ドラマ『北の国から』で、中嶋朋子さんが演じた「蛍」が一児の母に。じつは、生まれた子ども役は中嶋さんの実の息子さん。出演に大反対した中嶋さんの心境を変えたご主人の言葉とは。
拒否し続けていた息子の出演「夫の言葉で決心」
── 中嶋さんは、1981年から『北の国から』に21年間出演されましたが、『北の国から 2002遺言』には、息子さんも出演されました。
中嶋さん:蛍の息子役ですね。倉本先生に冗談っぽく「おまえの子どもの話を書いたから、出せよ~」と言われて、冗談みたいなときほど先生は本気だから「ヤバい!」と思いました。
自分が子どもだったときの撮影が本当に大変だったので、絶対ない!と。聞かないフリをしていたんですが(笑)。お父さん代わりのような存在のプロデューサーさんに呼び出されて「息子さんを使いたいんだけど…」と持ちかけられて「イヤです!!」。
「でも、このドラマはドキュメントだから」と言われて、「違います!!」。ずっと、世の中から“蛍”と私を重ねられることに悩んで戦ってきたのに、「ドキュメントだなんてひどい、あれはフィクションですから」と。でも、根底には、ドキュメントのように撮影してきた経緯があると理解はしていました。
── 葛藤した過去を思い出して、ちょっと怒ってしまったんですね。息子さんは当時、何歳ですか?結果的には出演されていますが…。
中嶋さん:2歳くらいです。その後も「知らない子どもが出演するのと、実際の息子と芝居するのは違うよ」と、皆さんから説得され続けました。
家族にも「こんなこと言われたの!」と腹を立てながら伝えたら、夫から「君はこの作品を誇りに思っているだろう?大好きな作品に息子が出るということをポジティブに考えてみたら?」と言われたんです。
そう言われてみて、会わせたい人がいっぱいいる、雪景色も見せてあげたい、と、息子とシェアしたいことがたくさん浮かんできました。
「『北の国から』に出演するというのは、君が母親だから息子にあげられるギフトなんじゃない」という夫の言葉で、出演を決めました。
── 息子さんへのギフトだったんですね。共演者の反応はいかがでしたか?
中嶋さん:邦さん(故・田中邦衛さん)が、ご自分のお孫さんのようにかわいがってくださって、私の実の息子が出てくれてよかった、とおっしゃいました。
私も実際に撮影してみて、よそのお子さんだったら私のほうが難しく感じただろうと思いました。お母さまについてきてもらって、あんな過酷な現場で一緒にするなんてムリだなぁって。
自分の子どもだから責任をもってやりきれました。いまでも息子には、いいことをしたのか悪いことをしたのか、わからないですけど…。
── 撮影中の息子さんの様子は?
中嶋さん:撮影は男の人たちが多いのですが、私がべったり一緒にいるより、息子をポンってはなったほうがしっかりしていましたね。
幼くても男同士のプライドみたいなものがあるのかな。アシスタントの女性に甘えたり、彼女たちにかっこいいところを見せるためにがんばってみたり(笑)。
監督の言うことを聞いていないようでちゃんと聞いていたり。息子の意外な一面を発見してびっくりしました。
中2で息子が「役者やりたい」いまは良い同業仲間
── そんな息子さんは、現在役者の道に進まれています。
中嶋さん:幼いころに『北の国から』に出演したり、母親が女優だというのは彼にとって大変なことだったと思います。
だから、なるべく仕事のことを話したり、舞台を観に来てもらったりはしていました。そうしたら中学2年生くらいのときにいきなり、「役者になりたい」と言い出したんです。「高校生になったら自分でオーディションを受けてみたいんだ」って。
── 中嶋さんの仕事ぶりをみて、息子さんの中でも考える部分があったんでしょうね。実際にオーディションを受けたんでしょうか。
中嶋さん:ちょうど出演者を大々的に全国規模で募集していた映画の一般公募があったんです。ちゃんとワークショップ形式で長期間オーディションを行うものだったので、受からなくても勉強になる経験のように思えました。運よく選んでいただいて出演したのが、2015年の映画『ソロモンの偽証』です。
撮影が終わって、「どうだった?」って聞いたら、息子は「楽しかった」。うわー、よかった!もう母は何も言えませんでした。
── その映画出演がきっかけとなり本格的にこの世界へ。現在、同業者としてどんな関係ですか?
