さまざまな役どころ演じ、バイプレイヤーとして活躍する俳優の大浦龍宇一さん。2023年4月からは小学校の「学習指導補助員」としても勤務しています。いったいどんなきっかけで始めたのでしょうか?(全4回中の1回)
特例で採用された学習指導補助員「準備のため朝は5時起き」
── 小学校の「学習指導補助員」というのは、どんな仕事なのでしょうか?
大浦さん:学習指導補助員とは、「小中学校で児童・生徒の個別支援や学級運営の指導補助を行う」という仕事です。いろいろなスタイルがあると思いますが、私の場合は、学習に向き合うのに少し時間のかかる児童のサポートをしたり、担任の先生の学級運営の補助やクラスの子どもたちの指導補助など、さまざまなかたちでお手伝いをしています。
今は、俳優業を続けながら東京都内の小学校に勤務し、週3回、学習指導補助員として子どもたちと向き合っています。
── ブログには、早朝から生徒に向き合うために準備にいそしむ様子が綴られています。朝のルーティンはどんな感じなのですか?
大浦さん:学習指導補助員の日は、朝5時には起き、6時の電車に乗って早めに出かけます。最寄駅に着いたら、出勤前に近くのスペースで教育に関する本を読んだり気持ちを整えるなど、1日のスタートに向けての準備をしてから学校に入ります。
学校教育の現場に入って子どもたちと向き合うというのは、生半可な気持ちではできませんし、やらせていただく以上、精いっぱい取り組みたいという思いがあるからです。
俳優と両立していることを子どもたちに知られた結果
── 学習指導補助員の活動を始めたきっかけを教えてください。
大浦さん:もともと40年来の友人が教育関連のNPO法人を運営しており、私も以前から活動にかかわっていたんです。そのなかで、学校内で子どもたちをサポートする学習指導補助員という仕事があると知り、興味を持ちました。
本来、芸能界で俳優という特殊な仕事をしている私が、学校教育の現場にかかわることは難しいのですが、これまでにNPOの活動の一環で地区イベントでお話をさせていただく機会が数回あったことからご縁をいただき、学校側の面接を経て採用されました。
教員資格の保持は問われませんが、周りには教員を目指している若い方も多く、私の年代で、しかも芸能界からというケースは初めてのことなのかもしれません。
── かかわっている子どもたちは、大浦さんが俳優だと知っているのですか?
大浦さん:はい。先生方はご存じでしたが、子どもたちには話していませんでした。ですが、昨年7月に6年生のキャリア教育のゲストティーチャーとして「俳優」という職業について話をする機会をいただき、そこで子どもたちにも知られることになりました。
その後、小学生に人気のあるバラエティ番組に出演したときには、子どもたちから「テレビ観たよ!」と声をかけられ、会話が生まれるきっかけにもなりました。たまに、「ユーチューバーなの?」と聞かれることもありますが…(笑)。
ただ、「有名人なの?」と聞かれたときは、「芸能界という場所で、俳優という仕事をしているだけだよ」と答えるようにしています。
── それはなぜでしょうか?
大浦さん:子どもたちは、有名人=えらい人という捉え方をしがちだからです。でも、そうじゃないよ、有名かどうかで人の上下関係が決まるわけではないんだよ、とわかってもらいたくて、「みんなにとって偉いのは、みんなのことを一番に考えてくれる学校の先生や保護者の方々であって、僕は俳優という仕事をしながら、学校では校長先生や担任の先生のもとで働いているだけ」と伝えています。
ただ、俳優という仕事が、子どもたちとの「関係づくり」に役立つ場面もあるんです。ちょうど10年前、『ウルトラマンギンガS』で隊長役をやっていたのですが、子どもたちとの距離を縮めていくときに、「ここはウルトラマンの知名度を借りたほうが効果的だな」と感じる場面では、話題に出すこともあります(笑)。
いつも顔を合わせる子でも「つねに新しい出会い」
── そこはケースバイケースなのですね(笑)。
大浦さん:そうですね。ときには、言葉以外の方法でコミュニケーションを取ることもあります。例えば私は、絵を描いたり、粘土細工などを作ったりするのが得意なんですね。今は低学年を担当しているので、そうした方法も取り入れながら、心を開いてもらえるように試行錯誤しています。一歩ずつですが、自分なりのやり方も見つけつつあります。
一番大事なのは、子どもたちといかにいい関係をつくることができるかだと思うので。
──「いい関係」というのは、例えばどんな関係でしょうか?
大浦さん:よく「Being」=あり方、「Doing」=やり方、という言い方をしますが、より重要なのは「Being」。それを理解したうえで何ができるかを考え、行動すること、かかわることが大事だと思っています。信頼関係がきちんとできていれば、多少の行き違いがあっても「ごめんね」で済みますが、関係性ができ上がっていないとそうはいかない。顔色をうかがいながら本音を押し殺して話さないといけなかったり、ちょっとしたことでわだかまりが残ってしまうこともあります。
いろんな本を読んだり、先生方にお話を聞いたりしながら、どんなかかわり方がいいのかを日々勉強しているところです。
子どもたちは、つねに変化し成長していますから、「この子はこうに違いない」と決めつけたり、「この間はこうだったから」と考えるのではなく、つねに新しい「その子」として受け止めることが必要。だから、毎日が新しい出会いだと思っているんです。
PROFILE 大浦龍宇一さん
おおうら・りゅういち。1968年、京都府生まれ。立命館大学卒業後、俳優としてドラマや映画、舞台など幅広く活躍。代表作に「この世の果て」、NHK連続テレビ小説「天うらら」、舞台「大人計画・キレイ」など。最新情報はオフィシャルブログ「LIGHT LIFE」で発信。
取材・文/西尾英子 写真提供/大浦龍宇一