「健康のため」「美容のため」と、小麦製品を食べるのを避ける人もいるでしょう。でも、なんで小麦は控えたいのでしょう?本当のところを知りたくて、医師の工藤あきさんに聞きました。
「グルテンフリー」の食事は万人に必要なことなの?
── 飲食店でグルテンフリーのメニューをかかげたり、スーパーでもグルテンフリーの食材が並ぶのをよく見かけるようになりました。グルテンというと、小麦に含まれるタンパク質のことですが、そもそも、どうして小麦が体に悪いのでしょうか?
工藤先生:たしかに、グルテンフリーは健康意識の高い人をはじめ、食事のトレンドとして広く知られるようになりました。しかし、小麦が体に悪いというのは、いささか誤解があると私は考えています。
グルテンフリーが注目されるようになった大きなきっかけは、世界No.1テニスプレイヤーのジョコビッチ選手の書籍です。不調だったジョコビッチ選手が、グルテンフリーを実践することで体調が回復し、世界制覇に至った経緯が書かれています。
ジョコビッチ選手は「セリアック病」を患っていました。セリアック病とは、グルテンを摂取するとうまく消化できず、腹痛や下痢、抑うつなど様々な不調をきたす病気のこと。グルテンフリーは、病気の治療として行われたものでした。そもそもセリアック病は珍しい病気で、有病者は欧米諸国で1%、日本ではさらに少なく0.05%程度。
グルテンフリーの食事法がブームとなり、実践する人が増えていくうちに、いつしかその情報が抜け落ちて、“グルテン(小麦)は体に悪いもの”という認識だけが広がっていったような印象を受けています。
問題なのは「小麦そのもの」ではなく「小麦製品」
── となると、多くの人にとって、パンやめん類などを控えるなど、グルテンフリーを実践するメリットはないのでしょうか?
工藤先生:そうとは言いきれません。セリアック病でなくても、小麦アレルギーの方や食べると体調が悪くなる方もいらっしゃいます。また、いずれにも該当しない多くの方にとっても、小麦製品を大量に食べるのは避けていただきたいです。「小麦と小麦製品」は別物だからです。
── 別物とは、どういうことでしょうか?
工藤先生:小麦はパンやパスタ・ラーメンなどの麺類、ピザ、ケーキなどお菓子類、さらにはカレーの固形ルーや天ぷらの衣、ハンバーグのつなぎなど、さまざまな食べ物に使われています。いずれにしても、私たちが食べるときは「小麦をそのまま」ではなく、何かを作る材料として使われ、油やバター、塩、砂糖、ときには添加物などが加えられているわけです。
こうした気づかないうちに口に入れている塩分や糖質、脂質が過剰摂取となり、体に悪い影響を及ぼしているのです。たとえば、同じ主食で比べてみても、米は食塩0グラムですが、食パンだと6枚切り1枚0.7グラムも含まれます。
── つまり、小麦そのものというよりも、小麦の使われ方に問題があるということですね。
工藤先生:脂質が多い食べ物は胃に負担がかかって消化に時間がかかりますし、血液がスムーズに流れずに血管を傷つけてしまいます。塩分も高血圧につながるなど、さまざまな病気の原因となります。
また、小麦製品はやわらかくて食べやすいものが多いため、早食いや大食いになりやすく、糖尿病や肥満のリスクも高まります。
朝食にパンを食べてしまった日のランチや夕食は?
── とはいえ、これだけ小麦を使った食べ物があふれているなかで、避けるのは簡単ではないですよね。
工藤先生:完全に除去するのを目指すのではなく、なるべく摂取量を控えるように工夫してみましょう。たとえば、主食が小麦製品の主食は一日一食にする。朝食にパンを食べたなら、昼食と夕食はお米にするといった食事です。
小麦粉の代替品を使うのも有効です。代表的な米粉や片栗粉のほかにも、最近は大豆やこんにゃくのパスタなども登場しています。私自身、大豆のパスタを試してみましたが、小麦のものとはやや味わいは異なるものの、ソースを絡めるなど工夫すればおいしく食べられました。
── それこそ、グルテンフリーの食材を定期的に取り入れながら、ムリなく小麦製品を少なくしていけばいいわけですね。
工藤先生:ストイックな食事制限はストレスもたまりがちになります。病気で制限がない限りは、ゆるい気持ちで小麦製品と上手につきあっていきましょう。
PROFILE 工藤あきさん
消化器内科医・美腸・美肌研究家。一般内科医として地域医療に貢献する傍ら、腸活×菌活を活かした美肌・エイジングケアにも尽力。テレビ、本、雑誌などメディア出演多数。2児の母。
取材・文/大浦綾子