女優から芸人、そして大学院から研究者の道に。今後は、アートデザイン、居場所づくり、商品開発…と、やりたいことは山積みと話すエド・はるみさん。時間の価値について考えさせられるエドさんの価値観とは。(全4回中の4回)

 

なんてイキイキしてるの!トライアスロン完走のエドさん

二科展に入選「動くことで喚起されるものがある」

── 2008年、流行語大賞を受賞するなど大ブレイク。その後、進学した大学院でゼロから開発したゲームでは、2022年にグッドデザイン賞を受賞。現在は筑波大学大学院の博士課程で、研究に集中しているのですか?

 

エドさん:これまで、芝居、笑い、研究者など、その道は多岐にわたるように見えるかもしれませんが、すべて私の中でこれらはつながっています。



それは、“動く、行動する“ということです。頭である程度考えたら、あとは動いてみる。動きながら考え、またそこから学びや気づきを得ていきます。しかし、その行動している支柱は、何年もブレずにきました。

 

それがこれまでは20年以上続けた芝居、お笑い、そしていまは、その根底に深く存在する「人間・社会」というものをもっともっと知りたい思いですし、それが大学院での研究につながっています。

 

多くの人は「思考で理解できた」からといって、すぐに「行動に直結できる」わけではありません。そこには大きな乖離があります。それが私の研究の大きなテーマでもあります。

 

頭でわかるだけでなく、実際に「身体を動かす」ことが大事。だから、実際にゲームを作ったり、絵を描いたりと、そういうことをしてきましたし、これからも動き続けて行きます。

 

── 絵は二科展に入選、トライアスロンもホノルルで完走など、多岐にわたって取り組まれています。

 

エドさん:絵を描いたときも、実際に筆を使って描いたら自分にどんなことが起きるかを知りたくて描き始めました。実際、無心で描いているうちに、描きながら人生の気づきがあるなど、”動く”ことによって、人間の感情や思考がさまざまに喚起されることに気づきました。

 

キラキラした絵が素敵!エドさんが二科展で入選した作品

二科展は、当時習っていた師匠に勧められてダメもとで挑戦したのですが、ありがたいことに入選することができました。トライアスロンも落語も、まずは「挑戦」がスタートです。

 

── きっかけはすべて、「まずは動く」ことなんですね。結果は後からついてきたと。

 

エドさん:はい。ただ、ちゃんと努力したうえで、です。たとえば、絵は先生に何年も指導していただいてのことですし、24時間マラソンの完走は女優時代から「あのランナーに選ばれるくらいまでがんばろう」とイメージしながら、勝手に毎日10km走っていました。まだお笑いに転身する前の、ランナーに選ばれる4年前からです。

すべての「思い」を、実際の「形」にしていく

── 4年も前から!徹底的に準備するんですね。これだけ多くのことを成し遂げて、「もういいや」と思うことはありませんか?

 

エドさん:それはないですね。むしろ、さらに「形にしたい」ことや「やらなきゃいけない」と思うことが山積みです。世の中の商品で使いづらいものや、もっと便利になるもの、気持ちが明るくなることを考えることもそうですね。

 

そして頭で考えたアイデアを、実際の形にすることが大切です。そんなアイデアが、次から次へと浮かんで来ます。ちなみに私の専門は「デザイン学」です。

 

2022年にグッドデザイン賞に出展して見事にグッドデザイン賞を受賞したカードゲーム「シンパサイズ」

── そのパワーはどこからわいてくるのでしょうか?

 

エドさん:うーん…ずっと反骨精神があるんですかね。現状に、感謝はしているのですが、「このままでいい」とはまったく思わなくて、いろいろなものに対して「さらに改良できないか?」「もっとこうすれば良くなるんじゃないか?」と考えてしまうんです。そしてそれが尽きないと言いますか…。

「20年もある」「20年しかない」どう考えるか

── やりたいこと、もっと良くしたいことがたくさん。時間が足りないくらいでは?

 

エドさん:私は「人生100年時代だからまだまだ時間がある」とは、考えていません。最近ふと思ったのですが、自分の残りの人生を考えたとき、たとえばあと20年だと長く感じますが、「あと20回しか、春に桜を見られないとしたら…」と考えると、いや、意外と短いぞ!と。

 

また、自分の最期はどんな思いで瞬間を終えたいか?を想像したとき、「最期はどんな自分でありたいかを考え、それに向かって生きていこう」と思いました。武士じゃないですけど、いつ何があってもいいように覚悟しながら。そんなことをぼんやり思っています。

 

── その感覚、わかります。研究についてはどんなことを考えていますか?

 

エドさん:学べば学ぶほど、「無知の知」を実感しますね。これはソクラテスの言葉で、
「知れば知るほど、自分が何も知らないということを知る」という意味なんですが、深いですよね。「わからない」ということが「わかった」という。そして人生は本当にわからない。

 

たとえば、事前に情報を入れていても、実際、現場に行って直接話を聞いたり見たりすると、事前のそれとはまったく違うことはよくあります。

 

なので、頭だけですべてをわかった気にならず、「実際に現場に行く」「人に会う」「物を作る」など、“動く”ことが本当に重要で、これが私の研究の要(かなめ)なんです。

 

PROFILE エド・はるみさん

17歳で映画デビュー後、約20年間女優として活動。2005年に笑いの道に転じ吉本興業の養成所へ。2008年持ちネタの「グー!」で流行語大賞を受賞。2016年4月慶應義塾大学大学院の修士課程入学。今春、筑波大学大学院博士課程に合格し、現在は、研究中心の生活を送る。    

 

取材・文/岡本聡子 写真提供/エド・はるみ、吉本興業株式会社