ドラマから舞台へと活躍の場を広げた中嶋朋子さん。朗読劇にも力を入れ、音楽とのコラボレーションにも熱心です。その理由は、「自分の声音の限界」に気づいたからでした。

「16歳で初舞台」小さな声の蛍役から一変した舞台の世界

── 1981年から21年間『北の国から』の蛍役を演じた中嶋さん。蛍以外の役や舞台に挑戦されたときのことを教えてください。

 

中嶋さん:16歳のときに、坂東玉三郎さん演出の『ロミオとジュリエット』のジュリエットを演じました。

 

『北の国から』の黒板家は小さい声でしゃべる家族だったので(笑)、舞台では声量が出なくて大変でした。玉三郎さんは、声が出ない私に対して、声を出そうとするよりも心を開放してそこに声がのっかれればいいと思われたそうです。

 

声が出なくて委縮していた私に、玉三郎さんが「ごめんなさいね、私が指導を間違っていました、まずは楽しく歌を歌いましょう」と言ってくださり、それだけで声が出るようになりました。

 

── 玉三郎さん、すばらしい考えですね。その後、さまざまなドラマ、映画、舞台と幅広く活躍されていますが、やはり舞台は違いますか?舞台で大切にされていることはありますか?

 

中嶋さん:舞台は総合芸術であり、みんなで作っているものなので、自分の中で解決しようとせず、困ったら誰かに寄り添ってもらい、自分も寄り添う姿勢が大切です。

 

また、ドラマのようにカット割で切ってもらえないですから、舞台は空間すべてを使って存在するのを意識しないといけないのが一番の醍醐味かもしれません。自分自身の肉体の全体性、集団としての全体性というところも考えますね。

 

私の場合、映画は自分のうちに入って高めたものを空気に解き放つというか…自分の中で凝縮して、みんなとすりあわせるような感覚です。映像は方法論が異なりますし、時代によっても変わります。

「音楽があれば」伝えたいことがもっと伝わる

── さまざまな舞台作品に出演されていますが、音楽とのコラボレーションにも熱心です。

 

中嶋さん:もともと朗読劇もやっていたのですが、音楽畑の方々と朗読歌劇をやってみると、ものの作り方がまた全然違ったんです。

 

音楽的に言葉を使い、リズムや空間を共有するのが私には合っています。文学的に内容をつめて役を演じるのも好きなのですが、私が発したものが、風にのって流れるようにお客さんに届くのがいいなぁ、なんて。

 

── 流れて届く、演劇や朗読みたいに全力で伝える感じとは違いますね。そもそも、音楽と朗読ってどうやってあわせるのですか?音楽が入ると何が変わるのでしょうか?

 

中嶋さん:とにかくあわせてやってみよう、という感じです。あわせてみて違えば、チューニングすればいい。

 

音楽の人たちと共演すると、自分では語れない人間の生体リズムが表現にのるのが、とても面白いんです。声だけだとその人の特性があるので、たとえば、私が軽くしゃべっていても私の特性で湿度がのって、難しく聞こえたりするんです。

 

それを演技力でなんとかしようとするのですが、とてもフラストレーションを感じます。私の声を通すと、伝えたいことが伝わらない!って。思った通りの音が出ない!楽器が違う!と感じます。

2023年、共演の多いチェリスト・四家卯大さん(写真右)との朗読ライブのリハーサルの様子

── 中嶋さんにとっては、声も楽器なんですね!

 

中嶋さん:いろんな音色、いろんな楽器で一緒に表現すると、多層的なハーモニーになって自分の肉体を超える表現ができます。音楽がすばらしいのはこういうところです。

 

── これまで出演された「音楽と朗読劇」は楽器編成も、扱う音楽の分野も本当にバラエティに富んでいます。ご自身の特性を研究された結果でしょうか。

 

中嶋さん:自分がもっているものや特性によって、イメージが決まってしまう不自由さに気がついたのが大きかったですね。

 

そこから、「どうしたらいいんだろう」とずっといろんなことを考えてきたから、いろんなことをやりはじめました。音楽と出会って、新しい扉が開きましたね。

朗読劇をプロデュース「観る人の固定観念を崩したい」

── 今回、朗読劇『カミサマノ本棚』をプロデュース、そして出演されますが、どんな思いで作りはじめたのですか?

 

中嶋さん:観てくださる方々の中の固定観念を一度崩して、新しいものを味わっていただきたいという思いが根底にありました。

 

朗読劇に関して、「本読むだけでしょ?」「その本読んだことあるよ!」などと言われるんですが、「いやいや、朗読劇が一番難しいんだから!」って(笑)。

 

朗読劇は、“言葉を読む・届ける”という行為だけで、演者と観客がイマジネーション(想像力)を互いにふくらませ、共有しながら劇空間を創っていくものなんです。

 

イマジネーションを共有するとは、見えざる感覚だけの世界。だからこそ難しいんですよね。私たち届ける側からの一方通行では、成立しません。お客様に、能動的に想像の世界で遊んでもらわなければならないのです。

 

この意味では、今回の朗読劇は挑戦かもしれませんが、演劇にしても観ない人は観ません。そうではなくて、思わず観たくなるような、いままでの枠組みに入らないものを作らなければと思ったんです。

 

3月23日に神奈川県大和市で行われる中嶋さんプロデュース『カミサマノ本棚』は、朗読と音楽でつむぎだされる世界観に注目

── 観客も想像力を駆使して、ともに作品の世界に入っていく感じでしょうか。私が今まで朗読劇に抱いていたイメージとはだいぶ違います。今回の『カミサマノ本棚』というタイトルの由来は?

 

中嶋さん:私たちが出会うすべての言葉に、人生のヒントや答えが含まれていることってありませんか?それは街で見かけた看板やチラシ、詩人の言葉かもしれません。

 

こんなふうに、自分たちにふりかかってくる言葉はすべて“ギフト”だと考えたらどうでしょう。辛辣な言葉をかけられたり、傷ついたりしてもそこに発見があれば、“ギフト”になります。

 

世の中にある言葉は、誰かが用意した私たちへの“ギフト”の本棚だとしたら…その意味で『カミサマノ本棚』とタイトルをつけました。

 

映画や音楽からも自分しか持ち帰れないギフトがある。受けとるものをそんなふうにとらえていただければ、毎日が少しずつ良くなるのでは、という私からの提案なんです。

 

事前に参加者の方と言葉選びのワークショップを行って、自分がちょっと嬉しくなる言葉を集めて舞台に使う予定です(※編集部注=イベントは終了)。

 

── 偶然出会ったひと言が心に残り、気持ちを前向きにさせてくれることもありますものね。

 

中嶋さん:そうそう、出会いはなんでもいいんですよ。心に残る言葉って、難しく考えなくていいと思います。皆さん、ついかまえてしまいがちで、読書なら「ドストエフスキーを読まなきゃ」なんて、そんなのどうでもいいんです。

 

その本の中で、1節でも心惹かれる言葉が見つかれば十分。ちゃんと読まなきゃと頑張らなければいけない感じは不要ですよ。もっと自分が好きなもの、つかんだものを信じていいはずなんです。

 

PROFILE 中嶋朋子さん

東京都出身。2歳から劇団ひまわりに所属し、5歳の時にデビュー。ドラマ『北の国から』シリーズで、主人公の娘・蛍役。映画『つぐみ』ではブルーリボン賞助演女優賞を受賞する等、数々の映画・ドラマ・演劇作品で活躍。朗読劇にも力を入れており、この3月に本人プロデュース『カミサマノ本棚』を上演。

 

取材・文/岡本聡子 写真提供/中嶋朋子、砂岡事務所