2児の父である古坂大魔王さん。教育熱心だった母の期待を感じながら上京。父親になった今は小学校でも出張授業を開いていると言います。(全3回中の3回)

「一番になれ」と母に言われ

── 古坂大魔王さんは、子どもの教育に熱心に取り組むパパというイメージがあります。古坂大魔王さんは、子どもの頃から勉強は好きだったのでしょうか?

 

古坂大魔王さん:勉強なんて全然好きじゃなかったです。ただ、母親からはいつも勉強しろと口うるさく言われてました。母親は、青森の漁師街の生まれで中卒です。負けず嫌いな性格からか、子どもたちの教育には力を入れていました。母親の口癖は「何でも一番になれ。一番にならないと、下の人間を救えない」でした。

 

母親は、僕ら兄弟3人を公務員にするのが夢だったんです。子どもたちが将来、立派な職業に就くことがまわりから「優秀な子どもを育てた母親」として思われるからです。その結果、兄は銀行の支店長に、弟は大学教授になりました。僕は、母親に上京してお笑いをやりたいといっていたもののずっと反対されていたので、まずは東京の専門学校に進学すると言って上京することにしました。

 

── 東京に出てきていかがでしたか?

 

古坂大魔王さん:専門学校は入学後2週間で退学して、母親に黙ってお笑いの道に進みました。母親には申し訳なかったなと思います。芸人の道を目指して改めて感じたことは、面白いことをサラッと言うためには、幅広い知識が必要だということ。考えると学校のときの勉強は、実生活ですぐに役立つことばかりではないけれど一般教養として必要だったのかなと思います。学生の頃は勉強は好きじゃなかったけど、基礎的なことはやっておいてよかったと、改めて勉強しろと口うるさく僕に言ってきた母親に感謝しました。

学級会でやったネタ、ここで披露して

── 古坂大魔王さんが父親となった今は、お子さんに対してどんな教育を行っているのでしょうか?

 

古坂大魔王さん:子どもたちの興味を活かして、知識を深める教育をしてあげられたらと思っています。今、上の子は5歳で、文字や英語、地図に興味があるみたいですね。勉強が好きなので、食事の後にドリルを開いて自主的に取り組んでいます。保育園に迎えに行くと、クラスの子や保護者の方にも積極的に話しかけて、とても楽しそうにしています。

 

── 古坂大魔王さんは、小学校で出張授業もされているそうですね。

 

古坂大魔王さん:「avex class」というプログラムで、アーティストやタレント、クリエイターが、全国の教育機関を訪れ、出張授業を通して子どもたちに「才能や夢を信じる力」の大切さを伝えています。一般的な学校の授業は、子どもによってはちょっと堅苦しいイメージがあるかもしれません。でも、僕の授業は、基本的に子どもたちを笑わせることしか考えていないんです(笑)。授業に笑いを取り入れることで、子どもたちは興味を持ち集中して聞くようになります。そして僕が問いかけたことに対して真剣に考えて、答えてくれる。笑いを通じて、子どもたちが授業を楽しんで吸収できる環境を作りだせたらと考えています。

 

── 具体的にはどんなことをお話しているのでしょうか?

 

古坂大魔王さん:子どもたちの悩みや疑問について、自分の経験を踏まえながら、子どもたちとクイズ形式で考えていく授業をやっています。ある小学校でひとりの生徒から「なんでお笑いをやったんですか?」と聞かれました。「この中でお笑いのコントを作ったことある人いる?」と聞いたら、たまたまいたんですよ。お笑いをやったことがある生徒は、まわりから「お前、学級会でやったネタ、ここで披露して」と言われて大勢の前で披露するも、マイクの前でもじもじしてしまったんです。それでもその生徒は満足そうでした。

 

僕が「大勢の前で披露してどうだった?」と聞いたら、「楽しかった」「ネタがウケて気持ちよかった」と答えました。僕ら芸人は、ネタを披露してたくさんのお客さんにウケると楽しいからお笑いをやっています。日本では、誰でもお笑いをやれるし、見られるけど、国によっては宗教、文化の違いから禁止されているところもあります。最初は、「お笑い」のネタから入り、そこからSDGsの問題につなげて、子どもたちに興味関心を持ってもらえるように話します。

 

── 「将来、やりたいことが見つからない」という子どももいるかと思います。

 

古坂大魔王さん:やりたいことがない、夢がない子は、もしかしたら知識が少なくて興味を持てることがないのかもしれない。知識を持てば夢ができます。幅広い知識を得るためにも、本を読む。旅行に行く、友達と会う。塾の先生や先輩と話す。いろんな人の話を聞き、経験を聞くことで、知識が広がり、その中から自分がやってみたいことが見つかります。子どもたちには、こんな話をして、夢を持つ大切さを伝えています。僕自身も、知識を得たことで世界が広がったので、今度は子どもたちの夢を応援していければと思っています。

 

── 話は変わりますが、現在、青森の高級リンゴを生産するプロジェクト「Princess Piko Apple Project」を始めたそうですね。

 

古坂大魔王さん:きっかけは、僕がプロデュースしたPPAPのピコ太郎さんと一緒に世界をまわり、いろんなリンゴを食べたことで青森のリンゴのおいしさを再認識したことです。青森県のなかでも、90年以上続く福士農園の最高評価を得たリンゴを、果実とジュースにして数量限定でお届けします。実は、青森のリンゴ農園では後継者問題などで大きな企業に譲り渡すところが増えています。福士農園のリンゴに注目してもらうことで、青森のリンゴのおいしさを知り、生産者が増えてくれたらと思って活動しています。

 

PROFILE 古坂大魔王

1973年生まれ。青森県出身。2児の父。プロデュースしたピコ太郎の「PPAP」が世界的に大ヒット。文部科学省・CCC大使、総務省・異能vation推進大使。青森産の高級リンゴを生産するプロジェクト「Princess Piko Apple Project」を始動。

 

取材・文/間野由利子 画像提供/エイベックス・マネジメント・エージェンシー提供