男子マラソン前日本記録保持者・大迫傑選手と妻・あゆみさんは、アメリカ生活を経てご家族で日本に戻ってきました。帰国後のお子さんの様子や教育方針、夫婦喧嘩と家庭内での役割分担についても伺いました。(全4回中の3回)

主張することに慣れた娘は戸惑う場面も

── 帰国後の生活についても聞かせてください。

 

大迫さん:アメリカでのストレス第1位だった言葉、これが通じるのがうれしくてうれしくて。病院の予約や支払い、「この請求は何ですか」とか「プランを変えたいんですけど」とか、これまではちょっとした電話でもハードルが高かったので、電話1本で解決できることが何より楽になりました。

 

車の保険とか生命保険とか、何でも自分で完結できる喜びをひしひしと感じています。あとは、こんなに人と話すって楽しいんだということも再認識しました。我が家は帰国してからおしゃべりになりましたね(笑)

 

── お子さんもすぐに慣れましたか?

 

大迫さん:長女はちょっと戸惑うこともあったみたいですね。アメリカで主張することに慣れて日本へ帰ってきたので、小学校の授業でチーム内で話し合って何かを生み出すときに、ひとりだけディベート大会のようになっちゃったらしくて。「自分の主張を通すことだけを考えてしゃべってしまう」と悩んだり「私が意見を言うと『うわ、そんな強く言う?』とか『性格、きっつ!』と言われた」と伝えてきたりしたことがありました。

 

でもそれは日本のいい面でもあって、チームワークを組んでひとつのプロジェクトをやるってときには、日本人の力や協調性はすごいんだよと伝えて。本人も「日本人はそういうところ上手だよね」と納得して、周りの意見も聞きつつそこからまた違うプランを練りだせるようにがんばっていきましたね。必ず同調だけにならないように、両面を見て考えさせるようには心がけています。夫とも「お父さんとお母さんが同じことを言ってるよりも真逆の意見を出すほうが、自分はどう思うのかを考えられる子どもになるよね」と話しています。

 

── ほかにも育児で心がけていることはありますか?

 

大迫さん:両方の側面を与えて選択させる、迷ったらやる、できないことに悩むよりはできることを伸ばすようにとは伝えています。

 

例えば長女だと、英語はできるけれども日本語をそんなにやっていなかったので、国・算・社・理があまりできないということがありました。そのときは夫が「できないことを悩んでる時間で得意な英語を伸ばせ」と言っていましたね。そしたら長女が、英語だけでやりとりをする社会人から子どもまでが入れるサークルがあるらしいという情報を見つけてきたこともありました。

 

あとは「何か新しくやりたいことがあったら、パワーポイントを作ってプレゼンして」とも言ってます。アメリカに住んでて日本に帰ることが決まっていた時期に、長女が「ピアスを開けたい」と言い出したことがありました。私が反対派の意見、夫が賛成派の意見を言って、両方を聞いたうえで自分がどうしたいのか決めるように伝えたら「やっぱり開けたい」と言ったので、「じゃあパワポで説明して」と伝えました。最後は本人がよく考えて「自分の人生は自分で決めたい。ピアスのことをもし周りに言われたとしても、私は自分で決めて開けたと胸を張って言える」と結論づけていました。

 

長女と次女はランニング大会に出場することも

── 姉妹の似ているところや異なるところを聞かせてください。

 

大迫さん:長女はとにかく真面目で、昔の私みたいに保守的で挑戦が怖いみたいです。小学校のディベート大会でもあれを言うんだこれを言うんだと箇条書きにして、絶対に失敗しないように前もって準備していました。次女は夫と似てますね。失敗を恐れないので、新しい事柄や環境にも朗らかに入っていってすぐに溶け込めるんですよね。めちゃくちゃ人たらしだと思います。

 

ふたりとも習い事として陸上をやってますが、選手を目指すとかではなくて、楽しく走ってほしいという思いでやらせてます。体力だけはあるので大会に出ることもあります。夫は「好きなことをのびのびやってほしい」、「日本の親は結果が出ないとすぐ怒る人もいるけれども、俺は絶対そんなことはしない」と言っていて。だから、どんなタイムで走って何番で帰ってこようが「グッジョブ、よくやった」と、どのような結果でも迎え入れることは徹底してます。

 

子どもたちにそういう風に言ってると、夫がケニアに行ったときや実業団をやめてアメリカへ行ったときのように、失敗を恐れずにチャレンジしようという気持ちや失敗してもまた次頑張れるという気持ちが育つんじゃないかなと思っています。

包み隠さず話すと義両親も味方でいてくれる

── 夫婦喧嘩や家庭内での役割分担についても教えてください。

 

大迫さん:喧嘩と言うか本当にしょうもないことですけど、「靴下片づけろ」とか「脱いだものは洗濯機に入れろ」とかは言いますね。この人は陸上の日本代表選手だからとかは気にせず、世間のお父さんが言われているようなことは私も言ってます。夫は「お前がやれよ」と反発してくるんですけど、「視野が狭いとレースに影響するよ」なんて言い返して、最終的にはしぶしぶやってくれてますね(笑)。

 

家事もほとんど私がやっていると言っても過言ではないですが、夫がいるときは全力で遊んでくれるしご飯も作ってくれるし、埋め合わせをするかのように一生懸命やってくれてますね。この前は、家にあるすべてのボウルとフライパンを出して、ナポリタンやキムチチャーハンなど、男の料理を作ってくれました。

 

大迫選手のご両親にはアメリカ案内も

──大迫選手のご両親との関係も素敵です。義両親と仲良くする秘訣はありますか?

 

大迫さん:お母さんも最初は家族でアメリカへ行くことには不安そうだったんですよね。集中して競技に取り組ませてあげたいという親の気持ちもわかるので、だったらインスタグラムで楽しい様子を見ればきっと安心してくれるだろうと思って発信していたところもありました。

 

あとは、渡米してまもなくのふたりで荒れてる時期、もがいてる時期も包み隠さず話しました。弱音だけを伝えると心配させてしまうので「傑くんが今こんなことで大変そうですが、元気にやっています」とポジティブっぽく報告してましたね。男の人って親に連絡を取らないから余計に心配だと思うし、いきなりアメリカに行って何も問題がないわけないじゃないですか(笑)。「大丈夫です」と言っても見透かされると思ったので、実際に直面してるトラブルは逐一報告して、1週間に何通もLINEでやりとりをしてました。

 

写真を送るときも子どもの姿だけじゃなくて、夫がファーマーズマーケットへ行って笑顔で野菜を選んでいる姿に「今日はこんな楽しそうに買い物してました」と報告をつけたりして。そうしていると、本当に味方でいてくれるんですよね。

 

PROFILE 大迫あゆみさん

1989年生まれ。2012年、男子マラソン前日本記録保持者・大迫傑選手と結婚した。現在はTBSテレビ「ひるおび」で隔週レギュラー出演をしながら、11歳の長女と5歳の次女を育てている。アスリートフードマイスターの資格を取得しており、2020年からは「ランニング食学検定」アンバサダーも務めるなど、幅広く活動している。

 

取材・文/長田莉沙 画像提供/大迫あゆみ