小さいときから強豪チームでプレーをして日本代表までステップアップ。順調な歩みの中で苦い経験が選手をたくましくすることもあります。女子バスケで輝かしい成績をおさめた藤岡さんに選手時代の話を聞きました。(全3回中の1回)
小学校時代の恩師に言われた忘れられない言葉
── 中学生のころから女子バスケットボールの年代別日本代表に選出。2017年ユニバーシアードでは銀メダル、同じ年のFIBA女子アジアカップ優勝など輝かしい戦績を歩んできた藤岡さんですが、バスケを始めるきっかけはなんだったのでしょうか?
藤岡さん:バスケットを始めたのは小学2年生のとき。同じクラスで仲のいい子にミニバスケットボール(ミニバス)のチームに誘われたのがきっかけです。
入った翌年に全国大会で優勝するほどの強いチームだったのですが、当時の私はバスケット競技がどんなものかもわかっていませんでした。体を動かすことは好きだったので、とりあえずやってみようかなという軽い気持ちでした。
── 強豪チームなら、練習も相当厳しかったのではないですか?
藤岡さん:ミニバス時代に教えていただいた先生がいるからこそ、いまの自分がいると言っても過言ではないくらい、いろいろなことを教えていただきました。
技術的な基礎はもちろんのこと、バスケット選手としてのあり方や人間性を形成する面でも。「思いやりのあるパスをしなさい」と言われたことを、いまでもすごく鮮明に覚えています。
── 何か人間性を変えるようなできごとがあったのでしょうか?
藤岡さん:私はいまでこそ周りに声をかけてチームを盛り上げていくキャラクターですが、元々は引っ込み思案で、人前に出るのもすごく苦手な、大人しい子でした。
そんな性格なのに、小学校6年生のときにキャプテンを任されることになったのですが、ある日、練習前にアップをしていると突然、先生が言いました。「誰がキャプテンかわかりません。チームを引っ張る人がいないのなら、全員退部してください」と。
── 全員退部ですか。
藤岡さん:そう言われて、なぜ先生がそう言ったのかを必死で考えました。すると、私自身はアップをしていたけれど、なかにはおしゃべりをしたり、遊んでいる子がいたのかもしれないと気づきました。
キャプテンならチーム全体に声をかけて、早く練習が始められるように促したりするべきだったんですね。しかも、自分の落ち度でチームのみんなにも迷惑がかかってしまう…。
バスケットはコートの中のプレーだけじゃなくて、コート外での立ち振る舞いとか、下級生に目を配る心遣いもすごく大事なんだと気づかされました。それが自分の価値観につながっていると思います。
うまくいってないときこそ「ハイタッチ」をする訳
── 小学生にして考えさせられる経験ですね。小学校、中学校、高校、大学、そして日本代表とキャプテンを務めてきて、チームを引っ張っていくプレッシャーはありませんでしたか?
藤岡さん:自分はやりたくてやっているので、負担よりもやりがいや喜びを感じるほうが強かったですね。「全国大会に出る」「日本一になる」と勝っていくためには、技術的なところももちろん大事だと思うんです。
でも、学年の縦や横のつながりだったり、それこそミニバスで教わったコートの外でのコミュニケーションが、コートの中に現れると感じます。
むしろそういうつながりを強くするために、日頃から一生懸命ミーティングをするなど、みんなで試行錯誤して作っていくのがすごく楽しいですね。
── チームでどんなことを話し合うのでしょうか?
藤岡さん:たとえば、高校や大学時代は試合状況が良くても悪くても、どんなときも必ずハイタッチをしようと決めました。試合中、調子が出せずにチームの雰囲気が悪くなることもあります。そんなときこそ、どんどんハイタッチしていこうと。
── ハイタッチって、うまくいったときにするイメージがあります。状況が悪いときにするのはどうしてですか?
藤岡さん:ハイタッチするには、チームメイトの近くまで行く必要がありますよね。すると、お互いの表情もよく見えますし、「頑張ろうね」など鼓舞するような言葉も自然と声かけることができます。
遠くから声をかけるよりも、近くでスキンシップをとりながらのほうが、相手に伝わると感じます。チームの信頼関係や日ごろのコミュニケーションは、とくに学生バスケでは欠かせません。
現在は怪我や体調不良などもあって5人制バスケットの選手としては引退して、母校でバスケ部のコーチを務めています。技術だけでなく、経験も含めて教え子に指導していきたいです。そして、自分たちのチームを、バスケットをもっと好きになってもらえたらうれしいですね。
PROFILE 藤岡麻菜美さん
1994年千葉県生まれ。千葉英和高から筑波大を経て2016年JX-ENEOS(現ENEOS)へ入団し、一度引退するも2021年にシャンソンVマジックへ復帰。女子バスケットボール日本代表を学生時代から経験し、2017年ユニバーシアードで主将として準優勝、同年FIBA女子アジアカップでは優勝へと導く。2022年に国指定難病「家族性地中海熱」の診断を公表。現在は3人制プロチームのTOKYO DIMEでプレーをしながら母校・千葉英和高のコーチを務める。
取材・文/大浦綾子 画像提供/藤岡麻菜美