保育園の先生から発達について尋ねられたのをきっかけに、息子が発達障害であることを知った赤平大さん。小学校進学で直面した悩みや、その後、発達障害・ギフテッド支援の動画メディア「インクルボックス(incluvox)」を立ち上げるに至った背景を伺いました。(全3回中の2回)

 

「インクルボックス」は、BabyTech(R) Awards2022でICT部門の大賞に選ばれた
「インクルボックス」は、BabyTech(R) Awards2022でICT部門の大賞に選ばれた

息子の小学校入学後に起きた苦悩

── 息子さんが、発達障害であることはどのような経緯で知ったのですか?

 

赤平さん:息子が年中(4歳)の頃、通っていた保育園で、外国人の先生に言われたんです。「お子さんは英語を理解しているし、日本語も大人と同じぐらい読めて内容を理解しています。おうちで特別に勉強をしているんですか?」と。

 

「いえ、特に勉強らしいことはしていないです」と答えると、その先生は「何かあるかもしれないから、1回調べてみてはどうですか?」と教えてくださいました。おそらく息子が「発達障害かもしれない」と、そう感じて声をかけてくれたのだと思います。

 

もちろん生活の中で、息子は親の言うことを聞かないことはよくありましたが、4歳ぐらいの子どもはみんなそんなものだろうと思い、最初は特に気にしていなかったんです。そもそも、僕自身が発達障害について深く理解していなかった。

 

けれど、小学校に上がる前に発達障害の検査をしたところ、息子はADHD(注意欠陥・多動症)と、高IQということがわかり、のちにASD(自閉スペクトラム症)とLD(学習障害)の傾向があることを知りました。

 

とはいえ、発達障害の診断がおりたあとも、何となく本を読んで調べていましたが、僕が本格的に発達障害について勉強を始めたのは、息子が小学校へ通い出してからです。

 

ボクシング番組で元世界王者の飯田覚士さんたちと
ボクシング番組で元世界王者の飯田覚士さんたちと

── 息子さんが小学校に入学されて、どういったことが起こったのでしょう。

 

赤平さん:団体行動が難しかったり、教室でじっとしていられなかったり、忘れ物を常にしたり…小学校に入学してすぐに息子のそうした行動が目立ち始めました。先生の言うことが聞けない状況であったため、その都度、学校側と連絡を取っていましたね。

 

当初は息子一人で登校させていたんですが、道路を飛び出してしまうこともあって。息子の登下校はすべて僕がつき沿うようにしました。

 

そうしたことが重なったため、息子が抱えている障害をもっと深く知りたいと、500本以上の学術論文や書籍を読みあさり、発達障害学習支援シニアサポーターをはじめ複数の民間資格も取得しました。

 

文科省へ発達障害の意見書を提出する赤平さん
文科省へ発達障害の意見書を提出する赤平さん

── 小学校で息子さんは通級(通常の学級に在籍しながら、特別な指導が必要な場合は指導を受けられる教室)に通われていたのですか?

 

赤平さん:はい。6年間通級に通いました。息子は特異な行動をしてしまうため、低学年の頃はいじめもあって。ただ、あまりネガティブに考えるタイプではなかったので、「全員友だち」と言うんですよ。

 

でも、親としてはその状況を何とか変えてあげたくて。小学校3年生ぐらいまでは、関東圏で転校先を探して、何校かは体験入学も経験しました。例えば、発達障害に理解のありそうな学校やフリースクール、息子の知的好奇心を満たすようなカリキュラムのある私立学校など、説明会があれば週末は足しげく通いました。ところが、「いいな」と思う学校は順番待ちで全然空いていなかった。気がついたときは、すでに息子は4年生になっていました。

発達障害の情報を一元管理すれば、支援法が早く見つかる

── 多くの学校を見て回ったり、他の保護者と関わるなかで、何か課題を感じることはありませんでしたか?

 

赤平さん:これは発達障害の活動や勉強を通じてわかったことですが、発達障害というのは、1人として同じ症状がなく、100人いれば100通りなんです。そのため、親が抱えている悩みは、たとえ同じ発達障害の子を持つ親同士であっても共感し合うことが難しい。支援者自身の悩みもそれぞれバラバラだからです。

 

そのため、支援側がみずから知識を高めて、ストックした情報のなかから「自分の子どもに合う支援はこれだ」と、トライ&エラーで支援法を見つけていかなければなりません。僕はよく、それを「オーダーメイド支援」と呼んでいます。

 

支援者は、子どもに合った支援法を見つけるために、インターネットを駆使したり、専門家に相談したりするわけです。子どもの面倒を見ながら、さらに仕事をしながら支援法を探すことは本当に大変なんです。

