産休・育休を経て3年ぶりにお笑いの舞台に復帰したぼる塾・酒寄希望さん。「4人目はいらない。裏方に徹しろ」との否定的な声に対する毅然とした反論が話題になりました。声をあげた理由を聞きました。(全4回中の3回)
「裏方」への侮辱は許せなかった
── 現在は舞台と執筆に軸足を置きつつ「ぼる塾」として活動している酒寄さんですが、「4人目はいらない。裏方に徹しろ」との否定的なコメントに対して「そういう人は裏方作業を軽んじている気がします」「私に対する悪口に裏方を用いないでほしい」と毅然と反論されていた姿が印象的でした。
酒寄さん:私が「裏方」に敬意を抱くようになったきっかけは2つあります。
ひとつは、実際に自分が裏方作業に関わってみて、どれだけ大変なことなのかを体感したこと。育休中の舞台に立てない間、You Tubeの動画編集をずっと勉強していたんですが、1本の動画をアップするのにかかる労力って、もう私の想像をはるかに超えるものだったんです。
音量調整から編集でどこをカットするかの判断と作業、照明の加減、どの発言にテロップをつけたらもっと面白くなるか…。「テレビ局の人たちって、こんなに大変なことをしていたのか!」と自分が編集する側になって初めて気づきました。
ベースにあるのは、ぼる塾のみんなをもっと面白く見せたいという気持ちなのですが、その上で最終的にはやっぱり観てくれるみんなに一番楽しんでほしいんです。その気持ちは、表に立っている人も、裏で作業している人も等しく同じだと思っています。
ロケバスの運転手さんが田辺さんのために
── もうひとつのきっかけは?
酒寄さん:ぼる塾の3人が教えてくれる日々のエピソードです。3人とも「今日はこんなことがあったよ~」という話を私によくしてくれるのですが、たとえば田辺さんが地方ロケに行ったとき、ロケバスの運転手さんが、田辺さんが前から読みたいと言っていたその地方の雑誌をバスに用意してくれて、田辺さんはそのことがすごく嬉しかったそうなんですね。
あんりちゃんも同じで、「スタイリストの人が『この服はあんりちゃんに絶対似合うと思って』といろんなところを駆け回って見つけてくれた衣装を用意してくれたことが嬉しかったと話してくれましたし、はるちゃんも「メイクさんがすごく似合う色を合わせてくれた」と喜んでいたことがあって。
そういう話をいろいろ聞いていくうちに、表に見えない部分でも、いろんな人が自分たちを支えてくれているんだな、ということがやっぱりわかってきますよね。ロケバスの運転手さんは本当なら運転だけしていればいいはずなのに、わざわざ田辺さんのために雑誌を探して用意してくれた。相手のために想像力を働かせて行動してくれる優しさ、プロ意識には、表も裏もないんだなと最近ようやく気づけるようになりました。
だからこそ、私への否定的な意見として「裏方に徹しろ」という言い回しをされたときに、どうしても反論せずにはいられなかったんです。「裏方」とされる人たちの作業や誇りを考えたら、大人げないなとは思いつつもスルーできませんでした。
── ネタ作りや動画編集など、表に見えない部分で「ぼる塾」を支えてきた酒寄さんだからこそ気づけた視点かもしれません。
酒寄さん:でもそれはメンバーが感謝の気持ちをきちんと表現してくれるおかげでもあるんです。私が動画編集をすると「いつも本当にありがとう」「大変だったでしょう。ありがとう!」と伝えてくれるので。だから、私もプライドを持って編集作業を最後までやりきれているんだと思います。
PROFILE ぼる塾・酒寄希望さん
1988年、東京都出身。2019年に田辺智加、きりやはるか、あんりとの4人で結成したお笑いカルテット「ぼる塾」のリーダー。結成直後に産休・育休に入る。育休中にnoteで公開した「育休中に相方がめちゃくちゃ売れた」が大反響を呼び、現在は舞台の他、コラムの執筆等も行なう。著書に『酒寄さんのぼる塾日記』『酒寄さんのぼる塾生活』がある。
取材・文/阿部花恵 画像提供/酒寄希望