中嶋さん:よく話をしますし、相談にものりますよ。でも、役者としての特性がそれぞれ違うので、私のやり方と彼のやり方は違うのもお互いに認識しています。私の作品は必ず観に来て、感想を言ってくれます。本当に良い仲間です。
真面目に考える家族「だから日常は軽口で面白がる」
──「良い仲間」に育った息子さん。中嶋さんが子育てで大切にしてきたことは?
中嶋さん:私が子どものころ、ドラマ『北の国から』の現場で大人が私をひとりの人間として、仲間として尊重してくれて嬉しかったので、同じように息子にも接してきました。
その子なりの視点も尊重しつつ、彼が迷ったときには「こっちじゃない?」と声をかけてきました。すべて自由だと、子どもにとっては責任が生じるからつらいんですよね。
だから自由と責任のバランスをどうするか、子どもと向き合いながら考えてきました。本当に自由でいいというリアクションが子どもから返ってくると「え、どっちにする?」って逆に私が悩んじゃう(笑)。
子育てをしながら、自分や子どもの心の動きを考え、人間観察してきましたね。それを見ている家族を、また観察してみたり…。
── 子どもとのやりとりで学ぶことは多いですね。子育ては、演技にも影響を及ぼしましたか?
中嶋さん:はい。もともといろんな方向から役柄をみてきましたが、一辺倒に見ないように、より心がけるようになりました。
ほら、子どもって心も身体も突拍子もない動きをするじゃないですか。演じるときもそのくらい突飛でもいいんだな、と思えるようにもなりました。子育てにも演じることは作用しているし、演じることも子育てに影響していますね。
── 親子でよく会話するご様子ですが、2020年のエッセイ集『めざめの森をめぐる言葉』では、息子さんと家庭で“名言対決”している様子が紹介されていました。
中嶋さん:しょっちゅうやってますよ。家の中ですれ違いざまに、名言を発するんです。二人とも女優や俳優風のリアクションをとったり、おおげさにやってみたり。
いきなり、ぼそっと「今日は雲が多いね、僕の思考のようだよ…」みたいな、もうおかしくて(笑)。そこで笑っちゃうときもありますし、詩的に返してどっちが笑いをこらえられるか大会になって、クソーって言いながらやっています。
── ご主人もその対決に参加されるんですか?
中嶋さん:私と息子はわりと似ているのですが、夫はまた別ベクトルで独自の世界があって、なかなか面白いんですよ。そうくるかー、と夫の発言に私と息子がずっこけることもよくあります。
もともと私たち家族は、すごくまじめに物事をとらえるチームなんです。だから、深刻になりすぎないようにしたいし、シリアスなのをひっくり返したいんです。
深遠なものの中にもおかしみってあるじゃないですか、そんなふうに極めるとおかしくなっちゃうんですよ。そのなかでちらちらお互いの感じていること、センスをすりあわせてるんです。
ものすごく真面目に話し合うこともありますが、そういうときって堂々巡りになりがちで、こんなふうにちょっと遊んでるほうがうまくいくように思えます。こうやって家族でバランスをとっています。
PROFILE 中嶋朋子さん
東京都出身。2歳から劇団ひまわりに所属し、5歳の時にデビュー。ドラマ『北の国から』シリーズで、主人公の娘・蛍役。映画『つぐみ』ではブルーリボン賞助演女優賞を受賞する等、数々の映画・ドラマ・演劇作品で活躍。朗読劇にも力を入れており、この3月に本人プロデュース『カミサマノ本棚』を上演。
取材・文/岡本聡子 写真提供/中嶋朋子、砂岡事務所