NHK「ニュースウオッチ9」で気象キャスターを務める斉田季実治さん(48)。東京で気象キャスターになるまでには、知られざる紆余曲折の道のりがありました。(全3回中の1回)

 

高校時代からラガーマン!久しぶりにラガーシャツに袖を通した勇姿

親の転勤で各地を転々「天気って住む場所で違うんだ」

── 気象予報士を目指したきっかけを教えてください。

 

斉田さん:子どものころから父の転勤で全国各地を転々としていました。住む地域ごとに気候が異なるのがおもしろく、ずっと天気には興味を持っていたんです。たとえば、熊本県は夏だと蒸し暑くて大粒の雨が降り、秋田県の冬はとても雪深いです。どうしてこんなに違うんだろう、と子ども心に感じていました。

 

大学は北海道大学の水産学部に進学しました。暮らしたことがない地域だったし、水産学部はフィールドワークがあるのも魅力でした。机の前でずっと座って勉強するよりは、身体を動かすほうが好きなんです。

 

水産学部では乗船実習があるのですが、船のうえでは海が荒れると逃げ場がありません。そこで気象の重要性に気づきました。気象予報士という資格があるのを知り、在学中に資格を取得しました。

 

── 大学卒業後は、どんな進路を選んだのでしょうか?

 

斉田さん:大学を出て北海道文化放送(UHB)に入社し、最初は事業部に配属されました。イベント開催などの際、気象の知識を役立てられたと思います。その後、報道部に異動となりました。

 

気象予報士の資格を持っていたので、災害担当キャップなどを経験したんです。同時に、医療裁判のドキュメンタリーにも関わっていました。それがきっかけで医師になろうと思い、会社を退職し、受験勉強を始めたんです。

会社を辞めて受験勉強「夢だった医師を目指して」

── 医学部を受験するために会社を辞めたんですか!?なぜ、そこまで思いきった決断ができたのでしょうか?

 

斉田さん:もともと医師を目指していたんです。大学受験で、医学部を受けたかったのですが、残念ながらセンター試験の点数がたりず断念しました。

 

社会に出て組織のなかで働いていると、いろんな部署へ異動となります。さまざまな業務を経験できるメリットはあるものの、自分はもっと専門性のある仕事をしたいと感じました。そこで、改めて専門性があり、人のために働ける医師を目指そうと思ったんです。

 

退職後、福岡県の実家に戻って1年半勉強をして2度、医学部を受験したのですが、思うような結果は得られず…。29歳で貯金も底をついたので、医師になる夢はあきらめて再び働くことにしました。

 

── 働くと決めたとき、何を基準に仕事を決めたのでしょうか。

 

斉田さん:自分がどんなことで社会に貢献でき、人の役に立てるのかを考えてみたんです。北海道文化放送の報道部で働いていたときを振り返ると、台風や大雨のときに正確な情報を伝えることで命を救える場合もあると感じていました。私は気象予報士の資格もあります。これまでの経験や資格を活かせ、人の役に立てる職業は気象予報士だろうと思ったんです。

 

そこで、福岡県にある民間の気象会社に入社しました。気象キャスターとして情報を広く伝える仕事をしたいと考えて、気象解説や予測の経験を積みました。入社して1年半後、2006年10月からNHKの熊本放送に週に1回、金曜日に気象キャスターとして出演するように。その他に災害があると呼ばれたり、ラジオの仕事をしたりしていました。

 

気象や防災についての講演活動にも精力的に取り組む

そのころ、東京のNHKで気象キャスターのオーディションがあることを知ったんです。NHKに長く出演されていた気象キャスターの高田斉(ひとし)さんが退任されるため、後任を探しているとのことでした。おそらく男性を採用するだろうと考え、絶対オーディションを受けなければ、と感じたんです。

 

とはいえ、そのとき会社の方針として「東京には行かないでほしい」と言われたらそれまでです。だから、上司にプレゼンをして、オーディションを受けさせてもらうことにしました。

 

── どんなプレゼンをしたのですか?

 

斉田さん:当時、東京には気象予報士がたくさんいました。でも地方には、ほとんどいませんでした。地方でも気象予報士が求められているのに、人材不足だったんです。そのとき、私はすでに地方で気象キャスターを数年務めていました。

 

そんな私が東京に行けば、「地方でも気象予報士として働ける」と多くの人に知ってもらえると思いました。そうすれば、東京にいる気象予報士が「地方で経験を積もう」と考えるようになるかもしれません。現状を変えるきっかけになる可能性があると伝えると、上司も快諾してくれました。無事、オーディションに合格し、上京しました。

天気予報を毎日見てもらうためにしていること

── 全国放送のNHK「ニュースウオッチ9」で気象情報を伝えるのは、どんな気持ちでしょうか?

 

斉田さん:全国放送なので、各地域の気象について細かく伝えようと思えばいくらでも伝えられます。でも、決まった時間のなかで伝えられる情報は限りがあります。何を伝えるかは優先順位をつけるようにしています。

 

災害の可能性があれば、もちろん最優先として伝えます。現在は数日先の災害の危険性についても、ある程度お伝えできるようになってきました。毎日、天気予報を見ていると「近々、大雨が降るみたいだから気をつけよう」など、備えにつながるんです。だから、毎日見てもらうにはどうしたらいいかをつねに考えています。

 

── 具体的にどんな工夫されているのでしょうか?

 

斉田さん:より印象に残るよう、パッと見てわかりやすいようにもしています。たとえば、「今日はとても寒いけれど明日は急に暖かくなる」など天気の変化が大きい場合、行動や服装も変えないといけません。

 

だから、「いまは寒くてジャケットが必要ですが、明日からは薄着でもいいでしょう」と、実際にジャケットを脱いで半袖になってみるなど、ちょっとした動きを入れて印象に残るようにしています。もちろん、つねに奇抜なことをするわけではなく、基本的には丁寧な説明を心がけています。

 

NHKのスタジオで発雷確率を解説する斉田さん

SNSも活用し、台風が来るときは「我が家では風で吹き飛びそうなものは家の中に入れています」と画像をあげています。それを見て、「じゃあ、自分も同じようにしよう」と考えてくれる人がいるかもしれません。

 

朝起きたらまず、昨日予想したイメージ通りの空かを確認します。飛行機に乗るときも、空からは雲の様子を立体的にみることができるので、前日の資料と同じかをチェックして楽しんでいます。基本的にはずっと天気のことを考える毎日ですね。

 

PROFILE 斉田季実治さん

さいた きみはる。1975年生まれ。気象予報士、防災士、一級危機管理士、星空案内人、JLA認定ライフセーバー。株式会社ヒンメル・コンサルティング代表取締役。北海道大学在学中に気象予報士資格を取得。報道記者、民間の気象会社を経て2006年からNHKの気象キャスターに。現在はNHKニュースウオッチ9に出演。

 

取材・文/齋田多恵 写真提供/斉田季実治