アスリートにとって、引退後のセカンドキャリアは課題になっています。女子バスケで代表にまで上りつめた藤岡麻菜美さんは、20代で引退し、二足のわらじ生活に入りました。(全3回中の3回)

母校で指導することに「まずは技術より信頼関係」

── 藤岡さんは、20年以上にわたりバスケットボールの強豪チームでプレーをして、日本代表のキャプテンまで務めてきました。現在、藤岡さんは母校の千葉英和高の女子バスケットボール部で指導をされています。何かきっかけがあったのでしょうか?

 

藤岡さん:指導に関わるようになったのは2020年からです。恩師でもある森村義和コーチがご高齢で後継の指導者を探していて、私に「やってみないか」と声をかけてくださいました。

 

結果的にシャンソンVマジックへ復帰することにはなりましたが、当時はJX-ENEOSに所属していて、怪我や体調不良もあってちょうど引退を考えていた時期でした。それにもともと高校の先生になるのが夢で、いつかは母校で指導したいと思っていました。

 

教員ではなく外部コーチという立場ではありますが、「ぜひやらせてください」とお受けしました。

 

── 最初はアシスタントコーチとして入られたということですが、どんな役割だったのでしょうか?

 

藤岡さん:求められる役割は個人やチームによって違うと思いますが、バスケットの指導はもちろん、私の場合は同性としてかつ年齢が近いこともあり、部員たちの話を聞いてあげるのが一番の仕事でしたね。

 

指導する藤岡さん(中央・背を向けている)

部員から相談を受けることもありますし、コーチはこう考えているからこう言ったんだと思うよ、という具合に、コーチのアドバイスをより噛み砕いて伝えられるように心がけていました。

 

── 元全日本の選手がアシスタントコーチとしてきたとなると、部員のみなさん緊張されたのでは?

 

藤岡さん:そんなのは最初の1週間くらいでしたね(笑)。でも、高校生の年代の子は、信頼関係がすごく大切なので、そこを築くことから始めました。

 

── どうやって信頼関係を築いていったのでしょう?

 

藤岡さん:いきなり技術を教えるのではなく、まったく関係ないことからアプローチしていきました。「今日学校どうだったの?」「BTSだと誰が好き?」と、まずはどんな子なのかを知るように声をかけました。指導者というより、お姉さんの立場ですね。

 

現在はヘッドコーチとして指導しているので、お姉さん的な存在でありながらも、厳しく言うところは言わなければいけないので、その切り替えは大事にしています。

 

部員は30名ほど所属していて、とにかく子どもたちのエネルギーに圧倒されっぱなしです。楽しいけれど、自分がプレーするときとは違うタイプの疲れがどっと押し寄せます。エネルギーを吸い取られちゃう感覚ですね。

マイクロバスの運転にコーチングの勉強「選手時代とは違う忙しさがある」

── 練習や試合にもすべて参加されているのですか?

 

藤岡さん:そうですね。平日の月曜日以外は放課後に4時間ほど、土日も練習や試合があるのですべて参加します。そのほかにも、中学校にスカウトの視察に行ったり、試合の移動用にマイクロバスを運転したりもします。そのために、昨年は中型免許も取りました。

 

── バスケットを教えるだけでなく、いろいろな仕事があるんですね。選手のときとは違うスキルが求められるのではと思いますが、苦労はありますか?

 

藤岡さん:目標のために努力や勉強するのは、むしろ好きなほうです。子どもたちに「いろいろチャレンジしなさい」と言っているのに、自分が何もしてないのはイヤで、自分も負けないように日々チャレンジしていきたいなと思います。

 

チームのためにできる限りのサポートはしてあげたいし、積極的に関わっていきたいので、コーチングも勉強しています。

 

バスケットの専門的な技術や戦略を教えるだけでなく、自分が学生時代に経験してきた目標を達成する喜びや、チーム一体となったときの快感も味わってほしいですね。

 

最近はバスケットボール界が盛り上がっていますし、進路の選択肢も増えています。大学やWリーグ、ゆくゆくは海外のリーグへ挑戦する可能性もあります。

 

選手個々にあった相談にものれるように自分も勉強して、できる限りの悩みは解消してあげたいです。そして、バスケットが好きなまま次のステージへ向かう子を増やしていきたいです。

誘いを受けて「3人制バスケ」の選手としても復帰

── 2023年からは、3人制バスケットボールのチームTOKYO DIME(東京ダイム)へ加入して、新たな挑戦をスタートされましたね。

 

藤岡さん:2023年2月にシャンソン化粧品を退団した後に、東京ダイムのアドバイザリーコーチを務める森本由樹さんから「もし体を動かす場所がなかったら練習に来てみない?」とインスタグラムのDMでお誘いをいただきました。

 

森本さんはシャンソンOGということもあり、私を含め退団した選手たちの今後を心配してくださったのだと思います。

 

私は引退してコーチに専念するつもりだったので、本当に軽く体を動かす程度の気持ちで行ったのですが、実際やってみたらすごく楽しくて。

 

かつてのチームメイトたちも所属していますし、私の病気のこと(2022年に国指定難病「家族性地中海熱」の診断を受けた)も理解してくれたうえで、チームへ誘ってくださいました。それならば、もう一度新しい環境でプレーしてみたいと思ったんです。

 

── 5人制バスケとはどのような違いがあるのでしょうか?

 

藤岡さん:プレーヤーの数もルールも違うので、別の競技といっても過言ではないですね。一番大きな違いは3人制には監督がいないことです。選手だけで判断して試合を組み立てていくので、個人のスキルやクリエイティブなパスが活かしやすいですね。

 

あとは、すごくゲーム展開が早くて、つねに動き続けないといけないのが大変です。5人制だったら正直サボれるような場面があったりするんですけど(笑)。

 

初めてプレーしたときはキツすぎて脳が酸欠状態になり、何も考えられなくなっちゃうほどでした。

 

ルールも、長年やってきた5人制がしみついているので、いまだに間違えることがありますね。「そのボール触っちゃダメ!」とか、チームメイトに教わりながらやっています。

 

── コーチとプレーヤーを両立していくのは大変ではないですか?

 

藤岡さん:いまはコーチが最優先なため、東京ダイムの活動は行けそうなときに参加しています。

 

東京ダイムは練習や試合だけでなく、子どもたちの指導や大会の運営、本拠地である渋谷でのゴミ拾いなどSDGs活動も積極的に行い、そちらに参加することもあります。

 

バスケットを好きになってもらうことはコーチ業と通じるところもありますし、バスケットを通じていろいろな活動や出会いができるのは素敵なことですよね。

 

まずは、いま教えているチームを全国大会に出られるチームにしていくのが目標です。プレーヤーとしては、病気のこともあるので様子をみながらではありますが、チームに貢献できるのならば、そして自分のプレーで元気をもらえる方がいらっしゃるのならば、体が動く限りはやっていきたいと思っています。これからも長いバスケ人生を歩んでいきたいです。

 

PROFILE 藤岡麻菜美さん

1994年千葉県生まれ。千葉英和高から筑波大を経て2016年JX-ENEOS(現ENEOS)へ入団し、一度引退するも2021年にシャンソンVマジックへ復帰。女子バスケットボール日本代表を学生時代から経験し、2017年ユニバーシアードで主将として準優勝、同年FIBA女子アジアカップでは優勝へと導く。2022年に国指定難病「家族性地中海熱」の診断を公表。現在は3人制プロチームのTOKYO DIMEでプレーをしながら母校・千葉英和高のコーチを務める。

 

取材・文/大浦綾子 画像提供/藤岡麻菜美