著書『発達障害で「ぐちゃぐちゃな私」が最高に輝く方法』で発達障害を公表した、声優・ナレーターの中村郁さん。同じ特性を持つパートナーと結婚し、2人のお子さんを育てています。家事育児で工夫されていることを聞きました。

 

声優・ナレーターとして活躍中の中村郁さん
声優・ナレーターとして活躍中の中村郁さん

夫とは「バイトをしょっちゅうクビになる話」で盛り上がる

── ご結婚をされて、2人のお子さんもいらっしゃいます。

 

中村さん:結婚も出産も、「私にはできる気がしないから、したくない」と思っていました。それが、同じ仕事をしていて同じ特性を持つ夫に出会いまして。夫も発達障害で、「バイトをしょっちゅうクビになる話」で盛り上がったんです。

 

今、私は発達障害の自助会を主催して、みんなで自分の生きづらさを話し合う場をつくっています。夫は「郁ちゃんと僕は、出会った頃からふたりで自助会をやっていたよね」と言っています。

 

結婚は考えていませんでしたが、93歳の祖母に「花嫁姿を見せたい」と思って、結婚することにしました。すぐに子どもを授かったので、祖母にはひ孫も見せることができました。それから1か月たたないうちに亡くなったので、待っていてくれたのかなと思います。

 

結婚式の写真。育ての祖母と一緒に
結婚式の写真。育ての祖母と一緒に

── 家事の分担など、おふたりで工夫されていることはありますか。

 

中村さん:苦手なことは、できるだけ手放して、あとは環境を工夫してなんとかやっています。たとえば私は洗濯が苦手なので、乾燥までしてくれる洗濯乾燥機を導入しました。分類するのが苦手で、いろんな種類の衣類があると見るだけでいやにもなってしまうので、子どもの靴下は全部同じ種類で揃えています。

 

同じ発達障害でも、夫とは得意なことと苦手なことが違うので、分担して得意なほうがやるようにしています。私はゴミ出しが苦手で、表にして貼っておいても、何曜日に何を出せばいいのかが、ぐちゃぐちゃになってしまうんです。だからゴミ出しは夫にやってもらいます。夫の場合は、大勢の人がいる場でのコミュニケーションが苦手なので、そういうときは私が話すようにしています。

 

できないことがあっても、「お互いに相手を責めない」というのが、ふたりのルールです。私はしょっちゅう物をなくして、そのたびにパニックになるんですけど、そういうときに夫が「郁ちゃん、ADHD出てるで」と声をかけてくれるとちょっと落ち着くんです。反対に、イレギュラーな事態が苦手な夫が「もうダメだー!」と落ち込んでいるときは、私が「大丈夫だよ」と声をかけてあげたりします。

子育てはハードルを低く「あきらめることも大事」

── 子育てはいかがですか。

 

中村さん:子育てはあきらめることも大事ですね(笑)。

 

子どもは今、6歳と3歳です。「毎日必ずお風呂に入れなければいけない」「この時間までにぜったいに寝かせるんだ!」と自分を追い込んでいると、私自身がぐちゃぐちゃになって「早くしなさい!」と子どもを怒ってしまう。「ちょっとくらいゆるくても、私もみんなも笑っていられるほうがいいか」とハードルを低くするようにしています。

 

6歳と3歳の子育てに奮闘中
6歳と3歳の子育てに奮闘中

とにかく私は忘れ物やなくし物が多いので、最初からスペアをたくさん用意しておいたり、大事なことは紙に書いて玄関に貼っておいたり。いろいろと工夫はしていますけれど、それでも学校でうちの子は「忘れ物が多い子」とすでに認識されていると思います。子どもたちも発達障害の可能性があるので、近いうちに検査を受ける予定です。

 

私は生まれてすぐに両親に手放されて、祖父母に育てられました。 3人目で「望まない子だった」と後に母に言われたことがあります。 そのこともあって、自分に子どもを育てられるか不安でした。でも生まれてきたらかわいくて、生きがいになってくれています。家族全員おっちょこちょいだけど、楽しくわいわいやっている感じです。

 

祖母と小さい頃の中村さん
祖母と小さい頃の中村さん

── すべての親にあてはまるお話だと思います。

 

中村さん:発達障害でなくても、うっかりすることはありますよね。自分が工夫していることを本に書いたら、発達障害でない方も、「わかるわかる」とか「これ、採用しよう」とかコメントをいただきました。苦手なことは手放したり工夫したりして、余分なストレスを減らしたほうが生きるのが楽しくなりますよね。

 

発達障害は、いわゆるグレーゾーンの方が一番しんどいかもしれません。「自分がダメだからできないんだ」とうつ病になってしまう人も多いんです。そういう二次障害を防ぐためにも、診断を受けて自分の特性をよく知ることは大事だと思います。

 

── 中村さんの発信するメッセージに救われる人は多いと思います。

 

中村さん:私もそうですが、発達障害の人のなかには「好きなことなら没頭してがんばれる」という特性を持っている人が多いです。私は機械が苦手なのでパソコンなんて見るのもいやだったのに、「本を書きたい」と思ってパソコンを買って、指1本でポチポチと打っているうちになんとか使えるようになりました。エンタメ業界にも、発達障害の特性を生かして活躍している人は多いです。

 

私の本を読んで、「死にたいと思っていたけれど、この本を読んで救われた」と言ってくださる人がいるので、本を出してよかったです。

 

これからも出版や講演を通して、当事者としての声を届けていきたいですね。同じように生きづらさを感じている人たちのあと押しをしたり、発達障害への理解を広めたりすることができると思うと、使命を与えてもらえた気がしています。

 

子どもたちと記念の写真撮影
子どもたちと記念の写真撮影

 

PROFILE 中村郁さん

声優・ナレーター。多彩な声と集中力を生かして活躍中。著書に『発達障害で「ぐちゃぐちゃ」な私が最高に輝く方法』(秀和システム)。

取材・文/林優子 画像提供/中村郁