性的グルーミングとは一体どのような手口なのか。SNSで深刻化するオンライングルーミングとは何か。新刊『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬舎新書)の著者である精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さんが、「性的グルーミング」の危険性について解説します。

子どもが陥る性的グルーミングの罠

グルーミング(grooming)はもともと「動物の毛づくろい」を意味する言葉ですが、近年は性的行為を目的とした大人が、不安定な心理状態の子どもに接触し、徐々に信頼を得て懐柔しようとする行為を指します。

 

性的グルーミングには次の3つのパターンがあります。

(1)子どもと近しい関係にある人のグルーミング

学校の先生、学習塾の講師、習いごとや部活動のコーチ、親戚、親の知人など、顔見知りの関係性の中で、徐々に性的な接触が起きるケース。加害者側が気に入った子どもと2人きりになる状況を作り出し、「君にだけ特別に教えよう」「お母さん/お父さんには内緒だよ」と口止めをして性的な行為に及ぶ。

(2)面識のない人によるグルーミング

公園や学校・塾の帰り道、公共施設などで会ったまったく見ず知らずの大人が、性的な行為に及ぶケース。公園で「体に虫がついているよ、お兄ちゃんが取ってあげる」と言われ、そのまま服の中に手を入れられた、などの被害が報告されている。

(3)SNS等によるオンライングルーミング

SNSやオンラインゲームを通じて知り合った大人が、子どもの自尊心をくすぐるなどして徐々に距離を縮め、直接会って性加害に及ぶ。

 

これらの3タイプの中で、近年とくに増えているのが3番目の「オンライングルーミング」による被害です。

 

次の事例は、実際に起きたオンライングルーミングによって性被害に遭った子どものケースです。

オンラインで会った「理想のお兄さん」の正体

小学2年生のAさんは、オンラインゲームを通じて大学生のBさんとチャット機能でおしゃべりをするようになりました。Bさんはとても優しいお兄さんで、「こんなレアアイテムがあるよ」とプレゼントしてくれたり、Aさんの学校の悩みを優しく聞いてくれたりする存在になりました。

 

画像はイメージです

その後、親しくなったBさんから、毎日のように優しいメッセージが届きました。朝起きたら「おはよう」、夜には「おやすみ」と声をかけてくれて、Aさんが悩みを打ち明けると「いつでも話を聞くよ」と熱心に聞いてくれる。

 

そんな関係が約5年間続き、中学1年生になったAさんは、ついにBさんと直接会う約束をします。

 

初対面のその日、Aさんの前に現れたのは「優しいお兄さん」ではなく中年男性でした。そしてAさんは彼に多機能トイレに連れ込まれ、性被害に遭います。

 

その後、わが子の身に起きたことを知ったAさんの両親が被害届を出し、Bさんは逮捕されます。彼の職業は教師でした。しかし、Aさんは彼の優しさを今でも信じており、「あの人は悪くない」と言っているそうです。

 

子どもの性的グルーミング被害を防止するために、この事例から学べることがあります。

優しさは異様な執着の裏返し

この事例からわかることは、子どもに性加害を行おうとする加害者側の執着心の強さです。Aさんとのやり取りに、加害者は約5年もの歳月を費やしています。幼いAさんはこれを「優しさ」と解釈しましたが、実際は「子どもに性加害がしたい」という異様な執着心の強さにほかなりません。

 

加害者の多くは、1週間や1か月の短期で結果を出そうとは思っていません。数か月、数年かかってもいいから加害行為を成し遂げたい。そうした強迫的で貪欲な欲望があるからこそ、「優しい理想のお兄さん」を演じ続けるのです。

 

上記の事例では、大学生を名乗っていた性加害者は、Aさんだけでなく、それ以外にも複数の子どもたちにメッセージを送りつけ、種を蒔いていたことがわかりました。X(旧Twitter)やInstagramでも同様のことが起きています。

 

オンライングルーミングにおいて、性加害者の多くは孤立している不安定な子どもをターゲットにします。性加害者たちに話を聞くと、彼らはよく性的グルーミングの過程を「(子どもの)承認欲求を転がす」と表現します。家族や学校に問題を抱えているなどの理由から孤独を感じている子どもの自尊心をくすぐり、慰めることで、信頼を得ているのです。結果的に、子どもは無条件に私を受け入れてくれたと加害者自身の承認欲求は満たされるのです。

 

一方で、小中学生の子どもにとっては「大学生の友達がいる」という事実は友達に対する“自慢のネタ”にもなります。加害者側はそうした心理も巧みに利用しています。

グルーミング被害を防ぐために

「子どもと近しい関係にある人」「面識のない人」によるグルーミングを防ぐためには、プライベートゾーンの大切さを子どもにしっかりと伝えておくことが大切です。相手が誰であれ、プライベートゾーンは勝手に見たり、見せたり、触らせたりする場所ではないという原則を理解することが、性被害予防になります。

 

また、「オンライングルーミング」被害を防ぐためには、ネットリテラシー教育が重要です。子どもがSNSを使い始める前に、安全のためのルールを家族間で再確認しておくことをお勧めします。

 

オンライングルーミングは他のグルーミングよりも時間を要するため、その間に大人が介入できたらベストでしょう。

 

 PROFILE 斉藤章佳さん

大船榎本クリニック精神保健福祉部長(精神保健福祉士・社会福祉士)。1979年生まれ。大卒後、アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、約20年に渡りアルコール依存症を中心に様々なアディクション問題に携わる。専門は加害者臨床で現在まで2500名以上の性犯罪者の治療に関わる。『男が痴漢になる理由』『「小児性愛」という病-それは、愛ではない』『盗撮をやめられない男たち』など著書多数。最新刊は『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』。

 

取材・文/阿部花恵 イラスト/まゆか!