朝起きてすぐに、いとうまい子さんは自分自身にひと言、語りかけます。今日が素晴らしい日であるための、ちょっとした習慣。皆さんは朝の起きがけに何をしていますか。(全5回中の5回)

 

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自分で自分をほめれば「細胞もイキイキするはず」

── 44歳で早稲田大学人間科学部に入学し、予防医学を学び始めたいとうさん。日々心がけていることなどはありますか?

 

いとうさん:朝起きたとき、鏡に向かって「今日も大丈夫!」と自分に語りかけるようにしています。起きぬけの髪ぼさぼさの素の私を、「かわいいね」とほめてくれる人なんて誰ひとりいませんから。

 

でも私自身が、「今日も大丈夫」って言ってあげれば、私の細胞は勘違いして喜んでくれるんじゃないかと(笑)。科学的に検証されてはいないけれど、味方がいると細胞もイキイキしそうって、勝手に思っています。

 

そんなひと言で効果が出ているかはわかりません。でも、病は気からって言うし、「ダメだな」って思ったら、その「ダメだな」が細胞レベルでしみついちゃう気がするんですよね。だから、自分だけは自分をほめてあげようと、「今日も大丈夫」を続けています。

 

── 年齢を重ねると、こういう小さな習慣の積み重ねが効いてきますね。

 

いとうさん:年齢とともに皮膚に血管が浮き出てきて、「あー、お母さんと同じような体つきになってきちゃったな」って、ため息をつくことも。でもこれが私の体だし、大丈夫って。

 

ダメと思えばダメですよね、けれど全部、私が生きていくためにがんばってくれている細胞たちです。「ありがとう」と声をかけると、そう言っている自分が幸せになる。結局、自分のエゴですけど、これが幸せになる一番の近道じゃないかな。

 

── パワフルな日々を送るいとうさんを見ていると、自分への声かけの大切さを実感します。

 

いとうさん:自分を幸せにするのは自分。誰かが誰かを幸せにするなんて、できるかどうわかりません。結婚するときって、相手に「幸せにするよ」と言ってもらいたい人もいるかもしれませんが、私は夫に「僕が君を幸せにするよ」とは言わないで、とお願いしました。

 

だって「私が楽しいと感じたら、それが幸せ」。だから、「あなたも、自分で楽しくいてくれたほうが私は幸せです」と夫には伝えました。

 

── たしかに、自分の責任で自分を幸せにすれば、他人への依存やストレスは減ります。

 

いとうさん:あるとき、私の着ていたニットを母がほめてくれました。それで「こういう洋服が好き?」って聞いたら「好き」って母が答えました。だから、同じ洋服ではないけれど、似たものを買って渡したら、母が喜んでくれるかなと期待したんです。

 

そうしたら、母に「あまり好きじゃない」って言われちゃって(笑)。そのとき、私が勝手に押しつけたのに、「せっかく買ってあげたのに、なんで喜んでくれないの?」って自分が被害者みたいな感情を持ってしまったのがイヤだなと感じました。

 

相手が本当に喜ぶことならいいけれど、勝手に忖度や推察して「良かれと思って」やったことで自分が傷つくなら、やらないほうがいい。同様に過去も変えられないし、人も変えられません。変えられるとしたら、自分と未来だけです。

チャレンジは意気込むより「ゆるく、ゆるく」

── 44歳で大学に行って、予防医学を学び始めるなど新たな世界を切り開くときも、自分の未来は自分で決める、という強い意志で?

 

いとうさん:「自分を幸せにするのは自分」といっても、私はゴリゴリ求めていくタイプではありません。そんな野心もないし、押しも強くないの(笑)。偶然の出会いやまわりからきっかけをもらって、進んできたほうが多いかな。

 

予防医学をやりたくて入った大学でロボット工学のゼミに入ったのも、通学生の友だちからのアドバイスによるものです。大学院に行くなんて考えもしなかったけど、ある企業の方に「こういう道もある」と教えてもらったから。

 

自分の経験や考えだけでは、たどりつけなかったです。小さなきっかけに「ちょっと乗っかってみようかな」という気持ちで、世界が広がってきました。

 

── なるほど、野心がない。芸能活動と研究者の両立はすごくパワーがいることだと思いますが、肩の力は抜けているものですか?

 

いとうさん:若いときは「流されないぞ」「ちゃんとやるぞ」って、力が入っていることも多いと思いますが、あんまりその思いが強すぎると反動も大きい。

 

だから、「ゆるく、ゆるく」が一番かな。強い自分を持っている人はいいんですけれど、私みたいに自信がなくて不安なタイプは、軽く一歩踏み出してみると出会いや縁があるものだなと感じます。

「自宅に研究室がほしいくらい」研究に没頭

── アンチエイジングの研究者として、ご自身は日々どんなことに気をつけていますか?

 

いとうさん:私自身は、すごく長生きしたいとは思っていなくて。でも、人生100年時代と言われて100年生きないといけないなら、寝たきりにならないように、できることはしていきたいです。軽い運動もそうですし、健康のために1日1食に変えて続ける方向です。

 

── 1日1食ですか!始めたきっかけは?

 

いとうさん:45歳くらいから、それまでと同じように食べていたらだんだん太ってきちゃって。

 

食べものの摂取とカロリー消費のバランスが崩れているからに違いない、だったら食べる量を減らそうと思ったんです。私は好きなものを好きなだけ食べたいし、夜もいっぱい食べたいので、減らすなら朝と昼かな、と。そのかわり、夜はなんでも好きなものを食べます。

 

── 先ほど、朝起きてすぐ鏡を見ながら「今日も大丈夫」とご自身に声をかけているというお話がありましたが、声かけを大切にされているんですね。

 

いとうさん:研究のときも、細胞に話しかけてますよ。細胞を増やしてわけて使っていくんですけれど、増やすときに「今日もがんばって育つんだよ~」って子どもみたいに。

 

そんなふうに大切に扱っても、最後にデータをとるときには細胞を殺しちゃいます。データを分析するとき、数字だけ見ると「今度はいいかも」「すごい発見かも!」と一瞬思うんです。でも、意外にそうでもなかったり。

 

そのたびに、「また、細胞を犠牲にしたのに結果出なかったなぁ」と、一瞬落ちこみます。自分が育てたからこそ罪悪感を持ってしまい…。

 

でも、すぐ次の細胞を培養して、実験したくなる。そして次の細胞にがんばってもらおうとまた話しかけながら育てます。もう研究は趣味ですね(笑)。ストレスなんかいっさいなくて、やりたくてしかたない日々です。家に研究室がほしいくらいです!

 

PROFILE いとうまい子さん

1983年アイドルデビュー。女優として活躍しながら、2010年早稲田大学入学。修士課程では高齢者のための医療・福祉ロボットの研究に携わる。博士課程進学後は基礎老化学を研究。現在は早稲田大学大学院に研究生として抗老化学を研究中。自身で会社経営も行う。2021年より内閣府の教育未来創造会議構成員。2021年(株)タスキ、2022年(株)リソー教育の社外取締役に選任。

 

取材・文/岡本聡子 写真提供/いとうまい子、株式会社マイカンパニー