大学1年生で「ミス青山」グランプリに輝き、入社後は「やべっちF.C.」や「くりぃむクイズ ミラクル9」など、人気番組を担当したテレビ朝日アナウンサー・久冨慶子さん。華やかな経歴とは裏腹に、入社当時は「どの現場もとても苦労した」と言います。久冨さんが抱えた悩みや葛藤とは。(全4回中の1回)
浪人生活の支えだったアナウンサーという目標
── アナウンサーを目指したきっかけを教えてください。
久冨さん:大学受験で1年間浪人をしまして。浪人してしまったショックと親への申し訳なさを感じながら生活していたので、大学に受かったら将来はきちんと就職しないといけないなと考えていました。何を目標に浪人生活を頑張ればいいのかなと思っていたとき、テレビをつけたらちょうどアナウンサーがフィギュアスケートの選手にインタビューをしていて、その姿が当時の落ち込んでいた私にはとてもキラキラして見えたんです。
普段からテレビはよく見ていたのですが、アナウンサーという職業もいいなとそのときに初めて意識をしました。簡単にはなれないかもしれないけれど、アナウンサーになることを目標に浪人生活を乗り越えようと思ったことがきっかけです。
── 青山学院大学入学後は、ミスコンでグランプリを受賞されました。
久冨さん:大学に入学してからは、皆さんがどうやってアナウンサーになっているのだろうということを調べました。今思うとミス・コンテストに出なくてもアナウンサーになっている方はたくさんいるのですが、当時はアナウンサーにはミスコン出場者がいるというイメージがありました。ただ、自分から出たいと言うのも恥ずかしいなと思っていたときに、ミスコンを運営する広告研究会に所属していた友人から「慶ちゃん出てみない?」と声をかけてもらったんです。
それまでの自己流の分析では、アナウンサーになっている方は2~3年生で出ているイメージだったんですよね(笑)。ですから、1年生で出るのは少し早い気もしたのですが、人から声をかけてもらって出場する機会はもうないかもしれないと思って、挑戦してみることにしました。
その後は、テレビ朝日が運営しているアスクというアナウンサースクールに通うようになり、他局も含めて採用試験を受けました。就職活動中は、もしアナウンサーとは異なる職業に就くとしても、女性が輝けるような会社がいいなとは漠然と考えていましたね。
生放送で「先輩に訂正を入れていただくことも」
── 入社後は数々の番組を担当されていましたが、印象的だった番組はありますか?
久冨さん:ひとつに決められないくらい、最初はどの現場もとても苦労しました。入社1年目で「おかずのクッキング」を担当したときは、竹内由恵さんの後任だったことや入社直後で緊張していたこともあって、土井善晴先生と全然うまく話せなかったんです。「先生にこれを聞いて」とカンペが出ても聞けなかったり、私の緊張のせいでなかなかかみ合わなかったりと、こんな状態で大丈夫なのかなという感じでした。
入社2年目に朝の情報番組「グッド!モーニング」を担当したときは、緊張のあまり普段だったら絶対に間違えないようなミスをしてしまうこともありました。生放送なので、自分で気づけなかったときには番組内で先輩に訂正を入れていただくこともあり、本当によく悩んで、よく励ましてもらっていました。
同じく2年目から担当した「くりぃむクイズ ミラクル9」も、鍛えてもらった番組のひとつです。一見すると、私はただ「クイズ、シュート!」と言っているだけのように見えるのですが(笑)、クイズを出したり正解の補足をしたりと、実はたくさんの作業があります。膨大な量の問題と答えがあって、準備も本番中もとても大変でした。
ニュース番組ではできるだけ低い声のほうが聞き取りやすいと言われていて、なるべく心地よく聞こえるように低い声を出すよう意識して読んでいるのですが、逆にバラエティ番組だと「声を高くしてほしい」、「もっと張ってくれ」とスタッフからリクエストをもらうこともあったんですね。自分なりに一生懸命声を出していたら、視聴者の方に「声がキンキンうるさい」というご意見をいただくこともありました。放送を見ると自分でも同じように感じたので、声の出し方は試行錯誤を重ねました。
── なかでも、特に大変だったことを聞かせてください。
久冨さん:これは今でも正解がわからないときがあるのですが、芸人さんやタレントさんたちが盛り上がっているなかで、スタッフから「この補足を入れてほしい」という指示が来ることがあるんですね。でも私はタレントさんたちが盛り上がっている空気を大事にしたいので、「いや、今じゃない!今は入るときじゃない!」みたいな葛藤があり、とても大変でした。スタッフたちの気持ちを汲むのか、タレントさんたちを優先するのかが難しくて、どうすべきか考えることも多かったです。
今も「ミラクル9」を引き継いだ後輩から「こういうときはどうしたらいいのでしょうか」と聞かれることもあるのですが、そのときは「現場の空気を一番読み取れているのは自分だと思うから、スタッフさんの指示も大事にしたほうがいいけれど、自分の感覚を大事にしたほうがいいよ」と伝えています。
好きになれなかった自分の声がほめられるように
── 悩みや葛藤をどうやって解決していきましたか?
