役柄から「物静かな」イメージを持たれる中嶋朋子さん。じつは、好奇心旺盛でチャレンジするタイプ。聞けば聞くほど、清々しいほど「いま」に夢中になれる方でした。
空中ブランコは最高のアクティビティでした!
──『北の国から』の蛍役をはじめ、多くの作品から、中嶋さんに物静かで一歩引いてたたずむイメージを持つ方も多いかと思います。でも、エッセー集では、好奇心旺盛な中嶋さんを知ることができました。見知らぬ人との会話から、空中ブランコに挑戦した話にはびっくりしました。
中嶋さん:数年前ですが、空中ブランコをやってみました。偶然、息子の留学先から帰国する際、航空機で隣り合わせになった方が白湯を頼まれていたので、「お白湯ですか、健康に気をつかってらっしゃるんですね」って、話しかけたんです。
ちょうどその方は年齢を重ね身体や仕事、ライフスタイルなどにわたり心技体をどう見直すか模索していた時期、私もとても興味がありました。
人生の在り方について話をして盛り上がっていたら、彼女が「空中ブランコすごくいいわよ」と、話してくれたんです。「心と身体がちゃんとつながれば、頭で考えあぐねなくても人生の大切な瞬間を逃さず反応できるようになる」そうで、空中ブランコはその感覚に満ちているんだそうです。
── 空中ブランコなんて、ふつう考えつきませんものね。いつ実践されたのですか?
中嶋さん:私も考えたり迷ったりするのをやめて、やってみることにしました。帰国してすぐに、空中ブランコを習える施設に行ったんです。
いやぁ“いま”に手放す、を本当に実感できる、すばらしい体験でした。よく、過去や未来にひっぱられず、“いま”に集中しなさいと言われますけど、なかなかできませんよね。
空中ブランコは先生の指示や相手の呼吸のタイミングにあわせて、バトンをつかんで、方向を変えて、跳ぶんです。
もし、「できるかな?」「どうやるのかな」と迷ったら、もう遅い。先生の「はい!」という指示が出る前から集中して、考えるより先にその一瞬で飛び出さないといけないんです。空中ブランコは、なかなかできない“いま”に手放す、ができるアクティビティですよ。
── ご自身の直感にしたがって、素直に行動に移すところが素敵です。ふだん、ご自分からよく人に話しかけるほうなんですか?
中嶋さん:そう、興味が勝っちゃう(笑)。
── エッセー集『めざめの森を めぐる言葉』では趣味に本気なエピソードも。クラッシックカーのレースに出場したのは本当ですか?
中嶋さん:小さいころ、車種もわからないけど、かわいくて憧れていた車があったんです。たまたまクラシックカー好きのお友だちに連れられてレースを観にいったら、その車を発見して!
「わぁ、大きくなったらこの車に乗りたかったの!」と、同じ車を購入して乗ることにしたんです。みんながあまり乗らない車だから、しばらくしたら「レースに出ないか」と声をかけていただきました。
いまはその車を手放しちゃったんですけど、好きな人が大事に乗り継いでいる感じが好きですね。いしだあゆみさんも同じ車種に乗られていたそうです。
子どもへの読み聞かせは「自分が楽しむのが一番」
── 好きなことをとおしてどんどん世界が広がりますね。私の印象では、中嶋さんはどこか考えこんだり、寂しげな表情が印象的な役が多い気がするのですが、ナレーションやラジオはまた一味違う印象もあります。
中嶋さん:そうそう、映画やドラマは悲しげな役が本当に多いんですよ~、どうしてでしょう(笑)。
ナレーションについては、かまえて何かを変えているわけではないです。ディレクターさんの要求を理解しつつ、もちろん自分の呼吸で、ではありますが。
── 声といえば、中嶋さんは、お子さんに読み聞かせをしていましたか?プロに聞くのもなんですが、コツを教えていただけませんか?
