TSUTAYAやTポイントなどを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(以下、CCC)。今年、代表取締役社長が創業者の増田宗昭さんから高橋誉則さんに24年ぶりにバトンタッチ。その内幕を新社長に聞きました。(全3回中の1回)
代表取締役社長へ志願「プレッシャーより早い変革を」
── TSUTAYAやTポイントで有名なカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(以下、CCC)ですが、2023年4月、創業者で名経営者としても知られる増田宗昭さん(現代表取締役会長 兼 CEO)から高橋誉則さんへと、24年ぶりに代表取締役社長が交代されましたが、どんなお気持ちでしょうか?
高橋さん:よく「増田前代表取締役社長から交代し、プレッシャーではないですか?」と質問されるのですが、僕自身はそれほど気負いがないんです。自分の取り組むべきことが明確なため、周囲からどう見られているかについては気になりません。
時代の変化が大きく、CCCの主軸であるTSUTAYAもTポイントもいまは大変な時期です。これらに対して、スピード感のある変革を実現させるのが、僕の役割だと思っています。だから、みずから手をあげて、増田さんに「社長をやります」と伝えたんです。
── もともと増田前代表取締役とはどんな関係だったのですか?
高橋さん:僕は1997年、会社ができて13年目に新卒入社しています。入社後、TSUTAYAの店舗でスーパーバイザーとして働いていたので、増田社長とは直接会ったこともありませんでしたが、入社6年目に希望して人事部に異動したんです。そのとき、増田さんに「現場について知りたい」と言われ、一緒に仕事をするようになりました。
── 現場で働いていたときは、具体的にどんな仕事をしていたかを教えてください。
高橋さん:TSUTAYAとフランチャイズ契約されたオーナーさんに経営指導をする仕事をしていました。オーナーさんは皆、TSUTAYAの事業で生活している方ばかり。利益が出なかったら死活問題です。僕が担当していたオーナーさんがご病気で亡くなったこともあり、あとを継いだオーナーの息子さんをサポートして店舗を運営したこともあります。
オーナーさんの利益を優先するため、本部のルールを守らないこともありました。あんまり品行方正な社員ではなかったかもしれません。たとえば、レンタルビデオなどを並べる什器は、オーナーさんにはTSUTAYA本部から購入する契約を結んでもらっていました。でも、オーナーさんからすると、できるだけ安く手に入れたいわけです。だから、「閉店した別の店舗の什器を使わせてほしい」と頼まれたこともありました。
そこで会社には内緒で、先輩と一緒にトラックをレンタルしました。真夜中に閉店した店舗で什器をばらしてトラックに詰めこみ、使用したいという店舗に持っていき、自分たちで組み立てたこともあります。
でも、このとき、現場で加盟店さんやお客様の声を直接聞いていたことが、僕にとって大きな財産となりました。「本部が儲けるのではなく、関わる人全員でパートナーシップを組み、みんなが利益を得るにはどうしたらいいか」を、つねに考えるようになりました。
2人でともに「100店舗を視察」して見えてきたもの
── 入社6年目で人事部に異動を希望されたとのことですが、理由はあったのでしょうか?
高橋さん:入社時から、人に関わる仕事がしたかったからです。このとき、ちょうど増田さんも人事部に現場経験のある人間を求めていました。というのも、当時TSUTAYAは1000店舗近くまで増えていました。増田さんからすると、店舗のクオリティの低下を感じていたようです。次世代に「創業時の増田さんの思い」を伝えるため、モデル店舗を作ろうとしていました。
ところが当時の人事の責任者に現場経験がなかったこともあり、増田さんともあまり具体的な会話ができなかったようなんです。そのタイミングで長年現場で働いてきた僕が人事に来たので、「増田さんの担当をしてくれ」という話になりました。そこから新しいTSUTAYAをつくるプロジェクトが始まり、増田さんと一緒に行動するようになりました。
── 増田会長とは一緒にどんなことをしたのですか?
