40代になって、ふたりの子どもを出産した杉山愛さん。はたから見れば大変な状況ですが、杉山さん夫妻はある習慣を続けることで妊娠中から支え合ったといいます。(全4回中の4回)

 

「きょうだいで見つめ合う姿が微笑ましい」高齢出産の末、無事に誕生したふたりのお子さん

40代「ふたりの子ども」を授かってからの日々

── 40歳で第一子、46歳のときには、第二子を出産されました。現在、8歳と2歳のママとして、子育ての真っただ中ですね。

 

杉山さん:現役を引退する34歳までずっとテニスひと筋で、いろんな人の手を借りながら、つねに自分のことを第一に考えて生きてきました。ですから今度は、自分が誰かを支える側になって尽くしたい、培ってきたものを還元していく人生にしようという気持ちがありました。

 

そうした意味でも、子どもを持つことは私にとって大きな夢だったんです。なかなか妊娠が叶いませんでしたが、3年の不妊治療を経て、40歳で出産、46歳のときには予想外の自然妊娠で2人目を授かることができました。

 

高齢出産のため、体調管理には気をつけていましたが、つわりが重く、つらかったんです。そのときに大きな支えになってくれたのが、夫でした。彼はポジティブな性格で、つねに私の気持ちに寄り添ってくれるので、とても心強い存在。例えば、つわりの度合いを数値で表す「つわりメーター」のアイデアを提案してくれたのも彼でした。

 

2011年に結婚された杉山愛さんと杉山走さんご夫妻

── つわりメーターとは?どういうことでしょうか。また、その発想のきっかけは何だったのでしょうか?

 

杉山さん:妊娠中、彼と車で外出していたとき、「この後、ご飯食べていく?」と聞かれたのですが、つわりで具合が悪かったので、「いや、ちょっとムリ…」と答えたら、ビックリしていて。

 

彼には、私が元気そうに見えていたらしいんです。それで「いまの体調のつらさは10段階でどれくらい?」と聞かれ、「7か8くらい」と伝えたら、「まったくわからなかった…」と。

 

そこから、妊娠中は私の体調を「数値化」して表すようになりました。数値が2〜3くらいなら、気分転換を兼ねて外出したり、7以上なら家で横になってゆっくり休むなど、数値のレベルに合わせて行動を決めるようにして。つわりだけでなく、気持ちの浮き沈みや気分など、夫婦間のいろんなケースに応用できるので、おススメです。

夫婦は「気づいて」より「伝え合う」ことが大切

── 日本は「察する文化」の影響か、「言わなくてわかってほしい」とつい相手に期待してしまいがちです。とくに夫婦間だと、相手が察してくれないとイライラしてしまったり…。

 

杉山さん:そうですよね。ただ、夫婦であっても、わかりあうための努力や工夫は必要だと思うんです。私たちの場合、夫も元プロゴルファーで海外育ちということもあり、夫婦ともにグローバルな社会を経験してきているので、「相手を理解するにはきちんと伝えることが大事」という考え方がベースにあるのが大きいですね。

 

しかも、いまや夫が「私の担当マネージャー」で公私に渡るパートナーとして四六時中一緒にいることが多いので、お互い楽しく心穏やかでいるためにもコミュニケーションは大切にしています。

 

── どんなことを意識してコミュニケーションをとられていますか?

 

杉山さん:できるだけポジティブな言葉をかけあうようにしていますね。「やってもらって当たり前」な考え方はしません。相手が何かをしてくれたら、「嬉しい」「助かった」「ありがとう」と、感謝の気持ちを言葉に出して伝えます。そのひと言があるだけで、お互い気持ちよく過ごせますから。

 

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同時に、少しでも不満や違和感を覚えたときも、きちんと口に出して伝えあいます。ネガティブなできごとも小さなうちに解決すればケンカにならずに済みますし、お互いわだかまりなく過ごせます。「衝突したくないから」と口に出さずにいると、かえって疲れてストレスになりがちですよね。対話をしながら理解を深めあっていくことで、信頼感や夫婦の絆も強くなっていると感じます。

 

── 対話で理解を深めていくことが夫婦のルールになっているのは、素敵ですね。

 

杉山さん:素直さと元気さだけが私たちの取り柄なので(笑)。それに、歳を取るにつれて自我がどんどん強くなって意固地になってしまうから、素直でいることは大事なことだと思うんです。

「夢ややりたいこと」が叶うのは夫のおかげ

── たしかに、お互い急には素直にはなれないので、ふだんから慣れておかないといけませんね。ただ、夫婦で一緒に仕事をしていると、プライベートとの線引きが難しくなったりしませんか?

 

杉山さん:じつは当初、夫にマネジメントをお願いしたものの、私としては、「仕事とプライベートが一緒になってしまうと、しんどいのでは?」と、かなり抵抗感がありました。でも、いざ始めてみたら、これがすごくよかった!話題の種類も豊富になるし、お互いの状況がよくわかるから、相手のことをより深く理解できます。

 

 一緒に働くことはメリットだらけでした。彼には、いつも夢ややりたいことを話しているので、私が興味のありそうな仕事ができるように周囲に働きかけてくれるんです。彼と一緒にいることで、夢がひとつずつ叶っていく感覚があり、幸福感もどんどん増していて本当にありがたいです。

 

── SNSでも、笑顔で仲むつまじい家族の姿をたくさん発信していらっしゃいますね。

 

杉山さん:うちの家族はコミュニケーションがすごく多くて、私はもっぱら聞き役に徹してます(笑)。

 

8歳になる長男は、コミュニケーションの取り方が夫に似ていて、とても上手いんです。会話の前に、「ちょっとこれを言ったら申し訳ないかもしれないんだけど…」と、枕詞というか、クッション言葉をつけたりするんですよ(笑)。それを聞くと思わずクスッと笑っちゃいます。多分、パパの真似をしてるんでしょうね。

 

── 8歳にしてそんな気配りができるとは(笑)。

 

杉山さん:子どもの成長には驚かされます。親を真似るから下手なことは言えませんね(笑)。

 

2歳の娘は私に似ていて、自我がすごく強いタイプ(笑)。「これ食べる?」と聞いても、「いや。いらない」と、きっぱり主張します。でも、私たちが美味しそうに食べていると「やっぱりちょうだい!」と言ってきたり(笑)。家族と一緒に過ごす時間は、私にとってなによりの癒やしになっています。

 

PROFILE 杉山 愛さん

1975年神奈川県生まれ。パーム・インターナショナル・スポーツ・クラブ代表、BJK杯日本代表監督。17歳でプロに転向、グランドスラムで4度のダブルス優勝を経験。最高世界ランクはシングルス8位、ダブルス1位。グランドスラムの連続出場62回の世界記録を樹立し、オリンピックには4度出場。34歳で現役引退後は、テニスの指導やメディアなど、多方面で活躍中。

 

取材・文/西尾英子 画像提供/杉山愛