気象キャスターの斉田季実治さんは、6年間、東京と熊本で家族別々の2拠点生活を送りました。夫婦で起業した理由、3人の息子の父としての生活について聞きました。(全3回中の3回)
夫婦で話し合い「東京と熊本の2拠点」生活に
── 斉田さんのSNSは、ご家族と仲良く過ごす写真も公開されています。ご結婚はいつごろされたのでしょうか?
斉田さん:妻とはNHK熊本放送局の気象キャスター時代、友人たちと開催した「雲の写真展」で出会いました。結婚して長男が生まれたころ、ちょうど私がNHK東京の気象キャスターオーディションに合格したんです。そのため、長男が小学校にあがるまでの6年間、私が東京、妻が熊本県の2拠点で生活していました。
── その状況だと家族全員で東京に移り住むのが一般的だと感じました。2拠点で暮らそうと決めたのはなぜですか?
斉田さん:妻も私も、「オーディションに受かったのはチャンスだから東京には行ったほうがいい」と同意見でした。とはいえ当時、妻は熊本県立大学の准教授で、都市計画やまちづくりの研究をしていました。
だから妻からの提案で、家族としてどんな未来を築いていきたいか「ファミリーキャリア」を考えてみたんです。ファミリーキャリアとは、夫婦の人生を単体でとらえるのではなく、家族単位でキャリアを考えることを言います。誰がいつ、どんな形で働くのか、どんな家族になりたいのかを収入面も含め、じっくり話し合いました。
そのときの私たちはお互いの仕事を尊重し、拠点をふたつ持ち、行き来することが自然だという結論になりました。もともと結婚前に、「10年後にどうありたいか」と、夢や希望をふたりで書き出したことがあったんです。
プライベートの面でも仕事面でも、一緒に将来のビジョンを共有し、それをどう実現していくかを話し合っていたのも大きかったです。
── 6年間離れて暮らす間、ご夫婦でどのようなコミュニケーションをとっていましたか?
斉田さん:私が1〜2週間に1度は熊本に戻り、家族で過ごすようにしていました。仕事の状況によっては夜寝ないで、早朝の飛行機に乗っていました。空港の駅まで電車で行くのですが、疲れて2回ほど寝過ごしたことがあります。
目が覚めたら電車が折り返していて、乗車駅よりもさらに空港から離れていたんです(笑)。会えないときもメールも含め、マメに連絡をとっていました。
夫婦でアポをとって「話し合う時間」をつくっている
── ご家族でのコミュニケーションを大切にされているのですね。現在は一緒に暮らしているそうですが、当時から変わらない習慣はありますか?
斉田さん:人って忙しいときに話しかけられても、話に集中できないですよね?だから夫婦で「話す時間は確保」するようにしています。
スマホでスケジュール管理のアプリを共有し、夫婦のスケジュールや子どもの行事を入れています。すると、お互いの空き時間がわかるので、夫婦間でアポを取り、それぞれが取り組んでいることや、今後何をしたいかなどを話し合っています。
妻はコーチングの資格も持っています。だから時間を設けて、私の希望を実現するために、どうしたらいいかディスカッションしてもらうこともあります。
たとえば「おかえりモネ」に関わっていたときは、本当に忙しかったんです。せっかくの週末も仕事のことがいつも頭の片隅にある状態でした。家族と一緒にいても上の空ということも。もっと家族の時間を大切にするにはどうしたらいいか相談しました。
── 奥様からコーチングを受けるとはとても興味深いです。そのときはどんな答えを見つけたのでしょうか?
斉田さん:当時は土日もメールチェックしていたんです。子どもと一緒にいても仕事に気を取られ、「お父ちゃん、ちゃんと遊んで」と怒られていました。だから、土日はメールを開かず、月曜日の午前中にそのための時間を確保しようという結論になりました。
妻と話をしていると、自分のやりたいことや目標が明確になってくるんです。結婚前、ふたりで「10年後どうしたいか」と話したときに考えた「全国の気象キャスターになる」とか、「本を出版する」といったことはすべて実現しています。いまの私があるのは妻のおかげですね。
2018年にはふたりで会社を立ち上げました。夫婦だと、いろいろなことが調整しやすいのがメリットです。私は昼過ぎからNHKに出社し、夜遅く帰宅する毎日です。だから、朝の家事や子どもの保育園の送りなどを担当しています。妻は夕食の準備をしてくれるなど、家事も分担しています。
私は気象や防災で、妻は人材育成と異なる仕事に携わっています。ジャンルは違っても、どちらも「未来をより良くする」方向性は同じです。ファミリーキャリアも、これからの社会で大切だと思うので、ゼミやセミナーを開催し、伝えていく活動もしています。
3人の子どもから「カレーライスは褒められます」
── 中学2年生、小学5年生、5歳の3人の息子さんがいらっしゃるそうですが、ふだんはどのように子育てに関わっていますか?
斉田さん:夜、どんなに遅くても、朝は一緒に起きて、前日の話を聞くようにしています。ただ息子たちは21時くらいには布団に行くので、私がテレビに出演しているのも観ていないようです。
中学2年生の長男は、周囲にも「テレビでお父さん見たよ」と話しかけられることがあるようです。すると、「お父ちゃんって、案外有名なんだね!」と言われます。3人とも天気についてはあまり興味がないようで、天気予報をテレビやスマホで確認することもなく、「家でお父ちゃんに聞いたほうが早い」と言われています。
子育ても夫婦で協力しています。家事や食事の支度も、手が空いているほうが担当しています。息子たちには「カレーライスはお父ちゃんのがおいしい」と、カレーづくりの腕を見込まれているようです(笑)。男の子が3人いると毎日バタバタですが、楽しく過ごしています。
PROFILE 斉田季実治さん
さいた きみはる。1975年生まれ。気象予報士、防災士、一級危機管理士、星空案内人、JLA認定ライフセーバー。株式会社ヒンメル・コンサルティング代表取締役。北海道大学在学中に気象予報士資格を取得。報道記者、民間の気象会社を経て2006年からNHKの気象キャスターに。現在はNHKニュースウオッチ9に出演。
取材・文/齋田多恵 写真提供/斉田季実治