昨年春に現役を引退したスピードスケート女子の五輪金メダリスト・高木菜那さん。現在はラジオやテレビへの出演、講演会登壇などをしながら大学院で学んでいます。学び直しを決めた理由を聞きました。(全5回中の2回)

「北京五輪での感想」がスポーツ心理を学ぶ動機に

── 今春、インスタグラムにて大学院に進学したことを報告されました。大学院での学び直しを決めた理由を教えてください。

 

高木さん:スポーツが好きで、信念を持ってスケートに臨んできたという自信はあるのですが、それを説得力のある言葉で人に伝えていくためには、いろんなことをしっかり学んだうえで話したほうが、私の言葉がもっともっと届くのかなって思ったんです。

 

大学院で知らないことを学んだり、知っていることをさらに深掘りできたらなと。いまはスポーツや心の部分について勉強しています。

 

── 現役時代からスポーツ心理について理解を深めたいという思いがあったのでしょうか?

 

高木さん:北京五輪のシーズンを通して、心っていうのは無限じゃないし、どんなに強いと思っている人でも限界があるのだと感じたんです。心が動かないと行動にも移せないし、心が疲れちゃうと身体も元気にはなりません。スポーツではよく「心技体」といいますが、叶えたいと思える夢があるからこそ体が動いて、努力ができて、技術や体力を鍛えることにつながるのかなと思っています。でも、心が疲れちゃうと回復するまでに時間がかかってしまうので、なるべくそこに到達しないためにはどんなふうに心を保っていけばいいのかなと。

 

あと、日本人ってすごく自己肯定感が低いと思っていて。私自身もそんなに高いほうではなかったですし、「人と比べる」とか「人のマネをする」ことにとらわれず、もっと自分自身の心に目を向けてあげることができたら、自分のやりたいことや生きていきたい道が見えてくるんじゃないかなって思っています。

 

なかなか難しいものではあるのですが、スポーツと心の関係性について学ぶのは、すごく面白いです。

 

大学院でスポーツ心理を学んでいる高木さん

いろんなことを自分の言葉で届けたい

── 大学院の雰囲気はいかがですか?

 

高木さん:大学院には今まで会ったことのない職種の方も多くいます。たとえば大会やイベント運営などスポーツ自体を支えている人や、スポーツに関係ないコンサル業の人も。年齢層も20代から50代まで幅広くて、どちらかと言えば私より年上の方が多いですね。いろんなキャリアを持っている人とお話しできる機会はこれまでなかったので、自分じゃ考えつかないような意見を聞くこともできてとても勉強になっています。

 

私もこれからは競技者としてではなく、また別の立場でスポーツに関わっていきたいと思っているので、いろんな方面からスポーツに関わっている方たちと繋がっていけるのはありがたいですね。

 

── 現在はラジオや講演などでご自身の現役時代のさまざまな体験について語っています。大学院での学びは、そうした活動に役立ちそうですね。もともと話す仕事に興味はあったのでしょうか。

 

高木さん:興味があった、というより得意なんです(笑)。話すのが好きなんですよね。言葉で自分ができているなって思うこともすごく多いので、いろんなことを私の言葉で届けていけたらなと思っています。

 

2023年4月、ニュース番組にレギュラー出演

私生活で頑張りたいことはゴルフと料理

── 大学院でスポーツ心理を学び、異業種交流も糧にしている菜那さんの今後のご活躍が楽しみです。ちなみに私生活での目標はいかがですか?

 

高木さん:私生活ではゴルフと、もうちょっと料理を頑張りたいかな〜って。ひとりだとなかなか作るタイミングがないんですよね。あとは休日に、漫画を読んだりアニメを観たりして過ごしちゃうので、もっと外に出ていこうと思っています。

 

── 意外とインドア派なのですね!

 

高木さん:スケートをやっているときはアウトドアだったのですが、いまは仕事でいろんな人たちと会うぶん、休みの日は家にこもりたくなっちゃうんです。もう少し東京の街を楽しみたいですね。

 

PROFILE 高木菜那さん

1992年生まれ、北海道幕別町出身。7歳から兄の影響でスピードスケートを始めた。高校卒業後は実業団チームに所属、14年ソチ五輪で日本代表に初選出された。18年平昌五輪では、女子団体パシュートで妹・美帆らとオリンピックレコードを記録、新採用のマススタートと合わせて、日本女子史上初の五輪同一大会での2冠に輝いた。22年北京五輪では女子団体パシュートで銀メダルを獲得。同年4月に現役引退。現在はテレビやラジオに出演するほか、各地の講演会に登壇するなど多方面で活躍している。

 

取材・文/荘司結有 画像提供/高木菜那