52歳でサッカーの魅力に目覚めた歌手の小柳ルミ子さん。年間2000試合を観戦し、睡眠が3時間という日もあるそうです。(全4回中の1回)

メッシは一生かけて推します

── ルミ子さんといえば、筋金入りのサッカーファンとして知られています。そもそもサッカーにはまったきっかけは、なんだったのでしょうか?

 

小柳さん:もともとスポーツは全般的に好きで、いろんなジャンルを観戦してきました。そのなかで、サッカーにどっぷりとはまったきっかけは、なんといっても、アルゼンチン代表、リオネル・メッシ選手の存在です!

 

忘れもしない19年前、私が52歳の頃。「物凄い17歳のフットボーラーが出てきた」とみんなが注目をしていて、私も「いったいどんな子だろう」と興味がありました。そして、初めて彼のプレーを見た瞬間、その華麗なドリブルに心を奪われてしまったんですね。

 

初めはプレーに魅了され、夢中で試合を見ていたのですが、だんだん彼自身にも興味が湧いて、その「人となり」が知りたくなり、本を読んだり、ビデオを見たり…。

 

調べるうちに、彼が先天性の成長ホルモンの分泌異常で身長が伸びないという難病を克服し、プロになったと知りました。そんなハンデを乗り越え、あんなに素晴らしいプレーを見せてくれる。さらに、難病の人々の支援活動にも熱心だと知り、その人間性にますます惹かれていきましたね。メッシのこれまでの試合は、すべて見ています。一生かけて推すつもりです。

 

バルサのユニフォームの背中に「RUMIKO」の文字!試合を観戦するルミ子さん

── その生い立ちや人間性も、ルミ子さんを魅了する大きな要因だったのですね。

 

小柳さん:皆さんご存じの通り、彼は唯一無二のドリブラーです。でも、シュートがうまかったり、足が速いなど、素晴らしいスキルを持った選手は、ほかにもたくさんいますよね。ですが、メッシは、世界一のフットボーラーで、あれほどのスーパースターなのに、気取ったり、おごりたかぶることなく、ナチュラルで心優しく、慈愛に満ちていて…。人間として、すごく尊敬しています。いくらテクニックが素晴らしくても、やっぱり人間性や人柄が良くないとリスペクトできないし、応援しようという気になりません。

 

── ルミ子さんの考える「サッカーの魅力」は、なんでしょうか?

 

小柳さん:私がよく言っているのは、ピッチの上で行なわれていることは、「社会の縮図」「人生の縮図」「対人関係の縮図」だということです。サッカーはチームプレーですから、やっぱり人に信頼されないと、パスも回ってこないし、自分だけがよければいいという人は愛されません。サッカーには、対人関係だったり、社会の中で生きていくための大切なスキルなど、すべてが詰まっているんです。そういう見方でサッカーを見るうちに、ますますはまっていきましたね。

 

ふるさと福岡の「アビスパ福岡」が ルヴァン・カップに優勝した瞬間にも立ち会って

感動を分析することが自分の糧になる

── 年間2000試合を観戦し、分析したことをすべてノートにまとめていらっしゃるとか。深い洞察力から繰り出されるサッカー分析も、しばしば話題になります。ブログには、ただ褒めるだけでなく、手厳しい苦言も。

 

小柳さん:私ね、分析魔なんですよ。何事も、「よかった」「素敵だった」だけでは、思考が止まってしまうし、そこから深まらない。どこがどうよかったのか、失敗をどう生かせばいいのか、いろんなことを考えながら、ノートに思いを箇条書きして分析します。

 

仕事もそうですよね。よかったことや反省点など、分析をして自分に落とし込むことで成長できるし、糧になる。昔からそれが習慣になっているんです。自己分析できない人は成長しないと思います。

 

2014年のワールドカップの頃から、サッカースケジュールを作り、サッカーに関することをブログに書き始めました。そしたら、なんだか皆さん興味をもってくださって。しかも、「サッカーに関する本を出しませんか?」とお声がかかって、ビックリしました。大好きな趣味がこんな素敵な形になるなんて、すごく光栄です。

 

私自身、サッカーを通して学ぶべきことがいっぱいありますし、実は、共感する部分も多いんです。

 

元スペイン代表・イニエスタからもらった直筆サイン入りスパイクは宝物

── 例えばどんなことでしょう?

