40代半ばともなれば、社会人20年ほどのキャリアでスキルも知識も十分。新たな道に進むには勇気や環境が必要になるでしょう。44歳のいとうまい子さんは「学びたい」一心で、大学の門を叩いたといいます。(全5回中の2回)

 

白衣姿もお美しい!研究中のいとうまい子さん

芸能の仕事があるのは番組や商品があるからと気づいて

── 童顔ゆえに大人の女性役をもらえないなど、不遇の20代を過ごしたいとうさん。つらい時期から、どのように気持ちを立て直したのでしょうか?

 

いとうさん:当時は「役がほしい」「監督に気にいられよう」と、近視眼的なことしか考えず、心が荒れていました。犬を飼いはじめ、誰に気にいられようなんて考えず生きる犬を見て、生物としての存在のすばらしさを感じ、私も自分らしく生きようと思えました。

 

仕事への考え方も、「私は世の中全体に支えられている」というふうに変わりました。それまでは自分のまわりしか見えていなくて、仕事もちゃんとしよう程度の向き合い方でした。

 

でも、私が仕事をもらえるのは、その向こうに番組制作費を出してくれるスポンサーさんの商品やサービスを買ってくれる人たちがいるから、私たち出演者までお金がまわってくる、と気づいたんです。そう思うと、街を歩いている人たちみんなに感謝ですよね。

 

事務所にも所属していない、幼い顔で背も低くて「ダメだ」って言われ続けた私でも、みなさんのおかげで生きてこられた。まだ何の恩返しもできていないので、これからはもっと恩返したいと思ったんです。

 

── 恩返しが原動力になったんですね。

 

いとうさん:番組に出演する姿を見て、「元気をもらえました」と言ってくれる人もいるんです。私が恩返ししたいのに、感謝されて私のほうが逆に元気もらって、恩返しの応酬みたいになって、全然、恩を返せてない(笑)。

 

芸能活動はがんばりますが、そのほかのかたちで世の中に恩返しできるすべはないのかな、といろいろ考えました。

仕事で知った「予防医学」の世界を学びたいと思った

── 芸能活動以外にも視野が広がったきっかけは?

 

いとうさん:芸能界しか知らない私にできることがあるんだろうかって、ずっと探し続けていました。

 

そんなとき、特定疾患の方々をサポートするプロジェクトの仕事を通して、予防医学の教授と出会ったんです。コロナのずっと前の2009年ころだったので、世の中の予防への意識はいまとは違いました。

 

もしかすると、「予防」ってすごく大事なことなんじゃないかしら?と思ったんです。体調が悪くなれば病院へという発想の前に、自分で気をつけて対処したら病院に行かずにすむし、自分で健康を守れます。そこで、自分でも多くの方に予防の大切さを届けたいと考えました。

 

当時は高卒だったので、大学で予防医学について学んでみたい。でも、医学部はムリ。私の学びたい科目をとれるのはどこだろう?と探していって、早稲田大学人間科学部のe-スクールを探しあてたんです。そこなら、医師でもある先生たちの講義をきいて、人体や精神医学のことも広く学べるとわかりました。

44歳で早稲田大学へ入学「不安はなかったです」

── 2010年、書類審査・面接を経て、早稲田大学人間科学部e-スクールに入学。新しい世界を前にどんなお気持ちでしたか?

 

いとうさん:44歳での入学でしたがとくに不安はなく、勇気を必要としたわけでもありませんでした。もともと新しいことをはじめるのが大好き。いまでも、何かを始めたいなーって日々考えています。

 

新しいことをやるときに勇気が必要な人は、おそらく「失敗したくない」気持ちが強いんだと思います。私は23歳で事務所をやめて仕事を失う地獄を見たので、そのときと同じような地獄はもうないだろうと(笑)。何かをやってみて向かないと気づくこともあるし、たとえ失敗してもやめちゃえばいいかな、くらいの気持ちでいられます。

 

大学では白衣姿のいとうさん

── つらい20代の経験がプラスに働いていますね!

 

いとうさん:そうですね、みなさん、「失敗したらどうしよう」「続けられなかったらどうしよう」といろんなことを考えて、一歩前に出られない人が多いのかな。

 

安全なところからわざわざ飛び出して、痛い思いをしたい人なんてあまりいないですよね。私の場合は苦い経験があって、あれ以上ひどいことはないだろうと思えるから前に進めます。

 

PROFILE いとうまい子さん

1983年アイドルデビュー。女優として活躍しながら、2010年早稲田大学入学。修士課程では高齢者のための医療・福祉ロボットの研究に携わる。博士課程進学後は基礎老化学を研究。現在は早稲田大学大学院に研究生として抗老化学を研究中。自身で会社経営も行う。2021年より内閣府の教育未来創造会議構成員。2021年(株)タスキ、2022年(株)リソー教育の社外取締役に選任。

 

取材・文/岡本聡子 写真提供/いとうまい子、株式会社マイカンパニー