学習指導補助員として小学校の児童たちとかかわるようになった大浦龍宇一さん。就任して1年ほど経ち、ようやく慣れてきたなかで日々痛感する「子どもと接するときに何より大切なこと」とは?(全4回中の2回)
「黙って待つ」が難しいけれど一番大切
── 子どもたちと接するときに、心がけていることはありますか?
大浦さん:子どもたちとよい関係をつくるために心がけているのが、「黙って待つ」ということです。でも、これがなかなか難しくて…。子どものことを思うあまり、つい先回りして手を貸したり、「こうしたほうがいいんじゃない?」と口を出したくなってしまう。
例えば、転んでしまった児童を保健室に連れて行く場面で、先生が「何があったの?」とその子に聞いているのに、つい私が「実はこういう状況で…」と先に説明してしまい、「子どもに言わせてくださいね」とたしなめられたことも。
先生方を見ていて感じるのは、何かトラブルがあって子どもに事情を聴くときに、黙って待つ時間を大切にされているということです。子どもが自分の言葉で伝えようとするまでじっと待つ。その時間が大事なんだと気づかされました。
──「沈黙」の時間に意味があると。
大浦さん:黙って待っている時間というのは、子どもも大人と同じで怖いと思うんです。「これを言ったら怒られるかも」とか「否定されるんじゃないか」とか、いろんな感情が湧いてきます。でも、いい悪いは別として、いったん最後まで黙って聞いて、受け止めてくれる人がいれば、気持ちを隠さず正直に伝えられるようになる。ただじっと聞いてもらえる相手がいるというだけでも、私たちはラクになるんだと実感しています。
これは、親として子どもに接するだけでは、気づけなかったことでした。もっと早くそれに気づいていたら、息子とのことにおいても違っていたかもしれません。
── 全力で子どもたちに向き合っていらっしゃる様子が伝わってきます。
大浦さん:「この子にとって、どうしてあげるのが一番いいのだろう」と、つねに考えながら接していますが、正解がないから難しいんですよね…。最初の頃は、帰宅後は本当に疲労困憊で、ぐったりとソファになだれこんでいました(笑)。
── 子どもたちに対する深い愛情の原点は、どこにあるのでしょうか?
大浦さん:おこがましいかもしれませんが、子どもたちにとって愛情が感じられ、安心できる場をつくりたい、そんな存在のひとりになれればいいなという思いがあります。
一番伝えたいのは、「君はひとりぼっちじゃないよ」「愛されているよ」ということ。実は、数年前からオリジナル童話を練っている最中なのですが、その主題がまさしくこれです。「孤独じゃないよ」「本当は愛されているんだよ」ということを、まず子どもたちに伝えたかったんです。
ひとりでいることは自分で選べるけれど、「ひとりぼっち」は、そうではないですよね。悲しくてつらい。そんなときに、「誰かがいつもあなたのことを思っているよ」という声やそうした存在を感じられれば、きっとみずから死を選ぶような悲しい出来事もなくなるし、復活する力がわいてくるんじゃないかと思うんです。そんなメッセージを伝えたくて、子どもたちとかかわる仕事がしたかったというのが大きいです。
子どもたちの健やかな心を育むには、10歳になるまでの愛情が大事だといわれています。その時期に愛情を知っていれば、たとえ道からはみ出してしまっても、いずれ戻ってくることができる。私自身の体験からも、それを感じています。
はみ出し者だった学生時代も無駄じゃなかった
── 大浦さん自身の経験というのは…?
大浦さん:お恥ずかしい話ですが、学生時代の自分は決して真面目な生徒ではありませんでした。高校2年生のときには、問題を起こして一度退学しています。ですがその後、一念発起して試験を受け、復学することができました。だから学年も1学年遅れているんです。平たくいえば、「落ちこぼれのはみ出し者」だったわけです。
ですから、勉強についていけなかったり、孤立して居場所がない子、学校にうまく適応できない子たちのつらさや苦しさは少なからずわかるところがあります。
私が元の場所に戻れたのは、周りの大人たちから受けてきた愛情や心があり、戻っても大丈夫だと信じられたから。今度は自分が、そんな子どもたちに寄り添いたい、大げさかもしれませんが、子どもにとって愛情を充電できる場所になれたらと思っています。
── 愛情を充電できる場所があるというのは、心強いですし、つらいときの支えになりますね。大人の私にもそんな場所が欲しいです(笑)。
大浦さん:偉そうなことを言うつもりはまったくないのですが、そういう気持ちで子どもたちといつもかかわっていければいいなと思っているんです。
子どもたちは、天真爛漫で純粋な存在ですが、反対に残酷な面もあって、「ピュア」と「ダーク」が共存しています。だから、「え、そんなこと言っちゃうの?」と驚くことも正直あります。でも、いい面も悪い面も理解したうえで、「ありのままの姿」を受け止めるように意識していけば、どんな場面でも頭ごなしに否定せず、「君はそう感じたんだね」と受け止めたうえで「会話」になっていく。最近、それに気づいてラクになりましたね。
── 純粋さも残酷さも受け入れたうえで接する、と。
大浦さん:最初は、ありのまま受け入れることができていなくて、「きっとこうだろう」とか「こうあるべき」と構えてしまう部分がありました。でも、子どもたちは日々成長し、変化しつづけています。ですから、「この間はこうだった」とか「この子はこう」と決めつけてはいけないなと。毎回、新しいその子として、曇りのないフラットな目で向き合うように心がけています。
子どもたちとの関係性に変化「呼び方で心の距離がわかる」
── 学習指導補助員として子どもたちにかかわって、1年近くたちました。子どもたちとの関係に変化はありましたか?
大浦さん:信頼関係ができていくときに、わかりやすいのは、呼び名が段階的に変わることです。最初は、ただの「先生」。その次に本名である「カジウラ先生」と苗字を覚えてもらえる。さらに心の距離が近づくと、あだ名をもらえるんです(笑)。
── 大浦さんにもあだ名が?
大浦さん:はい。今のあだ名は「カジウラTV」です。今どきのユーチューバーみたいでしょ(笑)。でも、あだ名がつくのは、興味を持ってもらえた証拠。だからけっこう気に入っているんです。
子どもたちと接していると、自分の心がいかに硬くなっていたかに気づかされます。それまで自分の至らなさもあって、家庭の問題でトラブルを抱えたり、その過程で息子ともギクシャクしてしまい、自分の心を必死でガードしていました。でも、天真爛漫で感情豊かな子どもたちと過ごすことで、硬くなっていた心がほどけていくのを感じました。子どもに教えるつもりで学校に入ったわけですが、教えられているのは私だったんですよね。
55歳で子どもたちと教室で一緒に給食を食べる日がくるなんて、想像すらしていませんでした。人生どうなるかわからないものです。だからこそ面白いのでしょうね。
PROFILE 大浦龍宇一さん
おおうら・りゅういち。1968年、京都府生まれ。立命館大学卒業後、俳優としてドラマや映画、舞台など幅広く活躍。代表作に「この世の果て」、NHK連続テレビ小説「天うらら」、舞台「大人計画・キレイ」など。最新情報はオフィシャルブログ「LIGHT LIFE」で発信。
取材・文/西尾英子 写真提供/大浦龍宇一