「もしもし私リカよ、お電話ありがとう」。このひと言から始まる電話の「リカちゃんでんわ」サービス。SNSが当たり前の今、国民的着せ替え人形「リカちゃん」と電話で話せるこのサービスは、アナログながらも昨年55周年を迎えました。
これまで「今どき電話なの?」という社内の声もあるなか、スマホと違って、子どもが自分の意思で手に取れる身近なメディアということで続けてきたそうです。株式会社タカラトミー マーケティングの沼田瑞穂さんと広報の柳寺薫乃さんにお話を伺いました。
ひとりの子どもの夢を叶えた社員
──「リカちゃんでんわ」が始まったきっかけは?
沼田さん:リカちゃんを発売してまもなくの1967年当時のある日、ひとりのお子様から「リカちゃんはいますか?」と会社に電話が入り、その電話を受けた社員が機転を利かせて「こんにちは、私リカよ」と対応したそうなんです。すると、そのお子様が喜んでくださったと聞いています。
── 社員の方の優しさがお子さんの夢を叶えたんですね!そのエピソードからどんな経緯でサービス化されたのですか?
沼田さん:お客様の間で反響が大きくなってきたところから専用の回線を敷きました。最初の頃は、まずオペレーターがお子様たちの対応をしていたと聞いています。オペレーターが電話を取って、挨拶をしてから「リカちゃんに代わるわね」と言って、そこからリカちゃんの声を録音したテープに切り替わる方法で始めたそうです。その後、最初からリカちゃんの声が流れるテープ式になって、正式に「リカちゃんでんわ」を開設しました。
「リカちゃんでんわ」に今でも月4万件の電話。回線がパンクしたときも
── これまで56年も続いている「リカちゃんでんわ」ですが、子どもたちに楽しんでもらうために何か工夫されてきたのでしょうか。
柳寺さん:何度かけてもらっても毎回楽しんでもらえるように、毎月、リカちゃんが話す内容を変えています。季節や日常の出来事を取り入れて、お子様がリカちゃんと共通の話題を作れるように。お昼と夜でも違うお話ができます。ときどきママや妹のミキちゃん、マキちゃんが電話に出るレアな回もあるんですよ。
── 私も子どもの頃、「リカちゃんでんわ」にかけたときにママたちが出ると「おっ!」と思いました。当時の印象的なエピソードはありますか?
柳寺さん:日本中が湧いた話題として、「野球の王選手が本塁打の大きな記録を作った」といったお話を盛り込んだことがあります。
また、人気番組『8時だヨ!全員集合!』に「リカちゃん」と「リカちゃんハウス」が登場したときには「リカちゃんでんわ」の番号も紹介されたのですが、その際は電話が殺到して回線がパンクしたそうです。
── 回線がパンク!?さまざまな工夫や露出が増えたことなどで、1967年から56年間も「リカちゃんでんわ」を続けてこられたのですね。
沼田さん:そうですね。ただ、「お子様に夢を持ってほしい」という思いで続けてきたことが一番大きいのかなと思っています。「リカちゃんでんわ」自体は、現在でも月約4万件ものお電話があるんです。多くのお子様が楽しんでくださっていると思えてありがたいです。
「サービスを続けるかどうか」の議論もあったけれど
── これまで「サービスをやめよう」といった話はなかったのでしょうか。
沼田さん:実は、これまで議題にあがることもありました。通信手段の変化にともなって、「果たして、今も電話でいいのだろうか」という疑問を社内で議論し合うことはあります。
それでも現在も4万件も電話をかけてきてくれるお子様がいるという事実があること自体、私自身いつも「すごい」と思うのですが、お子様たちにとってリカちゃんと話すことは今もワクワクする「特別なこと」なのだと思えます。
また、リピーターの方がとても多くて、毎月楽しみにしてくださっているお客様もたくさんいると思うので、私たちはしっかりと期待に応えていければと考えています。
── SNSが浸透している今の時代に、月4万件分もわざわざ電話をかけてきてくれる子どもたちがいることにサービス自体の魅力を感じます。
沼田さん:テレビの情報番組でも、ときどき「今でも『リカちゃんでんわ』ってあるの?」と企画されたり、SNSで話題になったりするときがあり、月10万件まで一気に増えることもあるんです。
子どもの頃に一度はかけてくれていた方が、「今でもあるんだ」と思い出してくださるようで。みなさん、「リカちゃんでんわ」のことを、子どもの頃の思い出と一緒に記憶の片隅に置いてくれているのかなと思います。年月を経て、「リカちゃんでんわ」に思いを寄せてくれる方が多いのはうれしいです。
「リカちゃん」が好きな子どもたちに届けたい
── 私は子どもの頃、「リカちゃん」のおもちゃが入ったパッケージに「リカちゃんでんわ」のことが書かれているのを見つけて、初めて電話をした記憶があります。「本当にリカちゃんがしゃべってる!」とすごく驚いたし、うれしかったのをよく覚えています。
柳寺さん:「リカちゃんでんわ」のことは、年2回発行するリカちゃんカタログとリカちゃんのおもちゃのパッケージの側面に掲載しています。公式ホームページでも紹介しているんですよ。
沼田さん:「リカちゃんでんわ」は、「リカちゃん」のことが好きなお子様に対して発信したいという思いがあるんです。
──「リカちゃんでんわ」を通じて、子どもたちに対するサービスやおもちゃの時代の変化を感じることはありますか?
沼田さん:過去には、リカちゃん以外にも電話をかけるとキャラクターとお話ができる同様のサービスもあったかと思うのですが、通信手段の変化にともなってなくなっていったのを感じています。
私自身もそうなのですが、電話をかける機会が減っているのは事実なので、そのなかでお子様が電話をかける練習のひとつになればいいなと思っています。
また、お子様が「リカちゃん」と1対1でコミュニケーションできることで、「リカちゃんが自分に向かってお話してくれている」と思える時間は、1分半ほどですが、お子様にとって何かいい思い出になってくれるのかなと思っています。私たちも大切にしたいです。
「リカちゃん」が親子共通の楽しい話題になれば
── 今後の目標はありますか?
沼田さん:今後も、お子様にとってリカちゃんは、電話をかけてお話しするお友だちのような「身近な存在」であり続けたいです。
「『リカちゃんでんわ』って、まだやっているんですか?」という声を多くいただくのですが、子どもの頃に電話をかけたことがある親御さんもとても多いので、親子で「リカちゃん」という共通の話題で楽しく盛り上がってもらえたら。
これからも長く愛されるように工夫しながら続けたいと思っているので、ぜひ「リカちゃんでんわ」にお電話してみてほしいです。
取材・文/高梨真紀 画像提供/株式会社タカラトミー