理だから。「いい芝居」っていうのが何なのかもわからずに怒られたりしていたので、いつもいら立ちみたいなものを抱えていました。「知らねえよ、そんなの」って感じで。稽古も嫌でした。5人きょうだいのなかで一番、稽古も役者の仕事も嫌いだったと思います。
── お兄さんたちは楽しそうに見えたのでしょうか。
若葉さん:長男や次男など、僕以外のきょうだいはわりと好きだったと思います。おそらくですけど、そう見えていましたね。ただ、僕には、「好きだ」と思いながら芝居をしている姿が逆に気持ち悪く見えていた気がします。
── 子どもの頃、やりたいことがあったけれどできなかった、ということは?
若葉さん:そういうのはなかったですね。でも、「旅役者」って言われるくらいで、学校も1か月で転校。転校ばっかりしていたので、友達ができなかったり、好奇な目で見られたりする瞬間がいっぱいあって、「面倒くさいな」と思っていました。
映画の「通り魔役」で注目され状況が一変
── 大衆演劇から今のように活躍の場を広げたきっかけはありますか?
若葉さん:2016年公開の映画『葛城事件』で賞(「第8回TAMA映画賞」の最優秀新進男優賞)をいただいたことがきっかけだと思います。それまでは、ゴミみたいな生活をしていたので。
──「ゴミみたいな生活」ですか…。
若葉さん:バイトをして「暇だなあ」と思いながらなんとなく生きていた感じです。「退屈だなあ」みたいな。
── どんなバイトをされていたのですか?
若葉さん:解体業、蕎麦屋の厨房、イタリアンのキッチン、あとショーパブのボーイとかもしていました。当時はほとんど役者の仕事がなかったんです。あっても年に1本とか。だから逆に言うと、「いつ辞めてもいいや」みたいな感じでした。大きく状況が一変したのは、『葛城事件』に出演してからですかね。
──『葛城事件』には、どういうきっかけで出演されたのですか?
若葉さん:オーディションです。もともと好きな演出家でしたので、オーディションに受かった瞬間「とんでもないことになったな」って思いました。うれしさより、プレッシャーや不安のほうが勝っていましたね。
── 残酷な事件を起こす役でしたものね。どんなふうに役に入っていかれたのですか?
若葉さん:通り魔の犯人という役柄で、共感したり理解したりすることはできないまでも、彼に一番近い位置で同情するというところにたどり着いた、という感じです。
── どこに共感、同情したのでしょうか。
若葉さん:多分、人間ってみんな根底に「寂しい」という感情があると思っていて。寂しさは、人間の基本的な感情のひとつだと思うんです。その「寂しい」という感情のあり方が、共通しているところかなと思います。
やっぱりみんなちょっとずつ寂しいというか、だから人と人とがつながっているわけで。まったく寂しくなかったらひとりでいればいい、というか。「寂しい」とか「悲しい」といったことは人間の根本的感情だと捉えながら、大事に演じたいと思っています。
「好き」だけで乗りきれるほど甘い仕事じゃない
── 子どもの頃は役者の仕事が嫌いだったんですよね。それなのに、今でも演技の世界に身を置いている一番の理由は何でしょう?
若葉さん:辞めたら、ご飯が食べられなくなっちゃうじゃないですか。今、僕は34歳で、いまさら役者を辞めてどこかに就職できるほど世の中は甘くないと思っているので。結局、今の自分にとっては、役者の仕事が一番食い扶持を稼げる可能性が高いだろうと。
でも、この仕事も情熱で乗りきれるほど甘い仕事ではないとも思います。だから、「好き」という感情だけではない大きな責任感のもとで役者を続けているつもりです。
「美味しい」と思ったときに「美味しい」と言いたい
── お話を伺っていて、正直に言葉を選んでお話をされている印象を受けました。
若葉さん:ちっちゃい頃からこういうしゃべり方なんです。でも、こうやって取材を受けたり、いろいろな人と関わるようになったりして、例えば、「美味しくない」と思っているものを「美味しい」と言ってしまったり、「やりたくないな」と思っていることを無理やりやって、ニコニコしながら「楽しかったです」と言ったりするのは嫌だなって。
そういうことをするほど、本当に「美味しい」と思ったときに「美味しい」って言ったことまでウソになるじゃないですか。どんどん軽薄に思えていくことが嫌で、だから僕はなるべく素直に話すようにしています。
── そういう考え方をするようになったのは、いつぐらいからですか?
若葉さん:昔から基本的には変わっていません。強くそう思ったのはここ数年だと思います。それが、別にウソになってもいいような状況だったら合わせたほうが楽ですよね、正直。でも、「どうですか?」って聞かれたときに、その答えがウソになってしまったり、「本当のことを言っているのかな」と疑われたりしてしまう状況もつくっていることになるので。だから、「正直でいよう」「ウソをつきたくない」という思いは、よりいっそう強くなったと思います。
オフの過ごし方は…正直面白くないですよ(笑)
── さまざまな方面で活躍されてお忙しいと思いますが、オフはどんなふうに過ごされていますか?
若葉さん:日によって違いますよ。自分で言うのもなんですが、本当に面白くなくて(笑)。ゲーム実況のYouTubeを観てるだけだったり。ゲーム大好きなんです。映画を観るよりも面白かったりすることもあるし(笑)。わりと多ジャンルやりますよ。ホラーゲームもロールプレイングも。
── 子どもの頃からゲームはお好きなんですか?
若葉さん:いやいや。逆に、子どもの頃にあまりやる時間がなかったからかもしれないですね。今はもう、休みの日があったらYouTubeとゲーム、という感じです。
── 子どもの頃から役者の仕事をしていて、忙しかった反動でいまゲームにハマっている、という面もあるでしょうか?
若葉さん:うーん、どうかな。でも、裕福な家庭の友達の家に行って、そこでゲームをクリアしたりしていたので、もともと得意なほうではあったと思います(笑)。
── インドア派、という感じ?
若葉さん:出かけることもありますよ。僕はお酒を飲まないけれど、みんなでお酒を飲みながら話をしたり盛り上がったりする場は嫌いではないので。先輩に誘われれば行くし、友達が「お酒を飲みたい」と言えばついて行きます。
プライベートの時間が一番大事なので、そういう「どうでもいい時間」を死守したいと思ってますよ。逆にそれができないなら役者とか俳優界なんか即やめますね。友達と何か始めて、食い扶持をまた必死に探すでしょうね。
PROFILE 若葉竜也さん
1989年東京都出身。2016年、映画『葛城事件』で第8回TAMA映画賞「最優秀新進男優賞」を受賞。作品によって違った表情を見せる幅広い演技力で、数多くの作品に出演。若きバイプレーヤーとして評価を高める。3月22日より主演映画『ペナルティループ』が公開。
取材・文/高梨真紀 スタイリスト/Toshio Takeda (MILD) ヘアメイク/FUJIU JIMI 撮影/CHANTO WEB NEWS