アルバイトをする主婦が扶養内でいられるか否かを左右する「130万円の壁」。「その数字だけを気にしていると、結果的に損する人もいます」と話す、ファイナンシャルプランナーの塚越菜々子さんに、意外な盲点について聞きました。
誤解している人が多いかも?130万円の壁の注意点
収入が一定額を超えると、配偶者の扶養から外れる「年収の壁」のひとつが130万円の壁です。扶養といっても「税金の扶養」と「社会保険の扶養」があり、130万円の壁は後者。壁を超えた配偶者は扶養ではいられないので、社会保険料の負担増となり、結果的に“手取りが減る”ことも想定されます。
そのため、年収130万円を超えない働き方を意識している人は多いはずです。けれど、扶養のルールはややこしく、「130万円の壁」を誤解していることも。扶養から外れてしまう4つのケースを紹介します。
月収が「3か月連続」で約11万円を超えたらアウト
社会保険に関係する130万円の壁は、その年の1〜12月のトータルの収入が130万円以内に収まればいいというわけではありません。月換算での収入ベースは10万8334円ですが、この基準を「3か月連続でオーバー」したら、年収が130万円を超える見込みがあると判断され、扶養から外れるのが通例です。
これは一律の決まりではなく、協会けんぽや組合健保など健康保険が属する保険者ごとで異なります。健康保険のルールはその保険者ごとに設定されているからです。先の3か月連続オーバーをルールとするところは多いものの、1年の中で毎月10万8334円以下とするところなどもあるため、確認が必要になります。
確認はパートナーを通じて会社に聞いてもらうか、組合健保や協会けんぽなどのHPを見て直接問い合わせればいいでしょう。
130万円には「交通費」も含まれる
自宅と職場の往復にかかる交通費は「130万円の枠」から除外しがちですが、交通費も含んで計算するのが正しいです。たとえば、月収が10万円で交通費に1万円かかっていれば、合計で月11万円となり、月収基準の10万8334円未満をオーバーしてしまいます。
ダブルワークの収入は合算扱いになる
2つの仕事を掛け持ちし、A社で年70万円、B社で年80万円の収入を得た場合、「どちらも130万円以内だから、扶養の範囲以内」という解釈は成り立ちません。
130万円の壁では、ダブルワークの収入は合算の扱いです。したがって、前述のケースは合算すると150万円となり、130万円の壁を超えてしまうことになるのです。
「配偶者の年収の半分」を超えた時点で扶養外へ
あまり知られていないルールですが、自身の収入が130万円未満でも、配偶者の年収の半分を超えたら扶養から外れることを余儀なくされます。
たとえば、配偶者の年収が230万円で自身の収入が120万円だった場合、配偶者の年収の半分(115万円)を超えているため、扶養の範囲を超えてしまうわけです。
月に約9万円の収入でもアウトな「106万円の壁」
2022年10月、社会保険に関係する壁が拡大しました。「106万円の壁」です。これまでは130万円の壁だけを意識していればよかったですが、そうはいかなくなりました。
106万円の壁では、一定の条件を満たして収入が106万円を超えた場合、勤務先の社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が義務づけられました。該当の条件は以下5つ。
- 月額賃金を8万8000円以上もらっている
- 週に20時間以上働いている
- 勤務する会社の従業員数が101人以上(2024年10月からは従業員数が51人以上)
- 雇用期間は2か月以上
- 学生ではない
5つすべてに該当するケースでは、自身の収入が130万円未満でも配偶者の扶養から外れ、社会保険料の負担増となります。
106万円の壁といっても数字自体には意味はありません。月額賃金8万8000円以上、週の労働時間は20時間以上など、勤務先と5つの条件を満たす契約になっているかどうかが社会保険の適用か否かを左右します。
病気などの保障や年金が手厚くなるメリットも
多くの人は130万円の壁を超えるのをためらいがちです。手取りが減るなどのマイナスイメージが強いからだと思いますが、プラスの面にも目を向けるべきでしょう。
130万円の壁を超えた場合、自身で社会保険に加入しなければなりません。この社会保険は「国民健康保険・国民年金保険」と、「健康保険・厚生年金保険」にわかれます。
パートやアルバイトが勤務先の健康保険・厚生年金保険に加入するには、「『1週間の所定労働時間』および『1か月の所定労働日数』が正社員の4分の3以上」という条件をクリアする必要があります。
国民健康保険・国民年金保険の保険料は全額自己負担ですが、健康保険・厚生年金保険の保険料は勤務先にも負担してもらえます。しかも、健康保険なら傷病手当金の制度を使えて、病気やケガで仕事を休んでも給料の約3分の2にあたる給付金が最大で1年半支給されます。厚生年金なら将来の年金はもちろん、遺族年金や障害年金も手厚くなります。
つまり、社会保険料を支払ったとしても、健康保険・厚生年金保険であれば相応の金銭的な保障を得られるわけです。106万円の壁が適用される方の場合、その恩恵を受けられるハードルは下がります。
「働き損」のボーダーラインを知る方法とは
一方、手取りが減る心配については、「働き損」となるボーダーラインを事前に把握しておけば回避できます。下で紹介するのは、年収129万円の扶養内のケースと、130万円の壁を超えて国民健康保険・国民年金保険に加入した2つのケースです。
※社会保険料は協会けんぽ神奈川県で算出。社会保険料は年収ではなく標準報酬月額、税金は年末調整の還付などは対象外。国民健康保険料は神奈川県横浜市で算出(以下同)。
年収129万円の扶養内の手取りは124万円。基準となるこの金額に対して、130万円の壁をわずかに超えた総支給額131万円の手取りは100万円で、24万円マイナスに。いわゆる“働き損”の状態です。このケースでいえば、基準の手取り額を超えるには総支給額164万円まで増やす必要があり、その場合で3260円のプラスとなります。
このケースは国民健康保険・国民年金保険への加入のため、社会保険料の負担が重いわりに、保障は手薄なのがわかります。130万円の壁を超えたからといって、健康保険・厚生年金保険に加入できるわけではないのです。
保険を払っても得するボーダーは150万円代?
次に紹介するのは、130万円の壁内ながら106万円の壁の条件をクリアして年収129万円で「健康保険・厚生年金保険」に加入したケースと、130万円の壁を大きく超えて年収153万円で「健康保険・厚生年金保険」に加入したケースです。
年収129万円で扶養を外れ、勤務先の健康保険・厚生年金保険に加入した場合の手取りは107万円代。年収129万円の扶養内の基準手取りより約17万円マイナスになるものの、「国民健康保険・国民年金保険」よりも保障は手厚くなります。年収153万円になると基準の手取り額を超えて8944円のプラスに。加えて、手厚い保障がつきます。
以上のシミュレーションを踏まえると、130万円の壁を超えるかどうかは、勤務先の「健康保険・厚生年金保険」に加入できるか否かが第一の判断基準です。加入できるのであれば、年収150万円以上など壁を大きく超えたほうが働き損とならなくてすむでしょう。
PROFILE 塚越菜々子さん
ファイナンシャルプランナー。10年超の税理士事務所勤務を経て独立。主に共働き世帯の女性を中心に年間200件以上の家計相談を行う。YouTubeでも女性に役立つマネー情報を幅広く発信している。
取材・文/百瀬康司