カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(以下、CCC)を退職して主夫業に専念していたが、3年後に復帰して社長に就任。「仕事人間だった」と話す、高橋誉則さんの主夫業時代と家族の変化を聞きました。(全3回中の2回)

 

「今では料理の腕前も上達しました」仕事人間だった高橋誉則さんが作ったメニューを公開

仕事と娘のケアの両立は難しく「家庭に入ろう」と

── 2018年から3年間、すべての業務から離れ、主夫として生活されたそうですね。どのような経緯があったのでしょうか?

 

高橋さん:僕は働くのが大好きで、結婚してからもずっと仕事中心の生活を送っていました。ふたりの子どもに恵まれ、現在、中2の長男、小4でダウン症の長女がいます。

 

長女が生まれたとき、僕たち夫婦はダウン症に関する知識もほとんどなく、わからないことだらけでした。情報を集めながら育児をしていたのですが、障がい児を育てるのは、保護者に大きな負担がかかりました。

 

── 具体的に、どんな部分に負担がかかるのでしょうか?

 

高橋さん:長女には知的障がい、発達障がい、弱視、難聴などがあります。これらをケアするため、それぞれの医療機関へ定期的な通院が必要でした。症状により、かかりつけの病院も異なります。

 

また、ダウン症の子は体幹が弱いことが多く、日常生活の動作で困らないよう、リハビリにも通います。そのため、各病院、保育園、リハビリなどへの送迎がほぼ毎日のようにありました。それぞれが別の機関なので、別々の手続きがあり、煩雑でもあります。

 

わが家は共働きなので、夫婦間で時間を調整するなど折り合いをつけていました。でも、だんだん限界がきて…。当時、僕は会社で役員をしていました。朝8時ころから会議が開かれる場合もあり、子どもの送迎ができないときも。コロナ前だったから、リモートも一般的ではない状況です。仕事と子どもの世話を両立するのが難しくなっていき、僕が仕事を辞めて、専業主夫になろうと決めました。

 

専業主夫時代は子どもたちと過ごす時間もたっぷりあった

── 高橋さんが仕事を辞めて、家庭に入ろうと思ったのはなぜでしょうか?

 

高橋さん:仕事を続けると、どうしてもそちらに意識が向いてしまうと自分でわかっていたからです。中途半端になるのは嫌だったので、仕事を辞めて家庭に入ろうと決めました。妻に「主夫になろうと思っている」と伝えたところ、「いいと思う」と賛成してくれました。

 

妻からすると、僕は家事や育児にそこまで積極的ではなかったと感じていたと思います。だから「一度きちんと主夫を経験してみたら?」と、前向きにとらえてくれました。妻も働いていましたが、僕が無収入になるので、経済的に成り立つかはしっかり話し合いました。

 

── たしかに収入面は心配ですね。

 

高橋さん:当時、僕は会社の役員をしていましたが、委任契約役員だったんです。雇用契約を結んでいたわけではないので、役員を降りた瞬間、僕はまったくの無職です。

 

当時の代表取締役社長だった増田宗昭さんに相談すると、「じゃあ、ゆるくつながっておこう」という軽い感じで顧問契約をしてくれました。おかげで年に1、2回、単発の仕事はいただけることになりました。とはいえ、基本的には無収入で、会社の経営にも関与もしないことに。

最初は家事も子育てもバタバタ。「3年で学んだこと」

── 高橋さん自身は、主夫としてどんな生活を送るかイメージできていましたか?

 

高橋さん:まったく想像できなかったです。周囲も僕が仕事人間なのを知っていたので、「大丈夫?」という反応でした。

 

主夫になって最初のうちは、何がなんだかわからなくて、家事も子育てもバタバタでした。でも、さすがに毎日やっていくなかで、いろいろできるようになります。たとえば料理でいえば、いまではレシピを見れば、和食もイタリアンもだいたいのものが作れます。お弁当も作るし、「夕食はラーメンとチャーハンと餃子が食べたい」と子どもに言われたら、リクエストに応えられる腕前になりました。

 

── 実際に高橋さんが主夫になり、ご家族に影響はありましたか?

 

高橋さん:もともとは長女のために家庭に入りました。でも、予想していなかった副産物として、長男と一緒にいられる時間ができてよかったと思います。

 

思春期を迎えつつあった長男と一緒に過ごした時間は貴重だったと話す高橋さん

これまで、長女に手がかかったので、長男と接する時間は少なくなりがちでした。しかし、主夫になったことで長男と一緒にいる時間が増え、彼にとってもいい影響があったんじゃないかと思います。

 

妻も僕が家にいるなら、いましかできないことをしようと大学院に通いました。インクルーシブな社会をつくり、障がい者の人とともに生きていけるかをテーマに学んでいました。家族全員にとっていい転機になったのではないかと思います。

 

── 3年で復職したそうですが、もともと考えていたことでしょうか?

 

高橋さん:当初は職場復帰のタイミングについて、とくに考えていませんでした。でも、長女も小学生になり、成長して医療機関に通う件数や頻度もだいぶ減りました。それに、通う小学校や学童保育でもインクルーシブ教育が比較的浸透していて、健常者と障がい者が一緒に過ごせる環境だったんです。

 

長女に合った場所で過ごせるようになり、僕も日中は時間が空くようになり、2021年4月、増田さんに相談して会社に復職することになりました。

 

── 主夫を経験して学んだこと、感じたことはありますか?

 

高橋さん:共働きだったり、お子さんがいたりする家庭だと、どうしても女性の負担が大きくなりがちです。それは、社会としても、企業としても変えていくべき課題だと思いました。

 

男性も思いきって、家庭に専念する時期があってもいいのではないかと思います。もちろん、仕事や家庭の状況によっては、簡単にはいかないことかもしれません。でも、男性が家庭に入ることで、男女がお互いの立場をより理解でき、協力し合えるのではないかと感じています。

 

PROFILE 高橋誉則さん

1997年にCCC新卒入社後、FC事業本部で人事リーダー職を経て、2006年に株式会社CCCキャスティング代表取締役社長に就任。2023年4月よりCCC代表取締役社長兼COO兼CHRO。

 

取材・文/齋田多恵 写真提供/カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社