高橋さん:はじめは増田さんが、「店のクオリティが下がっている」とか「俺が作った創業時のコンセプトがあいまいになっている」と散々な言い方をしていたんですよ。
でも、僕はずっと現場を見てきて血気盛んだったから、「いや、現場の加盟店さんは本当に頑張っているし、熱い思いを持っています。むしろ、本部がだらしないんじゃないですか?」とちょっと言い合いになったんです。
そうしたら増田さんは「お前の言っていることを確かめるため、現場を見てみよう」と言い出し、100店舗以上一緒に視察へ。その結果、「たしかに加盟店さんたちは頑張ってくれている。でも、実際にいまのTSUTAYAはいい状態ではない。だったら、お手本となるようなモデルを作ろう。俺が店舗を実際に作るし、自分の持っているノウハウをすべて見込みのある社員に直接教えるから、人材と物件を探して来い」という話になりました。
── 増田さんから直接指導を受けられるとは貴重な経験でしたね。
高橋さん:実際、増田さんは6物件くらい新しい店を作ってくれました。更地に一から店舗を建てるケースもあったし、すでにあるビルのなかに作るケースもありました。その仕事ぶりを間近で見られるのは勉強になりました。
世間一般的に、増田さんは超人的なクリエイターみたいなイメージがあるかもしれません。しかし、実際はありとあらゆる事例を集めて、長い時間をかけて分析し、仮説を立てる。方向性が決まったら、専門性のある人に任せている人です。
人材についても、毎週のように自宅に社員を呼んで、理念やノウハウを伝える勉強会を開催しました。TSUTAYAのコンセプトや運営企画などをまとめ、コンセプトブックを作成し、誰が見てもひと目でTSUTAYAのことがわかる本を作成しました。僕は増田さんから「自分は事業を立ち上げ、ここまで大きくした。高橋は未来へつながる人材を育ててほしい」と言われました。
2009年、人事関係の会社を社内起業して社長に就き、グループ会社間の異動の仕組みなどを整えました。その後、3年間、仕事から離れて主夫になったのですが、会社に復職した際、増田さんから「データの会社を任せたい」と言われ、2021年、オープンデータで社会の活性化を目指す会社の代表取締役になりました。2022年からCCCの代表取締役副社長になり、先ほどお話したように今年4月から代表取締役社長になりました。
TSUTAYAとTポイントのこれからの在り方
── 今後、具体的にどんなことをする予定でしょうか?
高橋さん:既存の二大事業であるTSUTAYAとTポイントの刷新です。TSUTAYAは主軸だったレンタル業に代わり、カフェやラウンジを併設した書店を展開しています。出版不況といわれ、街の書店が姿を消しています。
でも、僕は日本の出版文化を素晴らしいと思っているし、書店を残したい。当社だけが利益を得るのではなく、出版社、取次、書店それぞれが協力し、パートナーシップを組んで、業界全体を変えていけるようにしたいです。
もう一点はTポイントです。来春、Tポイントを三井住友フィナンシャルグループのカード会社などが運営するVポイントと統合します。これまでポイントは、お客様を自社の経済圏に囲いこんでいく考え方でした。でも、私たちは囲いこむのではなく、インフラのような形で支援したいと思っています。買い物だけにこだわらず、たとえばスマートフォンのアプリを起動し、歩くだけでポイントがたまるような、ユニークなサービスを展開しています。
会社を経営していると、利益を出すことはとても大事です。でも、それだけでは企業は成り立ちません。きちんと人を育て、自社だけでなく、業界全体が協力し合い、よりよい展開ができるようにしていきたいです。
PROFILE 高橋誉則さん
1997年にCCC新卒入社後、FC事業本部で人事リーダー職を経て、2006年に株式会社CCCキャスティング代表取締役社長に就任。2023年4月よりCCC代表取締役社長兼COO兼CHRO。
取材・文/齋田多恵 写真提供/カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社