「カールおじさん」の生みの親であるひこねのりおさんと、のりおさんを長年支えてきた妻のまふみさん。2022年に始めたXも注目を集めています。伝説のキャラクターが誕生した当時のお話を伺いました。(全2回中の1回)

SNSへの投稿を始めた理由

── 2022年から始められたX(旧Twitter)の投稿。時事ネタに添えられた過去の作品がどれも魅力的で、改めてひこねさんが生み出されたキャラクターたちに魅了されています。

 

のりおさん:長年、どういう反応があるかわからないままひたすら描いてきたけれど、直接「いいね」やコメントをもらえると、「こんなに見てくれている人がいるんだ」と実感して嬉しいですよね。

 

まふみさん:投稿は、長くひこねのアシスタントをやっているスタッフがやっているんです。2022年に軽井沢で個展をしたときに「たくさんの人に知ってもらいたい」と始めて、そのままおもしろがって続けています。

 

ハッシュタグに合うものを古い作品の中から探して、本人にインタビューをして、ときどき本人の悪ふざけも入れたりしながら、楽しんでやっています。

 

ガリバーになったカールおじさんや、阪神優勝を祝うペンギンの投稿には、特に反応があったみたいですね。

 

「#世界観光の日」に寄せてXに投稿されたイラストは180万回以上表示された

エキストラから主役になったカールおじさん

── 添えられた文章にもセンスを感じていました。アシスタントスタッフさんが代筆されているのですね!長く活動されてきたなかでもカールおじさんは、誰もが知るキャラクターです。初めてCMに出演したのは1974年でした。

 

のりおさん:彼はなんとなく自然に「ぽこっ」と生まれたキャラクターです。

 

「カール」のCMディレクターは大学時代の友人で、「カールを食べている子どもと村の動物たち」という設定を一緒に考えてくれたんです。後ろにいる動物たちの中に、僕が冗談みたいに入れたおじさんが、なんだか目立っちゃって。ただのエキストラだったのに、「あの人は誰だ?」ということになって、いつのまにか主役になりました。

 

子どもとの関係性もあとづけです。おじさんは結婚している感じでもないから、「おじさんとおいっ子にしようか」って。

 

まふみさん:おじさんは、「カール」のコマーシャル以外にもいろいろなところに出演しています。同じく「カール」のCMから独立したキャラクターに、カエルのケロ太がいますが、このキャラクターを使った「ケロ太のお天気カレンダー」にもさりげなく登場して。そのうち毎月出るようになって、歴史上の人物になったり、世界の民族衣装を着たり、いろいろやりましたね。

ケロ太が持ってきた大きな仕事

──「ケロ太のお天気カレンダー」は、40年続きました。ゲストとはいえおじさんも大活躍でしたね。

 

のりおさん:おじさんは何にでもなれるんですよ。融通がきくんですよね。

 

もともとは農業をやっている働き者のおじさんなんだけど、いろんなところへ出かけていって、だんだん素朴じゃなくなっていきましたね。どんどん愛想もよくなっていって(笑)。

 

ケロ太のカレンダーは、サントリーの仕事にもつながりました。カレンダーを気に入ってくれていたアートディレクターが、サントリーの缶ビールのCMに僕のイラストを提案してくれたんです。大きな案件だったので、慎重に練ったアイデアがすでに3つあって、僕のはおまけだった。だけど、それを先方の担当者が気に入ってくれて。

 

「ケロ太の表情が味わい深い」長く愛されたケロ太のお天気カレンダー

── それが「パピプペンギンズ」ですね!バーで歌う女性ペンギンがキュートで、当時人気を博しました。

 

のりおさん:運がいいんですよ。女性ペンギンの歌を歌っていたのは松田聖子さんです。彼女の歌がよかったから、あんなに売れたんです。映画まで作っちゃってね。

 

サントリーとの契約が終わったあとも、そのアートディレクターがあちこちに売り込んでくれて、電力会社や製薬会社、通信会社などの広告に使ってもらいました。

 

企業のコマーシャル用に作ったキャラクターが、ほかの企業のコマーシャルにも使われるっていうのはあまり例のないケースだと思いますね。

調べずにイメージだけで描く

── ひこねさんが作られるキャラクターの魅力はなんでしょう。

 

のりおさん:それは、描いているほうはわからないんですよ。計算してやっても、いいことないんでね。「こうやったらウケるかな」というようなことは考えないようにしているし、考えても無理だし。無心になって作ったものが、わりといいですね。

 

幸か不幸か、僕自身に観察力や好奇心がないんですよ。ペンギンのキャラクターを作るときも、動物園へ見に行ったり調べたりしないで、自分の頭の中にあるイメージだけで描いたんです。

 

サントリーのCMが当たった頃、クイズ番組に出たんです。「あのペンギンを描いたのは誰だ」というクイズのゲストでね、もう40年以上前ですけど。

 

そのとき、「これは何ペンギンなんですか」と質問されて、困っちゃってね。ペンギンにもコウテイペンギンとかイワトビペンギンとか、いろいろいるからね。そうしたら吉村真理さんが、「ひこねペンギンですよね」と助け舟を出してくれて、ありがたかったです。

 

バックに松田聖子さんの「SWEET MEMORIES」が流れたサントリーのCMで、パピプペンギンズは大人気キャラクターになった

── どちらかというと、イメージだけで描くほうが難しい気がします。

 

のりおさん:友達にリアルなイラストを描くのがいて、「よくこんなリアルな絵を描けるね」と言ったら、「おまえみたいなのが描けないからね」と言われましたね。資質が違うんですよね。

 

僕は子どもの頃から漫画家になりたかったんだけど、今みたいに漫画の専門学校がない時代だったから、東京藝術大学に入ったんです。大学時代、モデルをデッサンしても「全然似てない」ってよく言われました。「よく見て描け!」って。

 

めんどくさがりやで無精で、好奇心とか探求心がない。飽きっぽいしね。でも、一般的には長所じゃないような性格が、個性になるんですよね。それを生かすことができて、しかもみなさんにウケたのは、すごく運がよかったと思いますね。

タンゴを踊る鬼はバタくさいイメージで

── NHKみんなのうたの「赤鬼と青鬼のタンゴ」のキャラクターも印象的です。

 

のりおさん:「カール」の仕事が始まった頃かな。高校時代の同期生がNHKのプロデューサーをやっていて、声をかけてくれたんです。「こういう曲なんだけど」と友達が電話口で歌ってくれたら、シュールでおもしろい歌詞でね。

 

タンゴを踊るんじゃ、桃太郎とか節分に出てくる日本的な鬼とは違うだろうと思って、バタ臭い感じを出したんですよ。

 

鬼の後ろに7匹のうさぎを出したくてイメージスケッチを見せたら、プロデューサーが「うさぎたちにバイオリンを持たせろ」って。「そんなバカな」と思いながらやってみたら、シュールなのができたんです。作曲は福田和禾子さん、作詞は加藤直さん、歌は尾藤イサオさん。豪華ですよね。これも運がよかったですね。

 

PROFILE ひこねのりおさん

1936年生まれ。東映動画(現東映アニメーション)、虫プロダクションを経てフリーランスに。妻のまふみさん、スタッフ2名と「ひこねスタジオ」を運営する。著書に『ひこねのりお キャラクターあれこれ図鑑』(平凡社)。Xは「ひこねのりおのHANSUU」@hikonenorio10

 

取材・文/林優子 画像提供/ひこねスタジオ