お笑い芸人として活動しながら、昨年、介護福祉士の資格を取得したお笑いコンビ・メイプル超合金の安藤なつさん。今年2月には、介護の経験を通して感じたことをまとめた『介護現場歴20年。』を上梓しました。小学生の頃から介護の現場に慣れ親しんでいたという安藤さんに、当時のお話を聞きました。(全3回中の1回)

介護の原体験は小学生「睡眠障害の女の子と自分の違いに驚いて」

── 小学生の頃から伯父さんが運営する介護施設でのボランティアを買って出ていたそうですね。根気がいる現場だと思いますが、途中でやめたいと思ったことはなかったのですか?

 

安藤さん:伯父の施設でいろんな人と関わりながら活動すること自体が楽しくて、率先して手伝いに行っていました。だから、途中でやめたいってことはなかったですね。子どもながらに、介護が必要な子たちと楽しく過ごすためにはどうやってお手伝いをすればよいのかを常に考えていました。

 

── 介護施設というと「お年寄りの介護を行う場所」というイメージが強いですが、睡眠障害をもつ小学生など、さまざまな障害を抱える利用者がいらっしゃるのですね。

 

安藤さん:そうなんです。その睡眠障害をもつ小学生のKちゃんは、自分と同年代の女の子だったので、親近感を抱いていました。最初から障害があるというのは認識していたのですが、私も子どもだったので、具体的な症状まではわかっていなかったんです。

 

『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より

特に印象的だったのが、伯父の介護施設の恒例行事だった夏合宿に対するKちゃんの反応でした。私だったらわくわくしながら準備をするのに、Kちゃんは一つひとつの作業を細かく分解して、段階を踏まなければ理解できなかったんです。

 

まず「何日間、泊まります」という説明から始まって、「洋服が何枚必要だから、一緒に準備しよう」という感じで、一つひとつをわかってもらう作業が必要でした。そういう発想が自分にはなかったから、すごく驚いた記憶があります。

 

── 当時から、介護という職業を認識されていたのですか?

 

安藤さん:介護という言葉を認識したのはずっと後です。中学のときにボランティア部に入っていたので、介護という言葉自体は漠然とは知っていました。ただ、介護職といった意味合いできちんと理解したのは大人になってからだと思います。

 

── 介護施設の手伝いは、安藤さんのご両親から勧められたのですか?

 

安藤さん:親から「手伝いに行って」と言われたことはなかったです。伯父の施設も自宅からは遠くて、2本電車を乗り継いでトータル2時間くらいかかっていました。でも自分から「行きたい」と言っていたので、つらくはなかったです。小学生のときはそれほど回数は行っていなかったのですが、中学生になってからは週末に泊りがけで手伝いに行くようになりました。

中学は柔道と介護ボランティアの日々「遊びの延長だった」

── 中学に入学されてからは、柔道部とボランティア部を掛け持ちされていたそうですね。忙しくはなかったですか?

 

安藤さん:中学のボランティア部は名ばかりで、部員がほぼ私だけだったので、個人活動に近かったです。伯父の施設に行っていたのも、部活の延長みたいな感覚でした。柔道部のほうは、子どもの頃に空手を習っていたのもあり、“武道ってカッコいいな”と思って入部しました。でも柔道部も女子部員が一人しかいなくて、帯が取れなかったんです(笑)。柔道の型の試験は、同じ部の女子部員同士で組んでやらなければならなかったので。

 

メイプル超合金の安藤なつさん

── とはいえ、部活も頑張りながらボランティアも続けていたのですよね。しかも介護は「仕事というより遊びの延長」だったとのこと。学校の友達と遊ぶよりも、介護施設で過ごすのが楽しいと感じていたのでしょうか?

 

安藤さん:私にとっては、介護施設に行くことが、友達と遊びに行くっていう感覚に近かったんです。だから“手伝いをして偉いでしょ”みたいなおごりもなかったです。介護施設に行って手伝ってはいたけれど、“人のために何かをやろう”っていう気持ちではやっていなかったと思います。

 

── 介護施設の利用者には年配の方が多いと思いますが、見知らぬ年配の方と接するのに抵抗はありませんでしたか? 

 

安藤さん:父方の祖母と同居をしていたので、お年寄りと接することに抵抗はなかったのです。小さい頃は知り合いではない近所のおじいちゃんと公園で遊んだりもしていたので、相手が年配でも気にならなかったですね。

 

── 中学時代、認知症のおばあさんになかなか認められず苦労した経験があるとか。工夫を重ねて信頼関係を構築されたそうですね。ご自身では、当時の経験はどのようにとらえていますか? 

 

安藤さん:その当時は、おばあちゃんの症状が認知症という病気だという認識がなかったんです。ただ忘れっぽかったり、着替えがしづらいから、そのお手伝いをしている感覚でした。おばあちゃんに着替えを促すために、いろいろなキャラに扮したのは今の芸に生かされているのかわからないけれど(笑)。でも、相手を喜ばせるためにはどういうふうに行動すればいいかを常に考えるという面は、お笑いと共通しているかもしれません。

 

『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より
『介護現場歴20年。』より

── おばあさんとの交流で、初めて介護のやりがいを感じたということでしょうか。

 

安藤さん:言葉としては適切ではないかもしれないのですが、中学生の頃は「できなかったことができるようになった」っていう達成感がなんともいえなくて。ゲームをクリアしたときのような、不思議な感覚だったんです。とくに認知症のおばあちゃんが自分のことを受け入れてくれたっていう嬉しさが大きかった。めっちゃ優しいおばあちゃんで、「寒いでしょう」って言って、私の手に脱ぎたての靴下を履かしてくれたりもしたんですよ(笑)。

 

PROFILE 安藤なつさん

東京都出身。2012年にカズレーザーとメイプル超合金を結成。2015年『M-1グランプリ』では決勝進出し、ファイナリスト9組に残った。介護職の経験は、ボランティアも含めると約20年。ホームヘルパー2級、介護福祉士の国家資格も取得。厚生労働省の補助事業『Go!Go!KAI-GOプロジェクト』では副団長を務めている。

 

取材・文/池守りぜね 撮影/山田智絵 イラスト/まめこ