久冨さん:緊張は悪いことではないのですが、私の場合は緊張しすぎると予期せぬミスをするので、間違えないであろうところにもたくさん読み仮名を書いて練習しました。とにかく言い間違えることが一番怖かったので、早口にならないようにゆっくり読むことも意識していましたね。そもそも私は声がアナウンサーに向いていないなと思っていて、今でも自分の声をなかなか好きにはなれないのですが、声を磨きながら他の部分も伸ばしていって、トータルバランス、トータルスコアをよくしていこうと考えるようになりました。
あとは、入社3年目で短い枠のニュースを担当して、いわゆるニュース原稿を読むことが多くなったので、そこでも鍛えられたのかもしれないです。ニュースにはアナウンサーが顔を出して読む部分と、映像の裏でナレーションだけをつける部分があるのですが、夜のニュース用に声を録音する日があって。そのときにスタッフが、「久冨さん、声が変わってきたね」と言ってくれたことがありました。がむしゃらにやっているうちに少しずつ変化してきたのかなと感じたことを覚えています。
そうやって担当番組が増えて葛藤しているうちに少しずつ力がついてきたのか、「おかずのクッキング」でもうまく話せるようになっていきました。すると私も料理についてさらに興味がわいてきて、「どうやったらもっとうまく切れるようになりますか」などと休憩時間にも土井先生にいろいろと聞けるようになって、うまくコミュニケーションが取れるようになっていきました。
── 他にも手応えを感じた場面はありましたか?
久冨さん:当時怖いと有名だったゼネラルプロデューサーが急に私のところへ来て、「今の良かったよ」と言ってくれたときはうれしかったです。ちょっとは成長できているんだなとホッとしたことを覚えています。
情報番組だと先輩が一緒にいてくれてアドバイスをもらえる安心感があるのですが、バラエティ番組ではアナウンサーは1人だけのことが多いんです。でも「ミラクル9」では、「こういう形にしたらうまく回せるか」とか「カンペの位置はこっちにするか」とか「どんな風に指示をもらうとやりやすいか」などと、スタッフにたくさん助けられて、成長させてもらいました。
あとは、私が産休で番組を離れるときに皆さんと食事をする機会があって、スタッフがくりぃむしちゅーの上田さんに「今までで一番仕事がしやすかったアナウンサーは誰ですか」というようなことを聞いたんです。上田さんがしばらく「うーん…」と考えてから「いやあ、久冨だよ」と言ってくださって。お祝いの意味で言ってくださったとは思うのですが、そんな風に答えてくださったことがとてもありがたかったです。
PROFILE 久冨慶子さん
2012年にテレビ朝日へ入社し、「おかずのクッキング」や「やべっちF.C.」、「グッド!モーニング」などを担当する人気アナウンサーに。2018年にサッカー元日本代表・大津祐樹選手と結婚し、2021年2月、男の子を出産した。大津選手のジュビロ磐田移籍に伴って静岡県へ移住し、現在は新幹線通勤をしている。
取材・文/長田莉沙 画像提供/久冨慶子 ※記事は2023年11月に取材したものです。