自閉症の長女を育てる自身の実体験をモデルに描いた、漫画『ムーちゃんと手をつないで~自閉症の娘が教えてくれたこと~』作者のみなと鈴さんですが、2人目を考えるときに様々な葛藤があったそうです。(全4回中の2回)

悩みすぎて最後は本能で受け入れた2人目問題

── 今お姉ちゃんが16歳、妹さんが10歳。現在みなとさんは2人姉妹のお母さんですが、漫画の中でも自閉症の娘さんを育てながら2人目についてどうするか葛藤する主人公の様子を描いていました。

 

みなとさん:2人目をどうするか。これは実生活においても、何年も何年も、話し合ったテーマでした。主人も私も下の子に自閉症の長女の面倒を見させようという気はさらさらないんですけど、「産んでしまったら迷惑がかかるだろう」とか「無関係ではいられなくなるだろう」と思うと難しいなと悩む問題でした。


 
ただ、自分の人生を悔いなく生きると考えたとき、答えがやっと出た感じですね。積極的に不妊治療して第2子を迎えようという感じではなかったのですが、流れに身を任せる覚悟をしたんです。命をもし授かったら一生懸命、育てようと。もしその子が障害児だとしても2回目だからある程度分かっているし、心の準備もして産むからよしと。逆に授からなかったらそういう人生なんだと受け入れようと。

 

わかりやすく言うと動物的に考えたってことですかね。猫とか犬とかそんなこと考えて産むわけではなくて、産んだら一生懸命育てるっていうあの姿は美しいじゃないですか。動物としての本能というか愛情というか、人間だから色々考えるけど動物と同じように命を考えたらとてもシンプルで、いろいろ考えずに最後は本能で受け入れる覚悟をしたって感じですね。

 

漫画『ムーちゃんと手をつないで~自閉症の娘が教えてくれたこと~』第1話より
漫画『ムーちゃんと手をつないで~自閉症の娘が教えてくれたこと~』第1話より

次女に「あなたはあなたの人生を生きてね」という思い

── 下のお子さんも10歳と、お姉ちゃんのことを理解しているご年齢かと思いますが、2人の様子を母の目線でどのように感じていらっしゃいますか?

 

みなとさん:そうですね、タイプも違いますし、姉妹として遊ぶことはあまりないのですが、次女はすごく頼もしくなってきました。次女はいわゆる通常の成長パターンに沿って発達する「定型児」なのですが、長女が通っている成人の福祉施設では、アートをしたりみんなでゲームしたりするイベントが毎月あるんですけど、「行っても行かなくてもいいんだよ?」と言っても「行きたい!」と。進んでその中に入って行って楽しんで帰ってくるんですね。それに参加する定型児は次女一人だけなんですけど、偏見なく環境を楽しめる天真爛漫な子に育ってくれたなと。学校も大好きで、私もそんな娘を見て毎日楽しく学校行ってきてくれるのがうれしいなと思います。

 

もちろん長女に対して「もう、うるさいなー!」と怒ったりすることもあるけど、生まれたときから接しているのでそういう人だと理解してくれているようです。対処法も本人なりに考えているというか。例えば「長女がデイサービスから帰宅する前に宿題やっちゃわないと」とか、外に出かけた際も、「私がトイレの個室に入る間、ちょっと長女を見ててね」と言うと「大丈夫だよ。行ってきて」と、言ってくれたり。長女も成長して今では私が入った個室の前で一人で待てるのですが、やはりそう言ってもらえると安心なので有り難いです。

 

でも、親としてはやはり次女の負担になりたくないという思いがあるので「将来はあなたはあなたの人生を生きてね」と普段から言ってるんですね。すると「うん知ってる、私は好きにする」って言ってくれます。そこに救われるところがありますね。

 

実際には何か迷惑がかかってしまうかもしれませんが、次女が人生において何かを諦めたりしなくて良いように親として最大限努めていきたいと思っています。今現在で言えば、ママと一緒に乗馬をやりたいと言うので、夫と協力しながら、デイサービスなども利用して時間を作り、私と次女で馬に乗るという共通の趣味をもう2年ほど持っています。愛情は言葉ではなく行動で示さないと伝わらないのだなと、一緒に馬に乗る時の嬉しそうな次女を見ていつも思います。私は馬に乗るのが怖いんですけどね(笑)。これからもそういった努力を惜しまずにしていきたいと思っています。

いつかは親御さんたちに自分の人生を生きて欲しい

── このテーマはご自身とお子さんがモデルになっていますよね、決断するときは葛藤もおありだったのではないでしょうか?

