現在、NHKジャーナルに出演し、気象予報士として活躍する佐藤可奈子さん。マスコミ志望だった彼女が、新卒入社したのはテレビショッピングでお馴染みの「ジャパネットたかた」。その訳とは?(全2回中の1回)

 

ジャパネットたかたでMCを務める佐藤さん(右)
ジャパネットたかたでMCを務める佐藤さん(右)

震災でジャパネットたかたの活動に感銘を受けて

── 佐藤さんは新卒で株式会社ジャパネットたかたに入社されていますね。なぜ、入社をしようと?

 

佐藤さん:もともと大学時代はマスコミ志望で、テレビ局の報道や新聞社の記者に憧れていたんです。しかし、就活はかなり苦戦してしまい、就職留年をしてもう一度マスコミ業界を目指すことにしました。そんな折、東日本大震災が起きて、就活がいったんストップ。

 

私は宮城出身で、本来、記者志望であれば、震災現場に駆けつけて「その様子を世の中に伝えたい」という気持ちに駆られてもおかしくない状況でしたが、実際に震災現場へ訪れると、ただただ怖くて…。「自分は本当に記者になりたいのか?」「記者になれるのか?」と自問しては落ち込むこともありました。

 

そうしたなか、出会ったのがジャパネットたかたです。皆さん、覚えていらっしゃると思うんですが、震災が起きた頃、どの企業もCMを自粛してACジャパンのCMがひたすら流れていましたよね。そのなかでいち早くテレビショッピングを再開したのがジャパネットたかたでした。しかも、同社は被災地である宮城に出向き、その土地のものをテレビショッピングで販売して、1日の売上を義援金として全額被災地へ寄付するという活動をしていたんです。

 

ご縁があってジャパネットたかたに入社!
ご縁があってジャパネットたかたに入社!

── そこでジャパネットたかたの活動に関心を抱いたと。

 

佐藤さん:はい。その活動を知ってびっくりすると同時に、大きな感銘を受けました。これまで私は、ジャパネットたかたに対して「テンションの高い社長が家電を販売している会社」くらいの認識だったんです(笑)。しかし震災での活動を機に、発信力のある企業はマスコミだけとは限らないんだとわかって。そこで唯一、マスコミ以外で採用試験を受けたのがジャパネットたかたでした。

 

被災地を見て夢がブレていた私にとって、ジャパネットの行動力は「自分に何ができるか考えるより、できることから始めてみる」という考えの転換を教わりました。

 

── それは素晴らしいですね。2013年に新卒で入社された後、佐藤さんはすぐにテレビショッピングのMCとして活動を始められたのですか?

 

佐藤さん:いえ、最初は旭人副社長(現社長・高田旭人氏)の秘書からスタートしたんです。でも、「テレビショッピングのMCをやってみたい」と面接で話をしていたことを覚えてくださっていたのか、東京のスタジオでのMCと秘書の業務を二足の草鞋でさせていただけるようになりました。そして、入社1年目の冬、年明けに地上波放送をメインとする佐世保の本社にMCとして異動したんです。

社長のひと声で本番5分前にセット変更も

── 当時、テレビショッピングのMCとして活動されるなかで、印象に残っているエピソードはありますか?

 

佐藤さん:いろいろ想い出深いのですが。ジャパネットたかたの「ここがすごいところだ!」と今にして思うのは、実は生放送にもかかわらず、放送直前まで何を売るのかが決まっていないんですよ。

 

── そうなんですか!

 

佐藤さん:もちろんいくつか事前に商品はピックアップされているんです。春は空気清浄機、夏はエアコンなど。でも「今日はこんなに暑いから、エアコンが売れそうだ。エアコンでいくぞ!」と、社長(髙田明氏)の鶴のひと言で、本番5分前であってもスタジオのセットが全部変わることがありました。実際、天気ひとつで商材の売れ行きが数万単位で変わるので、その日の売れ行きを予想して、直前で商品を決定することが多かったですね。

 

── ちなみにMCの方たちはアドリブで対応されていたんですか?

 

佐藤さん:はい、アドリブでした。台本はないんですが、ただ、その代わりにカンペがあるんです。よく番組のスタジオのADさんが出す画用紙がありますよね。そこに「商品名、つかみ、仕組み、お値段、下取り、分割、締め」といった基本の流れだけが書いてあって。その画用紙がカメラの下に垂れ下がっているんです。MCがカメラを見ると、ひと目で流れが確認できるようになっていました。

 

ただ、どの商品にどんな訴求ポイントがあるのか、MCたちが事前にしっかり把握しておかなければなりません。放送前には何十回もリハーサルを行っていました。そうした積み重ねによって、生放送というプレッシャーのなかでも「大きな間違いをしてしまった!」といったことはなかったかなと記憶しています。

 

同期は全部で40名
同期は全部で40名

自分をアピールするよりも「商品のよさ」を全面に出したい

── ジャパネットたかたでの経験から、今に活かされていることはありますか?

 

佐藤さん:それは、有言実行の部分でしょうか。私が気象予報士の資格を取るときも、周りに対して「私、1年で絶対に合格するからね」と、自然と宣言していました(笑)。

 

というのも、ジャパネットたかたに在籍していた当時、MCは女性だけで6人ほどいたんです。そうすると「去年、私がこのエアコンを担当しました!」「掃除機の説明は練習済みです!」と皆さん手を挙げるので、私も「この商品について勉強してます!」「家でさっそく使ってみました!」と、どんどんアピールしていかなければならなくて。

 

ノルマはないため、それで社内がギスギスするわけではありませんが、「私、できます!」と手を挙げる人は活躍の場が広がりやすいということはありました。それはどの業界でも同じかもしれませんね。

 

社員旅行で海外へ
社員旅行で海外へ

── なるほど、まわりには積極的に手を挙げる方が多かったのですね。ちなみに、佐藤さんは元々、自分をアピールすることが得意だったのでしょうか?

 

佐藤さん:いえ。実は私、自分をアピールすることが苦手なんです。MC時代は「商品」が主役だと考えていたので、自分を全面に出すよりも、「この商品、ここがいいんですよ!」とカメラの前で喋るほうがのびのびといられました。

 

先輩からは「もっと、自分をアピールしていかないと」と言われることもありましたが(笑)。それは気象予報士となった今も変わりません。「天気」が主役だからこそ、どのように表現すれば視聴者の方に伝わるだろうかって考えるほうが、私は好きですね。

 

PROFILE 佐藤可奈子さん

宮城県出身。早稲田大学文化構想学部卒業。2013年、大学卒業後に株式会社ジャパネットたかたに就職。役員秘書を経て、テレビショッピングのMCとして商品紹介を担当。エアコンが売れ出す時期に夏の到来を感じたり、夜の冷え込みが厳しくなると羽毛布団が売れたりと、人の消費行動に天気が大きく影響することを生放送で体感してきた。2017年、気象予報士資格を取得。掃除スペシャリストや整理収納アドバイザーの資格も活かし、天気予報と共に快適な生活提案を行う。

画像提供/佐藤可奈子