子育て中の親御さんにはなくてはならない番組「いないいないばあっ!」。28年続く人気番組で活躍する歴代の女の子やワンワンの魅力など、番組の裏話を制作スタッフに聞きました(全2回中の2回)。
オーディションで寝てしまった女の子も
── Eテレ「いないいないばあっ!」は1996年に放送開始された長寿番組で、ワンワンと一緒に遊ぶ女の子たちはいま8代目ですね。それぞれの女の子たちの印象深かったところを教えてください。
山縣さん:初代のかなちゃんは、すでに「天才てれびくん」で活躍していたお子さん(子役)でした。何をするのも楽しんでくれるところが魅力でした。
2代目のりなちゃんは、おっとりとしたマイペースな子でした。オーディションでワンワンとゴロゴロ寝転がっていいよと言ったら、本当に寝ちゃったんです。その、のんびりした雰囲気にみんなが癒やされていました。
中村さん:3代目のふうかちゃんは弟がいたこともありしっかり者でした。赤ちゃんと一緒に遊ぶのも上手でした。
山縣さん:4代目のことちゃんは末っ子で、赤ちゃんが苦手だったんです。体操で赤ちゃんが近寄ってくると3歩下がるみたいな。外も苦手で、チクチクしているから芝生のうえに座れないと言っていました。そんなことちゃんが、いまでは保育園に関わる仕事をしているんです。本人も、周囲も誰も予想していませんでした。
5代目のゆうなちゃんはとにかく元気でしたね。度胸があったから、はじめての場所でも「お外、大好き!」と走り回っていました。6代目のゆきちゃんは、オーディションで、本当はバッタが苦手なのに、気合で触ったがんばり屋さんです。
中村さん:7代目のはるちゃんは、ナチュラルにいろんなことができる子でした。リハーサルでうまくできないことがあったら、ちゃんと家で練習する努力家なところもありましたね。いま出演中の8代目のおうちゃんは、物怖じしないタイプですね。
山縣さん:おうちゃんは活発なので、あっという間に衣装がボロボロに。
そんな女の子たちも、初代のかなちゃんと2代目のりなちゃんは、もうママですからね。「ワンワンわんだーらんど」に、子どもを連れて来てくれます。その姿を見ると、28年はあっという間だなとしみじみします。
コロナ禍前は、1年に1度、スタッフと歴代の出演者が集まる機会があり、近況報告をしていました。家族ぐるみで仲良くしていているからこそ、番組にはアットホームな雰囲気があるのかもしれません。
発想やアドリブ…ワンワンの存在感は大きい
──「いないいないばあっ!」の放送開始以来、ずっとワンワン役として活躍されているのが俳優であり声優でもあるチョーさんです。スタッフから見て、チョーさんはどんな存在でしょうか?
中村さん:ずっと少年の心を持っている、魅力的な方です。番組づくりも全力で楽しみ「こんなことをしたらおもしろいんじゃない?」とたくさんアイデアを出してくれます。私は2004年に産休を取得し、その後、別の番組を担当して2019年ころ「いないいないばあっ!」に戻っているんです。でも、久しぶりにお会いしてもチョーさんはずっと変わらないです。
山縣さん:私もチョーさんは誰よりも遊び心を持っている方だと思います。また、少し遠い未来を含め、全体を俯瞰されている気もします。番組が始まって15年目に「ワンワンわんだーらんど」というステージ公演が始まりました。スタッフみんなで「15年も番組が続いて、新しくステージ公演が始まってすごいね」と喜んでいたら、チョーさんだけは「すぐ5年後が来るよ」と言っていました。実際、20年、25年経つのはあっという間でした。
チョーさんは冷静に物事を見る一方で、シンプルに面白いと思ったことをみんなと共有しながら番組を作っている印象です。
中村さん:「こんなことが流行っているみたいだよ、番組でも取り入れたらどう?」と、話をすることも多いです。おもしろいのは、ときどきちょっと古いアドリブを入れてくることがあるんです。2022年のサッカーW杯の特番のときに、「がんばれ川口!(1998年〜2010年の間に、4度W杯に出場した川口能活選手のこと)」と言っていました(笑)。
山縣さん:川口選手がW杯メンバーに選出されたのは10年以上前ですが、チョーさん的には最近の人なんですよね。
チョーさんがアドリブで歌う曲を、スタッフが誰も知らないこともあります。出典がわからない曲は放送できないから、調べてみるとドリフターズのワンフレーズだったり。若い人はわからないネタも少なくないのですが、チョーさんとしては親子3世代に向け、おじいちゃん、おばあちゃんにウケればいいと考えているみたいです。それが家族で盛り上がるきっかけになるのも楽しいですよね。
── ワンワンの発言がSNSで話題になることも多いですね。
中村さん:放送直後に、リアルタイムで視聴者の方の感想がわかるようになりました。以前は、視聴者の方の反応は、いただいたおたよりやアンケートでしかわかりませんでした。現場に届くのは1か月くらいの時差があったので、のんびりしていましたね。
山縣さん:とはいえ、「いないいないばあっ!」に関しては、スピード感は必要ないのかもしれません。「このコーナーが好評だったから次はこうしよう」と即反応するよりも、いいコンテンツをゆっくり育てていくのが大事だと思います。
視聴者である赤ちゃんが楽しめる内容を追求していく
── 今後、どんな番組づくりをしていきたいですか?
中村さん:視聴者は赤ちゃんなので、変わらないことは大事だと思っています。長年作っていると、いつもと違うことに挑戦したくなるときもあるのですが、つねに視聴者は赤ちゃんだと忘れないようにして、大事に番組を作り続けたいです。
番組以外でも、「ワンワンわんだーらんど」は規模が大きいイベントですが、ほかにも視聴者の方とワンワンが近くで遊べるような、大小のイベントを増やしていけたらいいなと思っています。
山縣さん:私も同感です。変えない部分を大切にしたうえで、新しい要素を入れるバランスもとりたいです。去年は、オーケストラのなかでワンワンたちが歌う試みもしました。そのときどきの赤ちゃんたちが楽しめることを考えていきたいです。
PROFILE
中村裕子さん
NHKエデュケーショナル コンテンツ制作開発センター こども幼児グループ所属。番組ディレクターを経て、現在はチーフプロデューサー。番組全体を取りまとめる。
山縣由紀さん
番組ディレクター。制作会社エム.シエロ所属。番組創設時より、企画、制作、構成、演出などを担当する。25年間、ほぼすべてのロケに参加。
取材・文/齋田多恵 写真提供/NHK