自身の介護経験をエッセイにまとめた『介護現場歴20年。』を上梓したお笑いコンビ・メイプル超合金の安藤なつさん。芸人としてブレイクしながらも介護職を続けた理由や、介護福祉士国家試験の挑戦についてお聞きしました。(全3回中の3回)

介護資格唯一の国家資格に42歳で合格

── 芸人としての活動を続けながら、『介護福祉士国家試験』(*)にも合格されています。資格を取得しようと思ったきっかけは何でしたか?

(*注)介護資格の中で唯一の国家資格。介護福祉士国家試験に合格し、登録を行うことで国に認められた介護職員となれる。受験には実務経験なども必要となる。

 

安藤さん:普段から「これまでやってきた介護の仕事の答え合わせがしたい」と感じていたんです。そんなとき、ある事業所さんと仕事をする機会があり、介護福祉士の初任者研修や実務者研修をそこで受けられると教えてもらって。「もし介護福祉士を目指すのであれば、うちの事業所でやってみませんか」と言ってくださったので、すぐに申し込みました。翌年に受験しようと思い、すぐに勉強を始めました。

 

メイプル超合金の安藤なつさん

── カズレーザーさんは芸能界屈指のクイズ王として知られていますが、受験勉強に対するアドバイスをもらったりしましたか?

 

安藤さん:私は受験勉強の経験がなかったので、効率のいい勉強のペース配分などをカズに教えてもらいました。 試験前から逆算して、毎日の勉強時間を決めたりして。暗記に関しては、最初からもう40代だったので苦戦するだろうって思っていて。毎日毎日、過去問を解いていましたね。

 

── 勉強は大変ではなかったですか。

 

安藤さん:いや、楽しかったですね。今まで小さい頃から感覚的にやってきたことが、知識として入ってくるのが楽しかった。自分のなかで答え合わせができたのが大きかったですね。

介護歴20年だから言える「ヤングケアラー」への率直な考え

── 安藤さんのような関わり方とは定義が少し違いますが、身近な人の介護に関わる子どもや若者、いわゆる「ヤングケアラー」の存在が近年注目を集めています。「ヤングケアラー」に関して、どう感じていますか?

 

安藤さん:ヤングケアラーの方々は、本当に大変だと思います。介護では、家族の面倒を見るのが一番大変。自分も家族ではなくて、他人の介護だったからできたわけで。

 

家族の介護で大変なところは、気持ちが切り離せない部分。たとえば、家族が認知症になったり、事故で足が動かなくなったとします。それまで動けていた母親が足を動かせなくなっていたら、周りも絶対につらいじゃないですか。介護を受ける本人も、家族から世話にならなければいけないフラストレーションが溜まってしまう。それを介護する子どもにも、イライラが連鎖していく…。そんな状況になるなら、第三者を入れて介護のサービスを受けてもらったほうが絶対にいいと思います。

 

── どうしても、身内の介護は家族でやろうと考えてしまいがちですが、介護サービスを上手く利用したほうがいいと。

 

安藤さん:私が介護をしているのと、ヤングケアラーの方とでは、状況がぜんぜん違います。自分たちで抱え込まないで、人に頼めるものは頼んだほうがいい。それが薄情かって言われたら、絶対にそうではないので。自分も、家族が倒れたら絶対に第三者による介護サービスをお願いするつもりでいますし。介護はある程度家族と切り離して、ほかのサービスに任せていいと思います。

「死ぬまでにどれだけ楽しく過ごせるかを考えたい」

── 認知症のおじいさんに折り鶴を折って渡したら、おじいさんが翌日、チラシで大きな折り鶴を折ってくれていたことがあったとか。

 

安藤さん:折り鶴のおじいちゃんのおうちには、立位が取りづらかったのをサポートするために夜中に訪問していました。ベッドの横にあるポータブルトイレに誘導する間も、夜中だったので全然会話がなかったんです。本当に物静かなおじいちゃんで。だから折り鶴をもらったときは、めっちゃ嬉しかったですね!

 

ケアプラン(介護サービス計画書)の中に折り鶴を折ることは入っていないので、折り鶴を置いてくるのはどうだったのかな…。でも嬉しかったです。

 

『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より

── 介護の現場にいると、どうしても死という悲しい別れと直面しなければなりません。安藤さんはどのようにして受け入れられるようになったのでしょうか。

 

安藤さん:自分の場合は、小さい頃から人が亡くなるというのを見ていたので、ゆっくりと慣れていったのだと思います。あと子どもだったから、周りも隠していたのかもしれません。しばらく施設に来ていないな…って思ったら亡くなっていた、みたいな。

 

だから死に直面はしていなくても、徐々に受け入れていく形で成長していったのだと思います。そういう意味では、急激な死みたいなものを目の当たりすることは、あまりなかったですし、大人になってから直面すると、きっとショックも大きいですよね。

 

── つらい別れを経験したときには、どのように気持ちを切り替えていましたか?

 

安藤さん:死について考えてしまうと悲しくなるかもしれないけれど、介護に関わる人たちは多分、“死ぬまでにどれだけ楽しく過ごせるか”っていうほうに気持ちをシフトしているんじゃないかと思うんです。

 

“死ぬのは嫌だね”っていう寄り添い方もあるかもしれないけど、「ちょっと楽しいことをしてみよう」とか「美味しいものを食べよう 」っていうふうに意識を変換してみるといいと思います。

 

── 安藤さんがいまも介護にかかわり続けていることに対して、周りからはどんな反応がありますか?

 

安藤さん:私に介護の世界を教えてくれた伯父はすでに亡くなっていますが、母の姉が伯父の奥さんなので、ときどき会いに行って話をします。喜んでくれていると思います。基本的には私は裏方体質で、中心に立つタイプではなかったんです。でも周りから支えられて、自分も頑張れるっていうのは根底にあります。これからも引き続き、縁の下の力持ちみたいな形でサポートできるような活動ができると嬉しいです。

 

PROFILE 安藤なつさん

東京都出身。2012年にカズレーザーとメイプル超合金を結成。2015年『M-1グランプリ』では決勝進出し、ファイナリスト9組に残った。介護職の経験は、ボランティアも含めると約20年。ホームヘルパー2級、介護福祉士の国家資格も取得。厚生労働省の補助事業『Go!Go!KAI-GOプロジェクト』では副団長を務めている。

 

取材・文/池守りぜね 撮影/山田智絵 イラスト/まめこ