 

みなとさん:もともと漫画家に復帰したいという思いはあってテーマも考えていました。自分がアシスタントに入っていた漫画家の先生が「積み上げた能力は人のために使わないといけない」と、おっしゃられて、その言葉がいつも心の中にどこかあったんです。自分は漫画が描ける。その自分の特技を誰か人のために使うと考えたときに、多くの人にとって助けになることを描きたいというのが一番にありました。

 

このテーマは、おそらくいろんな人に何かを言われてしまうだろうし、賛否両論あるだろうなと想像できましたし、もしかしたらこれを読んで傷つく人がいるかもしれないと思うと正直、恋愛ものを描くよりも勇気がいったけど、でも誰かの助けになればと。少なくとも私みたいなのがいるということがわかったことで「救われた!」という人がいてくれたらいいなって。そういう思いで描き始めました。

 

漫画『ムーちゃんと手をつないで~自閉症の娘が教えてくれたこと~』第3話より
漫画『ムーちゃんと手をつないで~自閉症の娘が教えてくれたこと~』第3話より

── 実際大きな反響があり、誰かの救いになったり知識になったりと作品が多くの方に届いていますね。

 

みなとさん:こんなに反響があるとは思っていませんでした。やはりデリケートなテーマなので毎回、本当に描くのが怖くて、慎重に進めています。漫画では遺伝の話を取り扱う回があるのですが、専門家にもお話を伺って描きました。これを読むことによって生まれる命、生まれない命が出てくるかもしれないって思うと、漫画の中でもきちんとした情報をお伝えしなければと。

 

漫画の中では、ムーちゃんが幼稚園に行くまでで終わってもいいかなと思っていたんですけど、きっとこの先、「小学校や中学校はどうなるの?」と続きを読みたいという親御さんも多いだろうなと思いその後のお話も継続中です。漫画を読んで障害児育児の将来のイメージだけでも持ってもらえると良いなと思うところです。

 

── これから作品を通してみなとさんが伝えていきたいことはありますか?

 

みなとさん:そうですね、これから作品で伝えていきたいのは、障害児はマイペースではありますが、その子なりに成長していくので、今の大変さが永遠に続くわけじゃないということ。絶望ばかりしていた日々には想像もできませんでしたが、成長して楽になるパターンもあるんだよといった一例も、障害児育児を頑張っておられる方たちに知ってもらえたらと思います。

 

一方で、障害児は千差万別ですから、成長して親も手に負えず施設に入られるかたもいらっしゃいます。でもそれがひどいとか親がさじを投げたとかではなくて、これ以上は困難だったんだろうなと想像できますし、適切な施設へアクセスしたことは親としての責任を果たしたと思いますし、ここまでよく頑張られたなと思います。

 

ですから、障害児育児に正解というものはないのですが、忘れてほしくないのは一生自分の人生を子どものためだけに尽くすのではないということ。いろんな方法で自分の人生を取り戻して、生きていることが楽しいと思えるときが来るという希望も描いていけたらと思います。

 

PROFILE みなと鈴さん

漫画家。自閉症の長女と定型発達の次女を育てる2児の母。1995年ソニー・マガジンズ『きみとぼく』よりデビュー。2006年コミックス『おねいちゃんといっしょ』(講談社刊)が第10回文化庁メディア芸術審査委員会推薦作品に。現在、自閉症の長女をモデルに描いた作品『ムーちゃんと手をつないで~自閉症の娘が教えてくれたこと~』(秋田書店)をエレガンスイブで執筆中。

取材・文/加藤文惠 画像提供/秋田書店、みなと鈴