 

僕自身、「どこかに発達障害に関する情報が一元管理できていないのか」と、東京都や自分たちが住んでいる区に問い合わせました。発達障害の情報を提供している施設にも2回足を運びました。しかし、僕がすでに持ち合わせている情報以上のものとは出会えなかった。

 

ネット上には、発達障害の情報がまとめられているサイトもありますが、検索して、膨大で玉石混交な情報の大海原から最適な情報を見つけ出すのは、もはや宝探しです。僕自身、忙しくて文字で情報を得る時間を確保することが難しい。生活のすき間時間に、効率的にもっと楽に情報を集められるのではないか。その想いが、僕がgifted・発達障害支援者向け動画メディア「incluvox(インクルボックス)」を立ち上げようと思ったきっかけです。

 

── どのように事業を立ち上げていったのですか?

 

赤平さん:実は当初、僕が事業を立ち上げるつもりはなかったんです。はじめは、先ほどお話しした構想をまとめて、自治体に提案しました。自治体からは、大きな関心を示してもらい、一緒に詳細を詰めていったんです。しかし、自治体では民間事業は扱うことはできないと。そして、赤平さんが事業を立ち上げてみてはどうでしょうか?と言われました。

 

僕自身、「本当に自分で事業ができるのだろうか…」という迷いがありました。そんな折、MBA取得のため通っていた大学院の友人が、「赤平さんがやろうとしているビジネスモデルは、以前、別の企業でベンチャー投資の立場で携わっていたからよくわかる。その事業、ビジネスとして成立するよ」と背中を押してくれたんです。そして、その友人に事業のいろはを教えてもらいながら2021年に事業を立ち上げました。

発達障害の支援で抱える不安のなか「進む道を照らすような灯台」になりたい

── 赤平さんは以前、MBAを取得されるために早稲田大学の大学院に通われましたが、そのご経験がここで繫がるわけですね。インクルボックスはどのようなメンバーで構成されているのですか。

 

赤平さん:動画を制作するメンバーは、皆さんテレビのお仕事をしている方たちです。全員が副業として、かつ発達障害に知識や関心のある人たちに関わっていただいています。常にアンテナを立てて、新しい情報をいつでもアップデートできる体制を整えています。

 

早稲田大学大学院の卒業式で友人らと記念撮影
早稲田大学大学院の卒業式で友人らと記念撮影

── インクルボックスを利用されている方から、どのような声がありますか?

 

赤平さん:さまざまな声をいただいてます。特に2023年の夏にインクルボックスで初めてアンバサダーを募集したところ、約30名が参加してくださいました。印象的だったのが、ある発達障害の子を持つ母の声です。「自分は広い海の中にプカプカと浮かぶ小舟のような感覚でした」と。そして、「どこに進むかわからない孤独や不安のなかで、インクルボックスが灯台のように方向を指し示してくれた。それがとてもありがたかった」とおっしゃいました。

 

その気持ちは、僕自身もすごく理解できるんです。前述の通り、発達障害の症状は人それぞれ異なるため、自分が正しい支援ができているのかわからないときがあります。僕も息子のことで日々、悩んでいます。発達障害の子を持つ保護者のなかでも、僕はかなり勉強してきましたが、それでも時々、どの方向に進めばいいのかわからないときがある。けれど、子どもの成長はまったなしで進んでいくため、不安を抱えながらも決断しなければなりません。

 

「もっとこうすればよかった」という後悔や、「なぜ社会はこうしてくれないんだ」という不満、また、子どもに対しても「なぜわかってくれないんだ」と悩むこともあります。そこで発達障害の当事者を変えようとするのではなく、発達障害について学ぶ人たちが増えていくことが大事だと思うんです。

 

インクルボックスは、膨大な量の情報を動画で並べて、「ながら聞き、ながら見」で支援者がオーダーメイドで情報をピックアップしていけるような「見本市」のイメージで運営しています。そのなかで、自分に合った支援方法や専門家を見つけ、その有識者の著書を読んだり、繫がることができる、そうしたプラットフォームを目指しています。

 

PROFILE 赤平 大さん

フリーアナウンサー、ナレーター(元テレビ東京)。自分の子の発達障害がきっかけで「gifted・発達障害支援者向け 動画メディアincluvox(インクルボックス)」のサービスを立ち上げ、発達障害の啓蒙・啓発を行っている。ギフテッド・発達障害講演、横浜創英中学高等学校講師、麹町中学校講師。

画像提供/赤平 大