昭和のガーリー文化を独自の目線で発信している「昭和的ガーリー文化研究所」所長・ゆかしなもんさん。SNSや著書でそんな懐かしのアイテムを紹介すると「私も持ってました!」「懐かしい!今、思い出しました」と同じ時代を過ごした同世代の方からたくさんの反響があるそう。大人になった今でも、一気に少女だったあの頃のときめきを思い出させてくれる80年代のものについて、お話を伺いました。
80年代の文房具はユーモアに富んだデザインが満載
── ゆかしなもんさんは昭和50年生まれ。80年代に小学生だった世代かと思います。私も同世代なのですが、当時は文具などを扱うファンシーショップが小学生女子のトレンドの発信基地のような役割をはたしていて、かわいい文具を集めたりするのが楽しみでした。
ゆかしなもんさん:当時の文房具って、書くとか消すとかの基本機能に加え、本質的には必要のないギミックがあったり、デザインがムダに凝っていたり、ゲーム的要素があったりしました。たとえば消しゴムの裏側に謎の占いがついているとか(笑)。80年代の文具には、そんなムダな要素が愛おしいといった感じがありましたよね。
──たしかに、カンペンケースひとつにしてもユーモアに富んだいろいろな仕掛けがありました。よく企画が通ったなというデザインも多々ありましたよね。
ゆかしなもんさん:当時は遊び心で「とりあえず売ってみよう、やってみよう!」という風潮があったらしく、メーカーさんもノリがいい時代だったようです。「会議を通さないと」とか、「採算がとれないと」とか、そういうことをあまり気にしないでつくれた時代というのも80年代ならでは。元気の出る色づかいやデザインから、景気のいい時代を象徴しているような活気が感じられるのも魅力ですね。
── ゆかしなもんさんのコレクションを拝見して「こんなのあったなー!」って思ったのが「いっけん英語風だけど、よく見ると日本語」とか、「パロディもの」デザイン。最近にはない斬新なものでしたね。
ゆかしなもんさん:英語の長文をよく読むと「日本語じゃん!」ってデザインありましたよね(笑)。「YATTA NE!」とか、ローマ字だからこそクスっと笑える文章になっているっていう。あれをガチで英語で書いちゃうとただカッコいいだけのデザインになっちゃうところが絶妙なんですよ。
あと今ではありえませんが「パロディもの」も多かった。チェックの服を着た男の子たちや、ローラースケートを履いた7人組とか、見る人が見ればわかるかなっていうデザインのキャラクターがいたり(笑)。当時だからこそできたのかなと今となっては貴重なものですね。
恋愛も勉強も友達づき合いも「占い」と「おまじない」で解決
── 当時の少女たちが夢中になったものに「占い」と「おまじない」がありましたね。
ゆかしなもんさん:ありましたね。好きな子の名前を書いて絆創膏を貼って1週間過ごして消えてなければ成就するとか、誰もが一度はやったことがあるおまじないなども流行りました。なかにはわけの分からない変なおまじないもありましたが、みんな真剣で(笑)。おまじないや占いといえば、『My Birthday』という雑誌の存在なしには語れません。
当時少女向けのというのも革新的で、毎日の星占いを提唱したのも先駆けでした。私も愛読していて、占いに左右される小学校生活でした(笑)。おまじないは全国の少女たちが考えて投稿し、それが雑誌に載り全国に広まるというスゴイシステム。SNSのない時代なのに、インフルエンス力がすごかった。今読み返してもその熱量には驚きますね。
── 確かに、読者が流行のようなものを作っていましたね。私の周りでも雑誌を読んで「ラピスラズリという石がスゴイ!」と、何のエビデンスもなくみんなこぞって持っていたのを思い出しました(笑)。現在のSNSのように、少女たちは雑誌を通して居住地以外の広い世界とつながっていた時代かもしれませんね。
ゆかしなもんさん:ラピス、みんな無敵だと思っていましたよね(笑)。当時、読者間のペンフレンドも住所記載で募集していた時代ですから。違う県にお友達をつくりたいとか純粋にそういう思いを雑誌がかなえてくれたりして、いい時代でしたね。
「少女時代に夢中になった思い出」を共有できることはすごい
── インターネットのない時代。たしかにテレビやラジオ、雑誌や本から得る情報がすべてでしたし、学校で学べないことや都会の流行など知る術はそこでしたね。
ゆかしなもんさん:私は雑誌もたくさん読んでいましたが、少女向けの実用書や入門書とかも好きで読み漁ってました。手芸とか、インテリアとか、クッキングとか。イラストも有名な漫画家さんや人気のイラストレーターさんが描いていらしたりして豪華で。当時ポプリに憧れて、書いてある通りにつくるのにいつも失敗ばかりだったんですよ。センスがなくて。そんな当時の話をX(旧Twitter)で呟いたら「私もですー!」という人が多くてびっくり。育った場所は違えど、時を経て分かち合う不器用な女の子チームで盛り上がったことがありました。
当時クラスメイトのなかには器用な子もいて、めちゃくちゃすごいフェルト小物や、編み物を作ってくる子がいたんですよね。女子力の差を痛感する時代でもありました(笑)。それを経験して、悲しいかな、自分の得手不得手を知る機会になったかもしれません。
そういう意味では漫画家入門とか、さまざまな入門書を容易にいっぱい買ってチャレンジするわけですけど、まあひどい(笑)。さまざまな夢にトライできる門戸の広いシリーズは、当時の女子の興味関心を網羅していていろんな可能性を広げてくれましたし、ある意味、向き不向きを早いうちに判断できる手段になってくれましたね。
── 入門書って確かに小学生時代に読むものとして意義深い存在ですね(笑)。
ゆかしなもんさん:おしゃれ入門やエチケット入門だって、小学生の日常で習う場所もないし、誰も教えてくれませんからね(笑)。男の子の家に電話するときの作法やプレゼントの選び方とか、そういうのも全部本や雑誌から教わるという時代でしたね。
PROFILE ゆかしなもんさん
昭和50年生まれ。2010年にスタートしたブログ「昭和的ガーリー文化研究所」では、所長として70’s、80’sの文房具、おもちゃ、アイドル、漫画などなど、自身が集めたお気に入りのコレクションを中心に紹介し懐古してきた。独自の目線で展開する豊富な知識とコレクションは多くの同世代をはじめ、近年のレトロブームに関心を寄せる若者たちから注目を集めている。現在は、SNSなどを通じて昭和ガーリーカルチャーの魅力を発信しながらイベントの監修を手掛けるなど、さまざまな場面で活躍中。著書に「'80Sガーリーデザインコレクション」、「'80Sガーリー雑誌広告コレクション」、「'80S少女漫画ふろくコレクション」、最新刊「ゆかしなもんの'80sガーリーカルチャーガイド」(すべてグラフィック社)。
取材・文/加藤文惠 画像提供/ゆかしなもん
※写真はすべて著者の私物のスナップ画像です。現在は入手困難です。