中嶋さん:読み聞かせはしていましたよ。一番は自分が楽しむことですね。息子への読み聞かせも、自分が読みたい本を読んでました。
息子がまだ小さいときに、私が読みたいサン・テグジュペリの『星の王子さま』やミヒャエル・エンデの『はてしない物語』を読み聞かせました。読みたいけど時間がなくてなかなか自分では読めないときもありますからね。
3行だけでもいいんですよ。彼にはまだわからないかな、と思っていても、「それって何?」と、案外いろいろ聞いてきました。逆に寝てくれなくなったり(笑)。もしくは、あまりにも難しくてすぐ寝ちゃったり。誰かが読んでくれる行為に安心・満足することもあるので、内容は二の次なのかもしれない、なんて。
── 声のお仕事もある中嶋さん、ふだんから声のケアはされてますか?
中嶋さん:「健康にはこれがないとダメ」というふうにはしたくないのですが、声だけは自分なりの処方箋みたいなものはあります。はちみつ、塩、今日はこのハーブティーかな、みたいな。どうしても荷物は多くなっちゃいますね。
小泉今日子さんや満島ひかりさんと話したこと
── 映画、舞台、朗読、エッセーと多彩な活躍をされていますが、今後はどんな方向をめざしていますか?
中嶋さん:「いろんな人とつながって作品を作っていく」のは、どんどんやりたいです。先日も小泉今日子さんがプロデュースされている朗読ジャーニー『詠む読む』という企画で、満島ひかりちゃんと朗読をする機会がありました。
小泉さんは完全に裏方としてばっちり働くすごい人。あの感じで「やりたいこと、やりたいじゃん」っておっしゃっていて、「あぁ、かっこいいなぁ」って思います。
このタイミングでこの人たちに出会って、みんなでやりたいことがあるって楽しいよねと話しあっています。私も、自分のやりたいことに大事に向き合いたいです。
── やりたいことがあるって幸せなことですよね。
中嶋さん:でも、日々忙殺されていると、好きなことや、やりたいことができなくなるんですよね。面倒くさくなってとりあえず寝ちゃったり。元気がないと、どんなに好きなことにも飛び込んでいけない。好きなことにはもっと埋没したいですよね。そのためにも心穏やかに元気でいたいなぁと思います。
日々、自分自身も環境も変わっていきますから、それにたいして柔軟でいたいです。柔軟さと、本当に変えてはいけないもののバランスは考えていきたいです。固執すると、新しい風も入ってこないけど、流されてしまうと自分がなくなってしまいますから。
── 3月23日に行われる、中嶋さんプロデュースの朗読劇『カミサマノ本棚』もやりたいことのひとつですね。構想・企画・制作に2年、とうかがいました。「これやりたいよね」と、言いあえる仲間がいるのがうらやましいです。
中嶋さん:今回は、“朗読劇”に対する固定観念を取りはらって楽しんでいただける作品になればいいなと思っています。俳優の石井正則さん、チェリストの四家卯大さんと3人で、朗読・音楽・即興劇を皆さんに体験していただきます。
固定観念を取り払うといえば、以前、舞台芸術グループ「仕立て屋のサーカス」の作品に私が朗読で参加しようかと相談したら、みんなで「物語を読むのやめない?最初から最後まで読まないってどう?」「最初から最後まで食べ続けてみたら」なんて盛り上がりました(笑)。
これも、ひとりの人生や物語を表現することになりますよね。例えば、リンゴを食べる音も音楽になりえます。生きているということ自体が表現ですから。
私たちが表現したいものがあふれて、お客様にそれぞれ好きなものをつかんで帰っていただければ。好きな人たちと、好きな世界を出しあって作っていくことを今後たくさんやりたいです。
PROFILE 中嶋朋子さん
東京都出身。2歳から劇団ひまわりに所属し、5歳の時にデビュー。ドラマ『北の国から』シリーズで、主人公の娘・蛍役。映画『つぐみ』ではブルーリボン賞助演女優賞を受賞する等、数々の映画・ドラマ・演劇作品で活躍。朗読劇にも力を入れており、この3月に本人プロデュース『カミサマノ本棚』を上演。
取材・文/岡本聡子 写真提供/中嶋朋子、砂岡事務所