テレビ朝日アナウンサーの久冨慶子さんは、ジュビロ磐田に所属するサッカー元日本代表・大津祐樹選手とお子さんの3人で静岡県浜松市に住んでおり、産休・育休後の現在は、新幹線で通勤しています。家庭と仕事の両立に苦心したことや折り合いのつけ方、今後の目標についても伺いました。(全4回中の4回)
浜松からテレ朝まで往復4時間の新幹線通勤
── 仕事復帰の経緯を聞かせてください。
久冨さん:浜松に住んでいる限り、復帰はできないと思っていたんです。いろいろなご家庭があるので正解はないと思うのですが、私の場合は家族3人で一緒に暮らしたいと思っていて、そうなると仕事を辞めるしかないのかなと考えて、テレビ朝日へ相談しに行ったんです。すると上司が、コロナ禍をきっかけにテレワークが増えていることなどもあり、「今は新幹線通勤をしてみたら?」という提案をしてくれました。
もしテレビ朝日を辞めることになったとしても、働くことを辞めるという考えはなかったのですが、上司がそのような話をしてくれたときはすぐ夫に連絡しました。夫は前から「どういう道を選んでもいいよ」と言ってくれていたのですが、「それだったら会社に残ったほうがいいんじゃない?」と後押ししてくれましたね。
── 月に何回くらい出勤していますか?
久冨さん:昨年11月からは金曜日にABEMA NEWSを担当することになり、毎週金曜日は出勤しています。それ以外にもテレビ朝日のことをお伝えする外部向けの司会やドラマの制作発表の司会などをすることもあるので、だいたい月に5~6回くらいです。
浜松からテレビ朝日がある六本木までの往復だと、長いと通勤時間が4時間くらいかかります。新幹線内では返さなければいけないメールを打ったり、読みたい本を読んだり、スマホでニュースを見たりと、家で子どもと一緒だと落ち着いてできないようなことを集中して行う時間にしています。
新幹線通勤してみて初めて、こんなにたくさんの人が新幹線で通っているんだということを知りました。乗車するとすぐに寝ている方もいて、皆さん慣れているんだなと思いました。
── お子さんの体調不良などで、仕事の変更が必要になったこともありましたか?
久冨さん:一度、新幹線に乗る直前に保育園から「熱が出ていて、38度を超えています」というお迎え要請が来たことがありました。そのときはアナウンス部のシフト管理をしてくれているデスクにすぐに連絡をして、ほかのアナウンサーがお仕事を代わってくれたということがありました。本当に発車する寸前で、あと2分くらい遅ければ出発していましたね。
これまでも息子の体調不良で、ほかの方にお仕事を代わっていただいたこともありますし、母に来てもらったこともありました。母も近くに住んでいるわけでないのですが、私が朝早くに出て夜遅くに帰ってくるので、時間的に病児保育がなくて、母にお願いしています。
── 育児と仕事のバランスに悩むこともありますか?
久冨さん:やはり、ここまでして働かないといけないのかなと悩むことはありますね。経済力を持っていたいという思いや働きたいという思いがあって仕事をしていますが、子どもが犠牲になっているんじゃないかと考えることもありました。
でも私は働きたい気持ちを持っているので、その気持ちを無視して子育てだけになると私自身もストレスが溜まってしまいますし、そのストレスと向き合いながら子どもと一緒にいると、息子にとっても良くないと感じています。それだったら気持ちよく働いて、時には悩むこともありますが、頑張っているお母さんの姿を見せたほうがいいのかなと最近は思うようになってきました。
あとは、母や保育園に預けているなかで、いろいろな人と触れ合ったほうがこの子のコミュニケーション能力も育つのかなと思うこともあります。息子の今の様子を見ていて、成長しているなと感じることがよくあるので、私一人で育てていたらきっとこんな風にはならなかったなと思うと、母のおかげでもあるし保育園のおかげでもあるので、小さいうちから揉まれることもメリットなのかもしれないと感じるようになりました。
── お子さんの成長を感じた場面を教えてください。
久冨さん:先日お友達と遊んだときに、そのお友達は意思表示がしたくて息子をたたくことがあったんです。どのように対応するのかなと見ていたら、息子は怒らずによけたり、「いーたーい!」と言いつつ優しく対応したりしていて、成長を感じました。
今通っている保育園が、年齢別ではなくていろいろな年齢の子がいるところなんです。これは想像なのですが、もしかしたら保育園で同じような出来事があって慣れてきているのかなと思いました。保育園に行っていなかったころは年の差がある子とあまり交流させたことがなかったので、いろいろな年齢の子と関わることで、揉まれて強くなっていっているんだなと思っています。
「今日は出前でいい?」と言えるように
── 家庭内での役割分担はありますか?
