アナウンサーとしてNHKで30年以上活躍し、2023年9月に早期退職をした武内陶子さん。2度の出産を経て2011年に仕事に復帰した当時、更年期障害にさいなまれ、仕事を辞めようと思ったこともあったそうです。(全4回中の2回)
「ママ、怒っていない?」子育て中に襲われた更年期障害
── 2度の出産、育休を経て、2011年にお仕事に復帰されていますね。その後、更年期障害になったとか…。
武内さん:クイズ番組で復帰しましたが、数年後に更年期障害で悩むことになります。50歳を過ぎたころから生理不順などの症状が出始めましたが、私の場合はひどかったのがホットフラッシュ。突然、首から上がカーッと熱くなり、何も考えられなくなるのです。なんとなく症状が出そうという予感はあるのですが、それがいつ来るかわからないので、もう恐怖でした。考えがまとまりなくなり、頭が真っ白になるように。生放送中に言葉が出てこなくなったらどうしよう…と不安になり、仕事を辞めようかと思ったこともありました。
実をいうと最初のころは、それらの症状が更年期障害によるものだと気づきませんでした。女性の生理や更年期については、最近でこそオープンになってきていますが、そのころはまだまだフタをされていた話題。WEBにも情報が少なく、更年期外来に行き着くまでには時間がかかりましたね。
── そこから治療を?
武内さん:ホットフラッシュ以外にも顔が真っ赤に腫れる肌トラブルや、指の関節が痛くなって曲がるヘバーデン結節など、さまざまな症状に悩まされました。ホルモン治療などもしましたが、すべてが改善されるわけではないので結局は耐えるしかない…。ただ更年期障害は一般的に閉経すれば収まっていくものなので、「いつかは終わる!」というのを支えにがんばりました。
困ったのは更年期障害に悩まされた時期が、子育ての時期が重なっていたこと。39歳で長女、45歳で双子の次女と三女を出産したため、その頃、子どもたちはまだ小学生と中学生でした。感情のコントロールがうまくできず、いつもイライラ。子どもに対してもすぐに怒ってしまい、「ママ、いつも怒っている!」と言われるように。
ただそう言われても私は怒っている自覚がないため、どうしたらいいかわからなかったですね。仕事をしていたため気持ちをほかにも向けることができましたが、あのころは自分のことが嫌いになってしまい、それが本当にツラかったです。
怒っている理由、ツラい原因をきちんと伝える
── どうやってお子さんたちとの関係を改善していったのですか?
武内さん:ある番組で、アンガーマネージメントについて詳しい人と会う機会がありました。私はそれまで人生にノウハウはないと思っていて。心理マネージメントや気持ちのコントロール方法にあまり興味がなかったんです。ただ更年期障害で感情のコントロールがうまくできていない状況では、アンガーマネージメントが効果抜群でした。
── アンガーマネージメントとは、具体的にどのような方法なのですか?
武内さん:例えば、怒りそうになったら、好きなことを思い出したり、手をグーパーしたりして、怒り以外のところに気持ちを集中させます。怒りのピークは6秒と言われているので、そうしている間に怒りが収まっていき、子どもたちを怒る回数も減っていきました。
ほかにも、子どもたちに“怒りのレベル”を数値で伝えるようにしました。「今、ママの怒りレベルは10段階で3だけど、このままずっと片づけをしないと8になるよ」というふうに。そうすると子どもはどうして私が怒っていて、何をしなければいけないか理解してくれるようになっていきました。
この方法を行うまでは、子どもも怒られている理由がわからず理不尽に思っていたようです。なんとなくお互いに考えていることがわかっていると思い込んでいましたが、そうではなかった。
── ちゃんと気持ちを伝え合うことが大切だと?
武内さん:私たちの場合は気持ちを伝え合うことでしたが、問題が起きたときに乗り越えるための解決策がひとつでもあると、それが家族にとって自信になり、気が楽になります。ツラいことがあってもそれは無駄ではなく、いっしょに乗り越えることが大切だと実感させられました。子育てをしていくうえで、いろいろな人の話を聞いて試してみることは本当に大切ですね。
更年期を乗り越える方法としては、ほかにも好きなことがあると気が紛れておすすめです。更年期のことばかり考えていると余計しんどくなりがち。私はゴスペルや大好きなBTSなどに触れることで、子どもや仕事以外にも時間をつくりました。大人の推し活、いいですよ(笑)。
── 更年期障害は自分だけで悩んでしまう人も、まだまだ多そうですね。
武内さん:孤独にならないためにも、誰かに話をすることは大切です。更年期ってすべての女性がなるわけではないので、同じ女性でもそのことを伝えなければ、ただサボっているように見えてしまうことも…。
だから悩んでいる人は、旦那さんや子どもたち、周りの人にそのことを伝えてください。すべての症状は理解されないかもしれませんが、シェアすることでさまざまなツラい症状も相手が「更年期のせいかもしれない」と理解しようとしてくれるように。周りも協力してくれるようになり、そうするとみんなで乗り越えることができると思います。
PROFILE 武内陶子さん
1965年愛媛県出身。1991年にアナウンサーとしてNHKに入社し、「NHKニュース おはよう日本」や「お元気ですか日本列島」、「スタジオパークからこんにちは」の司会を担当。2003年には「第54回紅白歌合戦」総合司会も務めた。2023年9月末に同社を退社し、現在はアナウンサーに留まらず幅広い場で活躍する。
取材・文/酒井明子 画像提供/武内陶子