 

小柳さん:サッカー選手にとってピッチの上が舞台であるように、私たち歌手もステージでパフォーマンスをすることが仕事です。ひとたびステージに上がったら、何があっても言い訳はできないし、観客の見えないところで血のにじむような努力をして、苦労を乗り越える。

 

サッカー選手にとってプレーがそうであるように、私たち歌手も、ステージや歌を通して、生きざまや人となりが見えるから、表面的に取り繕ってもダメなんです。ごまかしは効きません。

 

それに、私もずっと激しいダンスをしてきたので、アスリートの大変さも少しはわかるつもりです。これまで、肩甲骨や足の指、右の脇腹など、いろんな箇所を骨折したりと、5回くらい大けがをしていますし、肉離れの経験もあります。ですから、リハビリの大変さや復帰への不安、孤独な気持ちも理解できるんですね。

 

リスペクトを込めて選手を見守る

── ご自身の姿と重なりますね。

 

小柳さん:そういう部分も大きいですね。だからこそ、大怪我をした選手がリハビリを乗り越えてピッチに戻ってきた時には、毎回、胸が熱くなりますし、惜しみない拍手を送っています。いつもサッカーの試合を見る時は、「今日はどんな素晴らしい感動に出会えるだろう」というワクワク感と、「ここから何かを吸収しよう」という学びの気持ちがありますね。

睡眠3時間でもライブ視聴

── ただ、サッカー観戦に夢中になるあまり、睡眠3時間というのは、さすがに健康状態が心配になってしまいます(笑)。

 

小柳さん:自分でも「私の体、どうなっちゃっているんだろう…」と思うぐらい(笑)。でも、やっぱり、サッカーを観ている時間は、私にとって最高に楽しいものだから、全然苦じゃないんです。逆に、これを観ずして寝るなんてもったいない!という気持ち。「録画して観たらどう?」と言われることもありますが、それだと気持ちの入り方が違うんですよね。

 

サッカーのライブ中継は一覧にしてチェック

── そうなのですね。ライブ感…でしょうか?

 

小柳さん:そうです!やっぱり試合はリアルタイムで見てライブ感を味わいたい。サッカー通を名乗っているからには、後からニュースでダイジェクトを見るなんて、邪道なんです。私にとっては、90分間すべてが見どころですから。

 

── 「すべてが見どころ」というのは、どうしてでしょう?

 

小柳さん:例えば、このゴールが生まれる前に、誰が体を張ってボールを奪取したかとか、素晴らしいパスを出した選手のおかげでゴールに繋がっていたり、ゴールに至るまでの過程でいろんなドラマがあるんです。そうした感動の場面を生み出す人の関わり方も全部見たいじゃないですか!サッカーはまさしく「筋書きのないドラマ」なんです。

 

特に今は、カメラの台数も多いので、ピッチ全体の様子から、足元のアップ、選手の表情まで、ばっちり映し出されます。注意深く観察していくと、モチベーションの状態やメンタルの変化も見えてくるし、相手に対する振る舞い方で、その人となりや性格も分かります。そうなると、90分間の試合があっという間。だから、気づくといつも明け方になっちゃう。

 

── 五感をフル活用してサッカーを観ていらっしゃるのですね。もはや監督のよう。ルミ子さん率いるチームが見てみたい気すらします(笑)。

 

小柳さん:いろんなことに思いを巡らせながら見ているので、脳も活性化するし、ボケ防止になっているかもしれない(笑)。

 

52歳で出会ったサッカーが世界を広げてくれた

── ルミ子さんの若さの秘訣は、ここにあったのですね。

 

小柳さん:サッカーと出会って、私の世界は本当に広がりました。これまでと違った交友関係が広がって、サッカー友達の「サカ友」もたくさんできたんですよ。それに若い方のファンがたくさん増えました! 

 

スタジアムに行くと、小学生の男の子が、「握手してください!」と近づいてくるんです。「ありがとうね。君もサッカーやってるの?ポジションはどこ?」「ミッドフィルダーです」「そう、頑張って!」なんて会話が生まれたり。その子たちに、「おばさんのこと、誰だか知ってる?」と聞いたら、サッカーをきっかけに知ってくれたと言うんです。サッカーに出会わなかったら、生まれなかった縁ですよね。人生、どこでどうなるか分からない。だからこそ、面白いなあと思います。

 

PROFILE 小柳ルミ子さん

1952年、福岡県出身。1970年に宝塚音楽学校を首席で卒業後、NHK連続テレビ小説『虹』で女優デビュー。翌年、「わたしの城下町」で歌手デビュー。160万枚を超す大ヒットとなり、日本レコード大賞最優秀新人賞を受賞。その他、「瀬戸の花嫁」「お久しぶりね」など数々のヒット曲を持つ。女優としても、数々の賞を受賞。サッカーファン歴は19年。年間2000試合を鑑賞。

 

取材・文/西尾英子 画像提供/小柳ルミ子