久冨さん:どちらが何を担当するということは決まっていないのですが、ゴミをまとめて捨てるのは夫が担当してくれています。日々の食事も「イライラしながら作るよりは、外に食べに行ったりテイクアウトしたりするほうがいい」と言って、臨機応変に対応してくれています。
最初のころはやはりサッカー選手なので、料理を作れない日があることはバランス的にどうなんだろうと考えてしまうこともあったんです。でも、最近は私のほうから「ごめん、今日は出前でいい?」と聞いたり、「ちょっと疲れちゃったから今日はご飯作らないね」と言ったりするようになってきました。ありがたいことに、近くにサッカー選手を応援してくれているとてもおいしくて栄養価が高いお店があるので、何度かテイクアウトをしているうちに、私もだんだん遠慮しなくなりました。焼肉が好きな夫のほうから「焼肉食べに行こう」と言ってくれることもあります。
もともと「作ってほしい」と言われていたわけではなく、たぶん自分の中の理想の自分みたいものがあって、勝手に葛藤していたんだろうなと思います。でも、たまには夫が作るご飯も食べてみたいなと思っています(笑)。
── 夫婦喧嘩をすることはありますか?
久冨さん:子どもが生まれるまでは喧嘩をしたことがなかったのですが、やはり生まれてからは心の余裕がなくなってしまって、産後半年のころは少し喧嘩が増えてきたなと感じる時期がありました。
最近は落ち着いたと思うのですが、私はこんなに自分の時間がないのに夫が長風呂をしていてイライラしたり、もうちょっと気にかけてほしかったり、もうちょっとやってほしいと思っていたりと、些細な内容で私が怒ることがあったような気がします。
今の目標は「誰かの支えになること」
── noteには不妊治療や新幹線通勤、浜松に住む理由などについて書かれています。始めたきっかけを教えてください。
久冨さん:会社員なので、各自で今後の仕事について目標設定をすることになっていて、アナウンス部にもいくつかの班があるんですね。リーダーの先輩がいて、その人がそれぞれのアナウンサーと面談をして目標を決めていくという流れなのですが、私はまだ産休・育休から復帰したばかりで担当番組もなくて。どういう目標を立てようかなと考えていたときに、「最近はアナウンサーひとりひとりがコンテンツになってきているし、これからは自分自身のことをもっと発信してもいいんじゃないか」と先輩から提案していただいたことがきっかけです。
菅原知弘さんという男性の先輩アナウンサーがいて、その方が私よりも先にnoteを始めていて、記事がとてもいいんですよ。その影響もあって、班のリーダーとも話し合って、始めてみようということになりました。
── 反響はいかがですか?
久冨さん:コメントを残してくださっている方がいたり、「いいね」をいただいたりしています。特に浜松について書いたときは、「すっかり浜松の人ですね」や「他のところから来てくれた方が、ホームに感じてくれているのはとてもうれしいです」と言ってくださる方がいて、地元の方々がこんなにも読んでくださっているのだなとうれしかったです。「長距離通勤がんばって」と応援してくださるコメントもありました。
── キャリアと家庭で悩んだときは、どのように折り合いをつけていますか?
久冨さん:例えば、今私が朝の番組をやりたいと思っても厳しいですし、大好きなバラエティ番組も、収録が長かったり夜遅くまでかかったりするため、今の状況ではなかなかできないと思うんです。でも、うちの子より大きいお子さんが2人いる先輩の野村真季アナウンサーは、バラエティ番組も素敵にこなされていて、アナウンス部にはいいお手本となってくれる方がたくさんいるんです。自分の中の「子どもがいるからこの仕事はできないかも」というような固定観念をなくしていけば、気持ちが少しは軽くなるのかなと考えています。
一方で、子どもがこの年齢なのは今このときだけという事実は絶対に変えられないし、こんなに「ママ、ママ」と言ってくれるかわいい時期ってそんなに長くないと思うんです。仕事と違って、あのときもっとかわいがっていればと後悔しても子どもの年齢だけは後戻りができないので、この2つを何回も何回も考えて、気持ちに折り合いをつけています。
── 今後の目標を聞かせてください。
久冨さん:働くお母さんで悩んでいる方はたぶんたくさんいらっしゃると思いますし、私もその一人です。でも、お母さんだからって諦めなくても続けられる方法があるということを、私自身が証明できるような存在になれたらなと思っています。アナウンサーという少し特殊な仕事だからこそ少し注目してもらえることもあると思うので、「なるほど、こうやって工夫することもできるんだ」と思っていただけるような、誰かの支えになることが今の目標です。
働くお母さんの先輩たちに「これから先も、たぶん子どもの体調不良で仕事を代わってもらうことはあると思うけれど、仕方のないことだから全然自分を責めなくていいんだよ」と言っていただいたんです。この言葉にとても救われて、自分を責めるのはもうやめる、働けるときはしっかり集中していいパフォーマンスが出せるように働こう、でも無理はしない、というふうに決めました。若いころのようにがむしゃらに働いていると、たぶんどこかでバランスを崩してしまうと思うので、お母さんだからこそバランスを大事にしなければいけないなと思っています。
自分が今できる範囲で、自分が納得した上でどういうパフォーマンスを出せるかということを、夫のように諦めずに探求していきたいです。
PROFILE 久冨慶子さん
2012年にテレビ朝日へ入社し、「おかずのクッキング」や「やべっちF.C.」、「グッド!モーニング」などを担当する人気アナウンサーに。2018年にサッカー元日本代表・大津祐樹選手と結婚し、2021年2月、男の子を出産した。大津選手のジュビロ磐田移籍に伴って静岡県へ移住し、現在は新幹線通勤をしている。
取材・文/長田莉沙 画像提供/久冨慶子 ※記事は2023年11月に取材したものです。