人生の「まさか」は、とんでもないところで待ち受けているのかもしれません。大学の卒業制作に励んだ、いとうまい子さんにやってきたまさかの展開。そんなことってあるんですね!(全5回中の3回)

 

ピース姿は大学生そのもの!卒業式のいとうまい子さん

「レポートが間に合わない!」仕事との両立に苦労

── 44歳で早稲田大学人間科学部e-スクールに入学。オンライン中心ですが、講義や宿題・課題は通学生と同じだと聞きました。

 

いとうさん:オンラインでつながっていれば、夜中であっても地方での仕事があっても授業を受けられるので芸能活動と両立できました。

 

でも最初の半年間は、勉強のペースが確立しなくて苦労しました。週末にまとめて授業を受けて、宿題やレポートをこなそうとしていたのですが、スケジュール管理がうまくいかなくて「レポート提出が間に合わない!」と、私自身が毎週末、キャパオーバー気味になってしまって…。

 

これではダメだと、平日、仕事が終わってから勉強することにしました。それでも1コマ90分の授業を受けて、わからないところを聞き直したり、ノートにまとめていると3時間は過ぎてしまいます。気がついたら夕飯の支度が間に合わず、主人に「ごめんね」って。

電車を乗り間違え「大学と逆方向に行ったことも」

── ご主人とは、犬をきっかけに出会って44歳でご結婚。いとうさんの大学進学にはどんな言葉を?

 

いとうさん:私が「大学に行こうかな」と相談したら、主人は「行きたいんだったら行ったほうがいいよ」と言ってくれたので、後押しになりました。だから、家事が多少できなくても夕飯が遅れても、「勉強が終わってからでいいよ」と言ってくれるので助かりました。

 

でも、「僕には勉強の内容は聞かないでね、わからないから」って(笑)。主人にとって、私の学ぶ学問は専門外。でも、もし主人がその分野の知識があって教えてくれていたとしたら、私は身につかなかったでしょう。「自分でやるしかない」から、真剣に授業を聞けたんだと思います。

 

手に細胞をもって研究中のいとうさん

── ところで、予防医学は生物系の分野ですが、いとうさんはもともと理系なんですか?

 

いとうさん:はい。小学校くらいから算数や理科が好きで、国語や社会は苦手でした。ITなどテクノロジーも好きですね。

 

── 実際に、キャンパスに通学する機会もあったんですか?

 

いとうさん:たまにスクーリングで大学へ行くことはありましたが、自宅から片道1時間半かかるんです。電車の乗り換えを間違えて、違う方向に行ってしまったことも(笑)。何人かの学生さんと友だちにもなりました。

作った装置が評価され「4年生の秋に思わぬ道へ」

── 4年間学んでどんな感触を得ましたか?

 

いとうさん:予防医学への応用を考えて、3年生からはロボット工学のゼミへ。卒業制作で高齢者のロコモティブシンドローム(運動器症候群)防止のスクワットをサポートする装置を作り、4年生の秋に国際ロボット展に出展しました。

 

それをたまたま神戸の企業の方が体験して「とても良い研究だから、この先も研究を続けるなら手伝わせてほしい」と言ってくださったんです。

 

企業とコラボして開発した介護予防ロボットの「ロコピョン」

── 企業の目にとまるとは、すばらしいですね。

 

いとうさん:でも、研究を続けるなんて考えてもいなかったので「どういう意味ですか?」って聞き返したら、先方が「大学院に行くなどして、続けるという意味です」と教えてくださって(笑)。

 

── 最初は、大学院進学は視野に入れてなかったんですか?

 

いとうさん:大学院のことなんて知らなくて、どうやって行くの?という状態でした。私、大学4年間勉強すれば、自分がすごく変わると思いこんでいたんです。私を支えてくれている世の中への恩返しも、芸能活動以外でもきっとできるはずだと。

 

それが全然、目指したところにたどりついてない。このままでは終われないので、大学院に行って続けてみたいと考えました。すぐゼミの教授に、「大学院にはどうやって入ればいいんですか」と相談しました。成績が基準を満たしていたことで推薦枠で大学院へ。予想もつかない展開でした。

 

PROFILE いとうまい子さん

1983年アイドルデビュー。女優として活躍しながら、2010年早稲田大学入学。修士課程では高齢者のための医療・福祉ロボットの研究に携わる。博士課程進学後は基礎老化学を研究。現在は早稲田大学大学院に研究生として抗老化学を研究中。自身で会社経営も行う。2021年より内閣府の教育未来創造会議構成員。2021年(株)タスキ、2022年(株)リソー教育の社外取締役に選任。

 

取材・文/岡本聡子 写真提供/いとうまい子、株式会社マイカンパニー